03
私は肌寒い中、人のいない公園で一人だった。
というのも、さっき自分の家まで誠一郎を送り届けたものの、誠一郎の家がどこにあるかわからなかったからである。
財布を取り出してみるといくらかお金は入っていた。
どうしようもないときはネカフェまで行こう……
そう思いつつブランコを揺らした。
しばらく経って。
誠一郎から電話が来た。
私は少しホッとして泣きそうになった。
誠一郎に事情を話すと、家までの道のりを一通り教わって電話を一旦切った。
誠一郎の部屋は比較的わかりやすいところにあった。
家の鍵がどれか、少し探して鍵を開けた。
そこは異空間だった。
初めて上がる男の部屋。散らかしっぱなしの本、灰皿一杯になったタバコの吸殻、ペットボトル……
それらが散乱していて、とてもじゃないが、ここで生活は出来ない、そう思った。
「うえっ……」
とりあえず上がり込み、なんとなく片付けを始める。
すると、また誠一郎から電話がかかってきた。
『無事につきましたか?』
「うん、無事についたよ。今部屋片付けてるとこ」
『それはすみません……』
電話越しにも誠一郎が赤くなっているのがわかる。
「ところでさ、明日仕事とかどうしたらいいわけ?」
『あ……日大ハムってわかります……?』
「日大ハム……名前くらいならなんとか」
『俺の会社、そこなんです。明日、西原公園で綿密に打ち合わせしましょう』
「打ち合わせ?」
『これから先、いつも通りに暮らして行くことと、いつ身体が元に戻るかわからないですから、自分についてなど詳しくお話がしたいのです』
「それもそーか」
『ですから、明日8時に西原公園に集合で』
「了解」
電話を切ってから私は再び掃除に勤しんだ。
眠れなくて何度も寝返りをうった。そのたびにお腹のお肉が揺れる。
お風呂場もカビだらけで汚かった。今日は簡単に掃除をして入った。
入る前に鏡を見る。よくよく見れば下地は悪くなさそうなのに、このパンチパーマのせいでそれが台無しである。あとは駄肉がつきすぎている。これじゃ女の子は寄って来ないな……
風呂に入り、何度もシャンプーをするが、脂っこいのが落ちない。必然的に臭いも落ちない。徐々に私はいらついてきた。
六回目のシャンプーで諦めて、コンディショナーを探すが、置いていない。トリートメントも置いていない。
どういう生活をしてるんだ?と私は思いながら、よく石鹸で身体を洗った。
最初は脱ぐのすらためらったのだ。いくらなんでも、知らない、しかも異性の身体なんて見たくもなかったから。
でも、お風呂に入らず眠ることは出来なかった。それだけはどうしてもできなかった。この臭いと脂具合から言って、風呂に入らないなんてありえない。
私は下半身もよく洗い流した。
初めて触るそれは、ぐにゃぐにゃしていて、なんとも表現しづらい感触をしていた。それを出来るだけ見ないようにして、ぐにゃぐにゃと石鹸で洗い流した。
触った感触としては別に、普段の自分の肌を触るのと変わらなかった。
私はげんなりしながら風呂を上がって、タオルで身体をよく拭いた。
こんなおっさんの身体に誰がなりたいと思う?
思わないよね、普通。
私はお風呂上がりに飲み物を探したが、冷蔵庫にはビールしか入っておらず、諦めてお水をのんだ。
人の身体になるのがこんなに不自由なことだとは思わなかった。
しかも、異性の股間までご丁寧に洗うことになるとは……そこまで思って気がついた。
誠一郎も今夜はお風呂に入ったはず。ということは、だ。
見ず知らずの異性に身体を思い切り見せてしまったということだ。
しかもさわり放題。
なんということだろう。
意地でも身体が元に戻る方法を考えるべきだった。
後悔先に立たず。
哀れ私の身体よ……
私は釘を刺すべく、私の携帯に電話を入れた。
できるだけ見ないようにしている、と返事を貰い、それを信じるより他なかった。
そして今、やっと布団に入ったのである。