表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/112

19

バリカンの音が心地よく、一瞬うたた寝をしてしまった。

ハッと気づくと、髪はほぼ坊主になっていた。

洗髪台へと案内される。

坊主だからちょっと流すだけかと思ったら、きちんと洗髪してくれる。マッサージのようで気持ちいい。

しかし、お腹が苦しい。

この体勢はお腹が出ていない人向けだな、と思ったら切なくなった。

シャンプーが終わり、席にまた案内されると、ヘッドマッサージをされる。はぁ……とろけてしまいそうだ。

肩のマッサージまでしてもらう。これだから美容室はやめられない……


私は鏡の中の自分をみて、なんて醜いのだろう、と思う。坊主になってさらに太っていることが強調されたように思う。だが、仕方ない。絶対痩せてやる、と気合いを入れ直した。


お金を支払うと、ジムに自転車を走らせた。

ジムについたのは八時過ぎだった。

早速宮本さんに見てもらいながらストレッチを入念にする。

今日はこの後ウォーキングマシンでアップした後、ダンスのレッスンを受けることになった。


ウォーキングマシンには今まで散々にやられてきたので、今日こそはゆっくりスタートしてやろう、と気合いを入れた。


ウォーキングマシンを四十分ほど続けると、汗が滝のように落ちた。軽いジョギングである。

四十分を過ぎた頃宮本さんがやって来て、ゆっくりペースに戻した。今度はうまくいった。なにやらコツがあるらしく、それをつかむとすぐにウォーキングマシンには慣れてしまった。

「十分休憩を挟んだら、九時からのダンスに参加しましょうかね」

と言われた。

私はダンスは得意だった。小学校の頃、バレエを習っていたおかげもあってか、ダンスの授業は得意中の得意だった。


スポーツドリンクを飲みながらしばし休憩をとる。

「本宮さんはダンスはお好きですか?」

と宮本さんに聞かれ、

「うん、大好き。得意」

と答える。

宮本さんはうんうん、と嬉しそうに頷くと、新たな部屋へ案内してくれた。


女性が多い。

「ダンスは女性が取り入れやすいですからね」

と宮本さん。

そこに講師である女性が顔を見せた。

「大久保ちゃん、こちら本宮さんね。今日からダンスを始めることになったから、よろしく」

宮本さんが言うと、大久保と呼ばれた女性はにこやかに

「本宮さん?大久保です。よろしくお願いいたしますね」

と声をかけてきた。

「よろしく」

と私が返すと手をさしのべてきた。

わからないまま、手を出すと固く握手された。

熱血は苦手である。だがしかし、今回は痩せるためにお世話になるんだと思うと、不思議と嫌だとは思わなかった。

宮本さんが、じゃあ、あとはよろしく、と言って立ち去る。

大久保さんが、

「どうしてダンスを始めようと思われたんですか?」

と尋ねてきた。

「私、痩せたくてここに来たのに、まだ筋力とかなくて……まずは身体を動かすところからがいいだろうって」

大久保さんはうんうん、と頷くと、

「多少きついところもあるでしょうけど、しっかり見ていくので安心してください」

と優しく言った。

私はすっかり安心してしまった。


いざ、ダンスが始まると、立つ時の姿勢から、基本の動きというものを教えられた。

私は立ち方が悪いらしく、もっと背筋をピンと伸ばすようにと言われた。

基本の動きも、頭には入ったのだが、身体がうまく動かない。ついていけない。

リズムに乗る以前の問題だ。

私はダンスは得意だとたかをくくっていた。しかし、誠一郎の身体では思うように身体が動かなかった。

ジレンマが私を襲う。

イライラしてきた。

だが、今発散するのはダンスの場でしかない。

私はとにかく必死でプログラムに食いついていった。

五十分経つとダンスは終了した。


フロアに戻りながら、大久保さんが言った。

「ダンスって結構大変でしょう?」

「はい、あんなにきついとは思ってもみなかったです」

「でも、その分効果はてきめんなので、頑張ってついてきてくださいね」

笑って大久保さんは事務所に戻っていった。


私はシャワールームでシャワーを頭から浴びた。

頭から浴びたことなんて、プールの時間くらいだったが、髪を短く切ってしまったので楽勝だった。


シャワーを浴びながら、私は泣いていた。

こんな簡単なダンスすら出来ない自分の身体に。

そしてそれに負けてしまいそうになる自分の心に。


泣きながら、いろいろなことを思っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ