表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/112

10

気合いをいれて通学をした俺は、校門の近くで声をかけられた。

「おっはよ〜沙織〜!風邪、もう大丈夫なん?」

「あ……えぇ、大丈夫です」

これは誰だろう?やたら親しげに話しかけてくる。友達の名前くらい聞いておくべきだった。後悔先に立たず。彼女が誰なのかもわからないまま、俺は会話を続けることになった。

「――でさ、困って瞳に相談したんだわ。そしたら――って、沙織、聞いてる?」

「えっ?なんでしたっけ?」

「どうかあるの?今日はやけによそよそしいし……」

「そんなことないですよ!いつもの俺です!」

そのセリフに彼女が怪訝な顔をする。

「……俺?」

焦る俺はすぐに言い直した。

「私。私!」

「な〜んか、怪しい……」

その時、他の友達から声がかかった。

「おはよー。由美子、沙織!」

「おはよー」

「おはようございます」

そうか、彼女は由美子と言うんだな。それがわかっただけでも大収穫だ。

「由美子さん」

「え?」

「今挨拶した彼女は、名前なんていうのかな?」

「え?……瞳だけど、どうしたの?なんか変だよ?」

「ううん、大丈夫。なんでもないです」

二階へあがると、俺は由美子の後ろへついて、教室に入っていった。

「沙織?自分の教室に行かなくて大丈夫なの?」

「あ、あぁ、今から行く。教室どこでしたっけ?」

「C組だけど……あんた、ホントに大丈夫?」

「はいはい、大丈夫です」

ありがとう、とお礼をいうと俺は改めて教室に入っていった。


だが、席がどこだかわからない。

ふと見ると、さっき声をかけてくれた瞳がいた。

「瞳さん」

「え?」

「俺の席がどこかわかりますか?」

「俺?」

「席どこか忘れちゃって……」

「席ならあそこだけど」

一番窓際の一番後ろの席を指差した。

ありがとう、と俺は言うと席に座った。

俺が席に座ると同時に鐘が鳴った。



俺は席につけたことですっかり安心していた。


ホームルームが終わり、授業まで少しだけ時間があったが、ボーッと座って過ごした。

その過ごし方も沙織とは全く真逆だとは知らずに。


「な〜んか、おかしくない?」

「うん、おかしい」

休み時間、俺はなおも席に座り続けていた。


そんな俺に由美子と瞳が話しかけてきた。

「沙織ー」

「今日カラオケ行かない?」

「え……今日?」

「うん」

今日は帰りにアパートに寄って帰りたかった。

俺は断る口実を探してしばし口ごもった。

「今日は……今日はちょっとダメです」

「えー?なんでよ?行こうよー」

「っていうか、なんで敬語なわけ?」

「そ……それは……」

うはぁ、女子高生、こわっ。

「お、親からね、厳しく言われたんだ。だから……」

「えー?嘘だぁー。沙織ん家放任っぽかったじゃん」

「そ、そ、それがダメですっていうことになって……」

「せめて敬語はやめよーよー」

「他人って感じがして感じ悪っ」

「わ、わかった。敬語は使わないようにするから」

汗が吹き出る。

全身から。

「……で、今日は何の用事があるわけ?」

「よ、用事というか……そ、そうだ!体調がよくなくって……」

「まだ風邪なん?」

「う、うん。本調子じゃなくって……」

なら仕方ないか、ということで、由美子と瞳は退散していった。


俺はこの場を乗り切ったのだ。

……そう思った。


風邪がまだ酷いことをアピールすべく、咳こんでみたり、そんなことを繰り返しながら1日をなんとか過ごした。


由美子と瞳は、もう諦めた、そう思っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ