14
翌朝。
俺は目覚ましの音で目を覚ました。
ずいぶん着替えも慣れてきたし、姿見を見るのは苦じゃなかった。
むしろ、喜んで見た程だ。
今までは姿見なんて使うこともなかった。
というのも、今までデブで姿見なんて見ようものなら、発狂してしまいそうになるからだった。
制服にさっと着替え、階下へ降りていく。
「沙織ー!早く起きなさい!」
ダイニングに入るのと同時に母が叫んだ。
「もう起きてますよ」
そういいつつ、定番と言われた席につく。
今日のご飯はオムレツとベーコン、ほうれん草の和え物だった。
毎日仕事もしながら家事をこなす母を、いつの間にか尊敬し始めていた。
「はい、沙織、お弁当ね」
母は完璧である。
娘の俺が何にも手伝わないことが、気が引けてきた。
今日は帰ったら料理の手伝いでもしてみよう。
そんな気分にさせられた。
駅までの道で沙織とすれ違った。
沙織は大きな声で言った。
「おはよう、誠一郎!」
だがしかし、俺は返事が出来なかった。今までもそうだが、どうも挨拶は苦手らしい。
その上、『誠一郎』と言ってくる相手にばか正直に「おはよう、沙織」などと、周りが不審におもうことをしたくなかったのだ。
ゆえに、無視して学校へ向かった。
学校へつくと、携帯が光っていることに気づいた。沙織からである。
『ちょっとー、無視はないんじゃない、無視はー。今日も伝票入力だぜ』
と、書類の山をバックにピースサインをしている自分の写真を送ってきた。
なに考えてんだ、あの馬鹿は……
とりあえず朝の挨拶をしなかった件について、返事をしておいた。
そこへ、由美子と瞳がやって来た。
「昨日さぁ、どこに行ってたの?」
由美子が強い口調で聞いてくる。
「え……家にいたけど」
「嘘つきは泥棒の始まりってよく言うよねー」
見下げたかたちでものを言う瞳。
「家にいたなんて、なんでそんな嘘つくんだよ?!」
肩を小突かれる俺。
こえぇー!女子高生こえぇー!今すぐ逃げ出したいよ!
「嘘……ついてないよ?」
恐る恐る言う俺。
「じゃあ、これはなんなわけ?」
そこには昨日アパートの鍵を開けようとしている写真が撮られていた。
「彼氏?」
瞳が聞いてくる。頭をぶんぶんと横に振る。
「じゃあ、これはどういうこと?」
追い詰められた俺は、
「し、親戚のお兄さん家。お母さんに言われて、ちょっと手伝いに!!」
「ふうん、親戚、ねぇ……」
そこでチャイムがなった。
私はチャイムに救われた。ありがとう、チャイム!!
授業中は言い訳を考えるのに必死だった。
しかし、そこまで気に病む必要はなかったのかもしれない。
なぜなら、次の休み時間には、今日は甘味処に寄って帰ろうという話になったからだ。
しぶしぶ了承する俺。
俺が嫌なのは、会話についていけず、ぼっちになることだ。
沙織にそんな経験させることは出来ない。
会話に混ざるしかないのである。
放課後、俺は瞳と由美子と甘味処までやって来た。甘味処は繁盛しているようで、席は最後の一つであった。
「ラッキー」
「まじ、ラッキー」
口々に言いながら座る俺たち。
メニューを見ても、いまいちピンとこない。
「沙織、いつもの食べないの?」
「いつもの?」
「そう、いつもの」
いつものって何だよ!名前で言えよ!!
若干焦りながらメニューに目を通す。
「たまには違うメニューも食べたいですからね〜」
なんて言いつつ、メニューを漁る。
クリームあんみつ……これなら食べれるかもしれない。
「決めた!クリームあんみつにする……」
「なんだ、結局いつもと同じじゃん」
目の前に置かれる美味しそうなデザートたち。
俺はわき目もふらず、クリームあんみつに夢中になったのであった。