表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/112

11

私は、隣の席の男性に、仕事はなにをすればいいのかを聞く決心をつけた。


大真面目に聞いているのに、へらっとした態度で教えてくれない。

「なにを今更聞いてきてるんですか?」

「いや、今日の仕事ってなんだったかなと思って」

「本宮さん、冗談きついっすよ。今日はそこのデータの入力をする予定だったんじゃないですか?」

一応、教えてくれた。

パソコンをつけ、起動を待つ。

女性社員がコーヒーを淹れて持ってきてくれた。

「あのー、砂糖とミルクはどこにあるのかな?」

聞かれた女性社員は驚きの色を見せた。

そして、

「少し待っててください」

と言うと、砂糖とミルクをわざわざ席まで持ってきてくれた。

私は女性社員にお礼を言うと、コーヒーに入れてかき混ぜた。


そうこうしているうちにパソコンが起動し、私はデスクトップ上にあるエクセルの表をクリックした。

タイトルからしても、これに違いないと思う。

書類には付箋紙がついていた。おそらくここまで入力済みということだろう。

再び隣の席の男性を呼び、この表の入力の仕方を聞いた。

男性は怪訝な顔をしながら教えてくれた。


なるほど、この数字を入力していくのね。分かりやすい仕事でよかった……


隣の席の男性はまだ訝しげな顔をしてこちらを見ている。


私はそれを振り切るようにして入力に没頭した。


気がつくとお昼休みになっていた。私はコンビニに買いに行こうと席を立つ。

しかし、コンビニの場所がわからない。

しかたなく、また隣の席の男性に聞くと、自分も行くところだから一緒に行きましょう、と言われる。

春先の暖かな風が吹く。

そんな中で、私は男性と連れ立って歩いていく。


男性の名前は安野(あんの)。私より一つ後輩らしい。


安野は聞いてくる。

「本宮さんが話しかけてくるって珍しいですね」

え?そうなの?

「なんだか朝から様子がおかしかったですし、何かありましたか?」

ヤバい、何か疑われている。

「いや、たまには私にもそういうことがあるもんで」

「仕事の内容、わかってらっしゃらないんですよね?」

「えぇ、まぁ……」

「ストレス……ですかね?」

「ストレス?」

安野は伸びをしながら言った。

「先輩、結構係長から嫌がらせされてるじゃないですか」

「嫌がらせ?!」

「周りは何も言いませんけど、俺は気づいてましたよ」

「私、嫌がらせされてるの……?」

ちょっとショックだった。

いや、だいぶショックだった。誠一郎はそんなことを一言もいわなかったのだ。

「きつくなったら言ってください。俺に出来ることは手伝いますから」

安野のこの一言で、ずいぶん気分が楽になった。


コンビニへいくと、惣菜パンとサラダを買って安野を待つ。

「先輩、まだ体調悪いんですか?」

「え?なんで?」

「だってそんな量じゃ足りないですよ」

「そんなことはないよ」

と否定しつつ、昨日の食欲を思い出した。

安野にちょっと待ってて、というと、カレーを購入してきた。これで足りるだろう。お茶はカロリーオフのお茶にした。これならなんとか食べてもいい範囲内だろう。


「しかし、先輩がこんなにフランクに話しかけてくれるなんて、夢みたいですよ」

「なんで?」

「だって先輩いつも端の席で一人で黙々と食べてたし、なんか、悪いんですけど、話しかけづらいっつーか、なんつーか……」

「そうなんだ」

「そうなんだって、他人のことを言うみたいに言わないでくださいよ」

安野は笑いながら言った。

安野がいれば、なんとか安心かな……私はそう思い始めていた。

ラッキーなスタートだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ