22
甘味処を後にした俺はまっすぐにアパートに向かった。
最近ではそこでくつろいでから塾に行くのが習慣づいていた。
今日もどうせ沙織は遅いだろうと、お菓子を広げゲームをしていた。
すると、珍しく沙織が早く帰宅してきたのだ。
しかも、安野を連れて。
「安野……」
思わず口にした。
「本宮さん、俺のこと話題にしてくれていたんですね!」
そう言われてはっと気づいたのだが、今の俺は沙織である。
安野とは初対面である。
そのことをすっかり忘れていた……
沙織の彼女じゃないとわかったとたんにメアドと電話番号を聞かれた。
俺は反射的に教えてしまった。
沙織が俺を睨んでいる……
でも、社交辞令のようなものだ、そう思っていた。
俺の横で二人は飲み始め、俺はジュースをもって、ちょこんとその横に座っていた。
「しかし、片付いてますねー!先輩!」
「私はきれい好きでね」
「弁当も毎朝作ってきてるんですよね?」
「あれは前日の夕食の残り」
「沙織ちゃんはどこに住んでいるの?」
「えっ?……この近所ですけど」
安野としゃべるときはバレないように気を使った。
「先輩と沙織ちゃんのなれそめを聞きたいなぁ」
それを遮るかのように沙織が言った。
「こいつとは親戚みたいなもんで、私とこいつとは関係がない」
どうも絶対彼女にしたくないらしい。
「そうなんですよ。遠い親戚で……」
そうこうしているうちに塾の時間になった。
駅一つ分戻るだけなので、最近は駅までチャリ通、帰りにアパートに寄って時間までゲームをして、それから塾へ行くようにしていた。
沙織に
「じゃあ、俺、行くから」
と言うと、安野が
「いってらっしゃい!終わって、よかったらメール下さいね」
と笑顔で言ってきた。
俺はそれをスルーするとアパートを出た。
アドレス交換とか、どうしてしてしまったんだろう?考えても答えは見つからなかった。
塾が終わり、帰りの道中、安野からメールが届いた。
「よかったらラインでしゃべらない?」
俺は
「今自転車なんで、また後で」
と返信すると、ため息をついた。
いかにバレないようにつじつま合わせをするか――それが問題だ。
帰宅してご飯を食べて風呂に入って、やっと携帯を見ると十二時を回っていた。
さすがにこの時間にメールは非常識だろう、と思っていたら、安野からメールが届いた。こんな夜中なのに、失礼だと思わないのか?!と思いつつメールを開くと
『もうご飯は食べた頃かな?寝てるならごめんね。ラインできるかな?』
「もう夜中なんでまた今度」
冷たいかもしれないが、距離を取りたかった。
朝、目覚めると安野からメールがきていた。
『おはよう。いつも何時に起床かな?わからなかったのでとりあえずメールしました。よかったら返事待ってます』
安野という男は、その辺のチャラ男とちがって、至極真面目なやつだったと記憶している。女性遍歴だってそんなに噂になることはなかった。
ただ、いつも何かしら俺を庇ってくれてはいた。
とにかく彼は真面目な人格者で、こんな、女子高生にメールをまめに打つようなイメージはなかったのだ。
なぜ俺にメールしてくるんだろう?
もしかして沙織にもメールしてるのかな?
と思って聞くと、
『たまぁにメールがくるよ』
との返事。
仲良くなりたいだけなのかな?
安野には適当に返事をしておいた。
「朝は忙しいからメールを遠慮していただけると助かるのですが」
の一文と共に。
安野はなぜ俺にメールしてくるのか謎なままだった。
もしかして、友達少ない?いや、あいつはいつも友達に囲まれていた。
俺が羨ましいと思うほどだった。




