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由美子と瞳は、一旦引き下がったように見せかけただけだったのだ。


駅を三つ挟み、俺はアパートへ向かった。つけられているとも知らずに。


持っていた合鍵でアパートへ入る。

ふぅ、とため息をつき、癖でタバコを手にした。

いつものごとく深く吸い込む。

「うぇぇっ」

強烈な吐き気と目眩に襲われ、シンクで嘔吐した。

唇がじんじんする。

タバコって、こんなに不味いもんだったっけ?


俺は手元にあったコップでうがいをすると、吐瀉物を流した。


ってことは、ビールも……

妙に興味が湧き、冷蔵庫のドアを開けた。



「うぃ〜っく」

俺は三十分後、出来上がっていた。


そんな俺の電話が鳴る。沙織からだ。

『もしもーし?』

「もしもひっく」

『今仕事終わったよー』

「大丈夫っく、でした、か?」

『うん、なんとかね。そっちはどうだった?』

「はい、っく、うまくいったと思います……」

だった、と断言したいほどだ。

『どうしたの?様子がおかしいけど』

「ちょっと、ビールを、っく、飲んで……」

『ちょっとちょっと、大丈夫なん?私、今からジムに申し込みに行ってくるからまだかかるよ?』

「ら〜いじょうぶ、ちょっと休憩すればよくなるから……」

『それならいいけど……』

沙織は不安そうな声をあげる。

俺はそんな沙織に大丈夫、大丈夫と言って電話を切った。


しばらくして、ガチャガチャという鍵を開ける音で目が覚めた。

ハッと時計を見ると、八時過ぎている。門限まであと一時間を切っていた。

「誠一郎、まだいるの?」

靴を脱ぎながら沙織が声をかけてきた。

「早く帰らないと門限になっちゃうよ!」

俺の身体を起こして沙織が言った。

二日酔いな気分だ。気持ち悪い。頭がガンガンする。

沙織に起こされてなんとか起き上がった俺は、いそいで帰宅準備をする。

沙織が、自転車で送っていくと言って聞かなかったので、送ってもらうことにする。


アパートから出た俺は、沙織の荷台に乗せられ帰宅した。九時、五分前だった。


道すがら、携帯はがんがん鳴った。ラインの音だ。

沙織に相談すると、メールとかでスマホに慣れてから加わったほうがいいと言われ、今日も放置プレイだった。

練習がてら、沙織にメールする。まだ帰宅していない様子。あぁ、夕飯なにか買っておいてやればよかったな、と思う。


というのも、沙織のこの、十数万円ある小遣いの使い道がわからなかったせいもあったし、なにより貧乏暮らしな俺の本体を気にしていた。


沙織からメールの返信がある。九時十五分だった。

ということは、沙織のいるアパートからここまで、約二十分自転車でかかるということだ。


自転車で送ってもらったはいいが、あまりよたよたするので、途中からは歩いて送ってもらったのだ。

俺自身、自転車なんて久しぶりに引っ張りだしたので、乗れるかどうだかわからなかったのである。よたよた走るその姿を見て、大丈夫か……?と思ったのは言うまでもない。

筋力が衰えているのだ。全然運動もしていなかったし、歩きすら面倒でほとんどしなかったくらいなので、自転車に乗れたこと自体が奇跡のようなものだった。


それにしても、一日、疲れた……

風呂場でぱいもみを満喫すると、俺は風呂をあがった。


携帯が青く光っていた。

沙織からのメールだ。

『係長からいじめられてるって聞いたけど』

「いえ、そんなことはないですよ。風当たりが少し強かっただけで」

『とにかく、明日の仕事はなにをしたらいいの?』

「伝票入力は終わりましたか?」

そういえば、今日一日、沙織がどうやって乗り切ったのか聞き忘れていたな……と思いつつ、眠りに落ちていった。

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