21
翌朝は誠一郎には出会わなかった。時間が少しずれたかな?
今日も手作り弁当を下げて自転車で爽快にはしっていく。
最初はよたよたしていたのが嘘のようだ。
会社につくと大きな声で
「おはようございます!!」
と言いながら席につく。
周りは少し戸惑いながらも
「おはようございます」
と返してくれた。
どうも調子が狂う。私が挨拶をすればするほどに遠巻きになっていく。
そんな中でも普通に接してくれているのが安野だった。
「おはようございます。先輩」
このにこやかな笑顔に癒される。
安野といるとホッとする。
冗談を言い合ったり、笑いあったりできる。
たった数日一緒に過ごしただけなのに、私はどうも安野に好意を持ってしまったらしい。
とはいえ、好意以上のなにかではなくなんとなく、いい人だな、と思う程度だった。
今日も昼ごはんはいっしょに屋上でとった。
安野は本当に私によくなついていて――こう表現するのはよろしくないが――とにかく好意的に接してくれて、私はとても助かっていた。
「先輩、今日は先輩ん家で飲みませんか?」
私は二つ返事で返した。
嬉しかったのだ。
誠一郎の身体になって以来、心を許せる人がいなかった。だから、家に呼べる友達が出来たことを心から喜んだ。
今日は残業しないで帰ろう。
そう決めて二人で頑張って伝票を入力し終えた。
終業なチャイムが鳴り、二人して
「お疲れ様でしたー」
と会社を後にした。
帰り道のスーパーでお酒をしこたま買い込み、惣菜コーナーでつまみをいくつもチョイスした。
自転車のかごに乗せると、アパートまで歩いた。
道中、安野が係長の真似をしたりして、笑いながら自転車を押した。
歩きだと少し距離を感じたが、安野がいれば道中寂しくもなかった。
そうして帰ってくると、鍵を……開いていた。
誠一郎がのんびりお菓子を食べながらテレビを見ていた。
「あ……誠一……じゃなかった、沙織、来てたんだ?」
「はい、今日は塾の申し込みだけしてきて、あとは帰るところで……って、安野くん?」
誠一郎は驚いた顔をした。
「先輩、彼女さんですか?」
「いやいやいや、こいつは半分居候なようなやつで……」
「俺の話とか、しててくれたんですね」
さっきの「安野くん?」をいい方向に勘違いしてくれたようで、よかった。
「紹介します。こちら、私の……妹分の倉田沙織。沙織、こちら安野さん」
誠一郎は少し躊躇しながらもお辞儀をした。
「本宮がいつもお世話になっております」
安野は目を輝かせて返した。
「こちらこそ、いつも先輩にはお世話になっております。いやー、沙織さんですか!こんなかわいい子つかまえて、先輩も隅に置けませんね!」
「だから、彼女でもなんでもないって」
焦って言い返す私。
その挙動が余計にそう思わせているようだ。
誠一郎は反論もしない。
私は嫌だった。こんなおっさんの、しかもでブスのおっさんの彼女と言われることが。
と、思っている側から、安野は誠一郎とメアド交換をしていた。
誠一郎、もっと警戒心を持てよ!!
そんなわけで、二人は知り合いに……いや、元々知り合いだったんだから、なんというのか、とにかく、友達になった。
電話番号まで交換して、こいつらラインでもやる気なのか?と思った。
しかし誠一郎はまだラインを使いこなせていないはず。
と思ったら、最近は由美子と瞳とラインで話しているらしい。
今聞いたぞ、そんな話。
ともかく、だ。二人はこうして出会ってしまったのだった。




