01
私は女子高生生活を満喫していた。
携帯はキラキラ輝くスワロフスキー仕様。ミニスカに可愛いバッグ。ipod片手に、ピンクのイヤホンをする。
目はぱっちり二重、さらさらのロングヘアー。唇は小さく、淡いピンクに染まる。
完璧な女子高生だ。
どこからどう見ても可愛い、充実した女の子だ。
今朝は朝から眠たくて仕方なかった。
昨日はラインで盛り上がっちゃって、睡眠時間が足りていなかったのだろう。
二限目の数学の時には眠気もピークに達していて、うつらうつらと眠りかぶってしまい、ノートをとれなかった。
「ごめん、由美子ー。数学のノート写させて」
親友の由美子に言い寄る。
「授業中寝ている人に貸すノートはありません」
「えぇー。なんでよ、ケチー。じゃあいいもん。他の誰かに貸してもらうから」
「えぇー。じゃあ貸してあげる。夕方までに返してよね」
そう言われると私は数学のノートを写す作業に取り掛かった。
今日の授業は半日。由美子と他の友達とカラオケランチ。
歌をがんがん入れて歌う。
私にはそういう日が日常だ。
その日も普通に、何事もなく過ごして、帰りに甘味処に寄って、帰宅するつもりだった――
それは突然にやって来た。
出会い頭、というやつだ。
私がその男と出会ったのは。
住宅街の交差点を左に曲がったそのとき、その男とぶつかった。
私はしばし気を失った。
「もしも〜し?大丈夫ですか?」「もしもーし?」
何十回も呼び掛けられてやっと目を冷ました私。
ハッと気づくと自分の姿から呼びかけられている。
起きて自分の身体をみてパニックする。
これ、私?
なんだか腕の毛がもじょもじょはえているんだけど。
お腹もつかえてうまく起き上がれない。
全体的に重だるい感じ。
半泣きになっている私の身体が、私の目の前で泣き始める。
夢?幽体離脱?ドッペルゲンガー??
「あぁ、泣かないで、私」
自分の声が自分の声じゃない。
私はどうしちゃったんだろう……不安でいっぱいになる。
「なんだっていうのよ?!」
私は叫んだ。
すると目の前にいる私がぽつりぽつりと言い始めた。
「さっき、ぶつかったときに、中身だけ入れ替わっちゃったみたいなんです」
中身だけ……ってことは、今私、どうなっているの??
ショーウインドーを見て驚いた。
私、おじさんになってる??この驚いているのは自分だよね?
「あぁ、どうすれば元に戻るんだろう……」
私は酷く混乱した。コレってどういうこと?
確かに身体はおじさんになっているようだし……
深呼吸して落ち着こうとした。
そのとき、目の前にいる私が、制服で鼻を拭おうとしているのを見て、慌てて止める。バッグからハンカチを取り出すと、鼻を拭いてあげた。
「どうしよう……私、このままになっちゃうの?」
やっと事態を把握した私は泣きそうになった。
いや、泣いてしまった。
「あぁ、泣かないで下さい」
彼が言うが、涙が止まらなくなってしまった。
彼がハンカチを渡して慰めてくれる。
私はハンカチで思い切り鼻を拭くと、自分の身体を確認し始めた。
スエット下をはいた足元は草履である。
腕には毛がモジャモジャ。中年太りとデブなお腹のせいで、足元は見えない。
今までに経験したことのない臭いが漂う。
彼は、
「これからどうしましょう……」
と頭を抱えた。
どうしましょうは私が言いたい言葉だよ……
「とりあえず自己紹介を……私は倉田沙織」
「俺は本宮誠一郎」
名を名乗りあうと、二人してため息をついた。
少し冷静になってきた私は言った。
「とりあえず、今日はもう帰らないと。お母さんが心配するし!」
「ですね……」
もうすぐ九時だ。
「私が家まで送るから、ついてきて」
「ですね……」
私は先頭に立つとそう言った。