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誠一郎から、
『安野からしょっちゅうメール、きますか?』
とメールがきた。
「たまぁにくるけど」
と返事をしておいて、後からになって気になり出した。
安野は誠実そうで優しく、しかもイケメンだ。
気持ちがもやもやした。
どうせ好きになるなら、私を好きになってくれればいいのに……
その時湧いた感情が何か理解するまでは時間がかかった。
この感情、今まで感じたことがない感情だ。もやもやする。意味もなくイラつく。
そんなとき、安野から声をかけられた。
「先輩、何かありましたか?」
「えっ?いや、何も……」
私はパソコンのディスプレイを見たまま固まっていたようだ。
「先輩、最近疲れているんじゃないですか?ジムにも通ってるし……」
「いや、たいしたことはないよ。ちょっと考え事をしていただけ」
「それならいいんですけど」
私は伝票入力に意識を戻した。
昼休みになり、いつものごとく安野と屋上へ繰り出す。
「安野くん、誠一郎……沙織にメールしたんだって?」
「はい……でもご迷惑だったようで……」
「暇してるときは私にメールしてもいいよ」
「はぁ……ありがとうございます」
「沙織はメールとかラインとか苦手なんだよ」
「そうなんですか?」
「あいつ、メール送るの遅かったでしょ?まだスマホに慣れてないんだよ」
「そう……だといいんですけど」
そういう安野からはいつもの元気は消えていた。
帰り道、安野がうしろからついてきた。
「安野くん、どうしたの?」
「いや、俺もジムに行ってみたいと思って、見学です」
「うちのジムに?」
「はい、先輩が行ってるところなら安心だと思って」
私はため息をつきながら言った。
「安野くんならジムに行かなくても充分じゃないの?」
「俺、筋肉なくって。彼女の一人や二人くらい守れる男になりたいんです。」
「今でも充分だろ……」
私の最後の呟きは聞こえなかったらしい。よかった。
ジムにつくと、宮本さんが出迎えてくれる。安野は「見学です」と受け付けに言うと、宮本さんの後ろをついてきた。
いつものごとくストレッチから始める私。
宮本さんは安野の相手をしながら私のストレッチに付き合ってくれた。ウォーキングマシンに乗ると、ゆっくり走り出す。もうこんがらがったりしない。
このあとはダンスである。
ダンスは安野に見られたくなかった。私のよく言ってふくよかな姿を、あまり晒したくはないのだ。
そんな気持ちが通じたのか、宮本さんは違うマシンへと案内していった。
ダンスもなかなか様になるようになってきた。
いつの間にか戻っていた宮本さんに、腹筋、背筋をするように言われ、一回しか出来ない腹筋と格闘した。
安野は興味深そうに見ていた。
私は顔から火が出るかと思うほど、恥ずかしかった。
腹筋ができずに四苦八苦する私。こんな姿を安野に見せたくはなかった。安野だから、見せたくはなかった。
そう、今気づいた。
私は安野のこと、好きなんだ……出会ってから一ヶ月ほどしかないが、好きになっていたのである。
この感情をどこにぶつけるといいのだろう。
私は今は男になっている。こんな私が好きだといっても、ジョークくらいにしかとってもらえないだろう。
せめて私が沙織本体だったら、何でもしたのに……
そうなると、誠一郎との出会いからやり直すわけで、出会いからやり直すとなると、安野とは出会っていなかっただろう。
今まで好きな人はいたけれど、安野ほどに真剣に向き合えるひとはそういなかった。
初恋……だった。




