111
私は、内心とても幸せな気分になった。
やっぱりすみれも私を好きだと言ってくれた。
こんなに喜ばしいことはあるだろうか?
ただ、気になるのは沙織のことだった。
沙織はもうそいつと付き合っているのか?幸せか?それが気がかりで仕方なかった。
ファミレスのあとは少し時間も遅くなったことだし、すみれを駅まで送り届けることにした。
「係長、さっきのお返事ですが」
えっ、もう返事?
私は慌てた。
「元カノさんが、アパートに来なくなったらお話をうけようと思います」
私は仕方なく
「わかった……」
と返事をした。
誠一郎がアパートに来なくなる確率は非常に低い。
アパートを息抜きの場にしていることは確かだし、それを追い出せるほど俺はできた人間じゃない。
今まで好きだった気持ちも、そう簡単に消えてしまうものでもない。
誠一郎のことは、今でも大切だ。
それは中身が入れ替わったとか、そういうものではなく、誠一郎を心底愛していると言って過言じゃない。
でも、実際には好きな人ができた。
これはどういうことなのか……
誠一郎は相変わらずうちに出入りしている。
すみれと付き合うためには、心を鬼にして追い出さねばならない。
しかし、それが私にはできなかった。
どうして?と聞かれてもどいしてだろうね、と答えるしかなかった。
すみれのことは好きだったが、誠一郎以上ではないことを私は思い知った。
すみれに謝らねば……
しかし、当のすみれは、アパートで誠一郎と鉢合わせして以来、距離が出来てしまったと思う。
お昼を誘ってもいきません、と言われるし、夕食の誘いなどもってのほかだった。
誠一郎のことを謝りたくても、無視されることが多かった。
仕事の上での会話はあったが、それ以外はしゃべることもなかった。
ここまで無視されるなら、すみれのことはどうでもよくなってきた。
誠一郎はあれから、頻繁にアパートに来ているようだったし、元サヤかな、なんて思っていた。
そんなある日、すみれの方から夕食の誘いがきた。
私はあるがままを伝えよう、そう決めた。
夕食はファミレスだった。
すみれはあらかじめ用意されていたかのようにしゃべりだした。
「係長、この前の返事の件ですが、どうなりましたか?」
私は大きく息をすいこんで言った。
「ごめん、沙織を追い出すことはできない」
「それは沙織さんと別れるわけにはいかないっていうことですか?」
「いや、別れたのは別れたんだ。向こうにも彼氏がいるようだし」
「じゃあなんでいつまでものさばらせておくんですか?」
「のさばるって言葉はちょっと……」
「あぁ、すみませんでした」
すみれはさらっと流した。
「というか、やっぱり沙織を忘れられないんだ。この間の話はなかったことにしてほしい」
「最低ですね」
「そう思うだろうね。ごめんね、振り回したりして……」
「いえ、あれから私も気になる異性をみつけたので、私も最低です」
そう言ってすみれは笑った。
私も乾いた笑いで返した。
そんなタイミングで料理が運ばれてきて、相変わらず私は肉を、すみれはコーンスープを堪能した。
静寂が訪れるが、イヤな雰囲気ではなかった。
「会社で無視したりしてすみませんでした」
「いや、私もそのくらいされるのは当然だったと思うから」
「じゃあ、これからはお互いの恋に向けてがんばりましょう」
「そうだね。それがいいよ。困ったことがあったら何でも相談してね」
私たちはお互い違う目標に走り出していた。




