第四章⑥
舞鶴の港から、汽笛を鳴らし、様々な色の巨大なコンテナを積載した船が出ていく。遠くの埠頭では外国から来た船のコンテナをクレーンで日本に入れていた。金属が擦り合う音は、ずっと聞こえている。日本の西の都市へ向かうトレーラの乱暴なエンジン音も聞こえている。空は早くも暗くなり始めていた。港はライトアップされている。色は警戒色が中心だ。警戒色の不規則な点滅は誰かが仕掛けた演出かもしれない。それは見ていて飽きない。
スズたちは港の比較的静かな、かまぼこの形状をした倉庫が建ち並ぶ区画にいた。イエローのメガーヌはガードレールに寄せてエンジンを掛けたまま停まっていた。丁度真下にトンネルがあり、海に向かう道路が西に伸びていた。海は近い。塩分の多く含んだ空気は肺を突き刺すように冷たい。
「それがスーツケース?」スズはブランケットを掴む手に力を入れながら聞く。
「ええ、」リアトランクの中のスーツケースを触りながら、マリは頷く。「どう、結構大きいでしょ?」
スーツケースは光沢を放つ赤。トリコロールカラーのベルトが巻き付いていた。スズはもっと小さめで、古風なものを想像していたが、実際のものは魔女一人くらいなら入れそうなサイズで、キャスタ付きのモダンな造りだった。
「それに、よいしょ、」マリはスーツケースのアスファルトの上にスーツケースを降ろした。「とても、重たいの」
「この中に空閑が?」
「ええ」マリは頷き、スーツケースの上に腰を降ろして足を組む。
「向こうの、」ガードレールの傍に立ち、跡見がスマホの画面でエナガの居場所を確認して、その方向に指を指す。「あの円筒型のビル、さっきまでいたマクドナルドに似ているビル、その隣のビルだな、おそらく、」言って跡見は息を吐く。「……弱ったなぁ」
「ええ、」雪緒が頷く。「海上自衛隊の建物ですね」
「どうして分かるんですか?」メガーヌのボンネットに体育座りをしているカノンが聞く。
「旗がある」日本国旗、それから長方形を四つの三角形に区切って色を付けた旗が、確かにそのビルの上にはためいていた。
「どうしてそんな場所にエナガが?」スズが聞く。
「さあ、」跡見がその方向を見ながら首を横に振る。「雪中遊禽連盟というのはもしかして、国政が絡んだ組織かもしれないなぁ」
「本当ですか?」
「いや、違うだろうが、」跡見は薄ら笑いを浮かべながら顎を触っている。「でも、うーん、これからの予測が立たないなぁ」
「考えてないでとにかく、」マリはスーツケースのキャスタをガラガラと転がしながら歩き始めた。「行かなきゃ仕方ないでしょ?」
ベニは無言でマリの後ろに付いて歩く。
「あ、待ってよ」カノンがボンネットから降りて、マリに追いつく。
跡見がメガーヌのエンジンを切る。そして雪緒と並んで歩き出す。
スズは夜空を見上げていた。
空気が澄み切っていて、星がよく見える。
「スズ、」マリが大きな声で呼ぶ。「何してんの?」
「綺麗な星屑」
スズも歩き出す。




