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私はすみれをアパートに連れて帰ってきた。

部屋の電気がついているかも確認せずに、ドアを開け驚いた。

そこにいたのは誠一郎だったからだ。

もちろん

「部屋は自由に使っていい」

とは言ったが、最近はでいりしていないようだったので、油断していた。

誠一郎は私をお兄ちゃんと呼び、親戚のフリまでして私を庇ってくれた。それが愛情からくるものなのか、そうでないのかは判断出来なかった。


別に下心あってすみれを呼んだわけではなかったが、そそくさと帰って行った誠一郎に申し訳ない、と、すみれはそればかりを口にした。


確かに親子ほど年齢が離れているのに、私は部屋にすみれを呼んだ。

エッチなことをする気はまったくなかったが、これでグレーゾーンに片足を突っ込んだ形となり、すみれは帰る、と言い出した。

仕方ないので、近くのファミレスで食事をしてお別れすることとなった。

「あの子が係長の彼女さんですか……?」

重たい沈黙を破ったのはすみれの方だった。

「いや、先日別れたんだ……でも部屋は自由に使っていいと言ってあったんだ」

そう言うと私は下を向いた。

「なんだ。そうなんですね。係長もてるだろうから、ひくてあまたなんでしょうね」

とすみれは遠くを見つめてそう言った。

「おいおい、そんなことはないよ」

私は慌てて否定した。

平野さんのことがあったし、否定するのもどうかなと思ったのだが、これまでの人生、孤独死してもおかしくない生活を続けていたことを誠一郎から聞かされていたので、否定した。


しかし、すみれはなぜそんな顔をして言ったのだろうか?

そもそもついてきてくれたこと事態がなぜだろう?私は考えた。

そして結論を出した。


すみれは私のことが好きなんだ。と。


この仮説は間違いないだろう。

じゃなければ、ご飯食べにうちに寄る?なんて言葉に反応したりしないはずだ。

いくら係長とはいえ、そんな言葉でひょいひょいついてくるわけがないだろう。


ファミレスでの食事になってしまったが、私の部屋で食事をするということが特別なんだと気づく。


やがて食事が運ばれてきた。


気まずい雰囲気も一旦は和やかになる。

すみれはコーンスープに舌鼓をうち、私はステーキをがつがつ食べた。


食べ終えたら少し雰囲気もよくなり、落ち着いて話も出来るようになっていた。


「それにしても驚きました。係長の彼女が高校生だなんて」

ふふふ、とすみれは笑い、私はそれに返事をした。

「お互い気になる人が出来てしまったから、別れたんだ」

「気になる人?」

「ああ、こんなところで言うのもなんだが」

私は唾を飲み込んだ。

「私の気になる人っていうのは、倉橋くん、君なんだ」


目を見て言えなかった。

なんだか誠一郎を裏切っているような、そんな気持ちになった。

別れたんだから、これでいいはずなんだけどこれを言うのには一瞬ためらった。


すみれの反応は……

思い切りゆでダコのような色に染まり、私は周囲をうかがった。

ホッとしたことに、周りは誰も気づいていないようだった。

「倉橋くんの返事を聞きたい。もちろん今日じゃなくて構わない」

「――私は――」

私はごくりと唾を飲み込んだ。

「――私は、係長のことが好きです……」

思わずガッツポーズをしてしまいそうになる私。

「――でも、彼女さんの件もありますし、すぐにお付き合いする気はありません」

どこまでも謙虚な姿勢のすみれ。

そこに惚れたんだけど、こればっかりは無理らしい。


私は、彼女、ね……と小さく呟いた。

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