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ヴェルヴェット・ギャラクシィ・ブランケット/甘い口どけ髪は紅  作者: 枕木悠
第一章 幼馴染のライトニング・ボルト
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第一章③

 このブランケットがなかったら死んでいたと思う。

 このヴェルヴェットのブランケットにはよく分からない魔法が編み込まれていて、スズのことを守ってくれる。ライトニング・ボルトが痛いのは変わらないけれど。

 逆にブランケットがあるから、メグミコは容赦しなかったのだと思う。

 つまり。

 卵が先か、ニワトリが先か。

 違う、違う。

 思考はライトニング・ボルトによって覚束ない。

 とにかく。

 しばらくメグミコ以外の女の子にキスするのはやめとこうと緩い決意をするスズだった。

 そして今はメグミコの部屋。畳の枚数は十二枚。スズのマンションよりもずっと広い。部屋はアニメキャラのポスタとタペストリィと抱き枕カバァに彩られている。布団は敷かれたまま抱き枕の横にティッシュ。東側の壁一面に設置された本棚はエロゲのパッケージと漫画に埋め尽くされている。色調は全体的に薄い紫色。一年中、紫陽花色の部屋。スズとメグミコは部屋の中央の炬燵で温まっている。炬燵の上にノートパソコンがあって、壁紙はメグミコのお気に入りのキャラクタのビシャモンテ。

「ふあぁ、暖かい、」スズは欠伸をして炬燵の上の漆塗りの容器に入ったおせんべいに手を伸ばす。「それで、メグ、私に伝えたいことがあるって、何?」

「私は室茉スズを愛しています、」メグミコはマウスを操作して愛にあふれたロックンロールを再生した。そしてミュージックプレイヤを最小化してメールソフトを起動させる。「あ、コレなんだけど、見てくれない?」

「んー?」スズは画面に表示された文字の並びを見る。


 ご案内。

 きっと今夜深夜零時過ぎ。

 南蘋型録八十一番、空閑。

 世界の平和と未来のために回収にお伺いさせていただきます。

 回収はすぐに終わります。騒音もありません。

 鍵のあるものにしまっているのなら開けて置いてください。

あるいは隠しているのなら、分かりやすい場所に置いておいてください。

 回収の邪魔はくれぐれもなさらないように。

 世界の平和と未来のために。

雪中遊禽連盟。


「何コレ?」

「スズはどう思う?」

「どう思うって、」スズはメールを見返しながら答える。「悪戯でしょ?」

「やっぱりそうだよね、でも、普通のスパムじゃないみたいだし気になって、なんびんかたろぐってなんだろうね?」

「くうかんって何?」

「分かんない、雪中遊禽連盟ってなに?」

「知らないよ、政治結社? NPO団体? それとも野鳥の会? 字面から利権の匂いはしないけど、」スズは雪の積もる池を泳ぐ鴨を連想する。「今日届いたメール?」

「うん、二時間前くらい、気になってゲームに集中できなくて、スズに電話したの」

スズはしばらく無言で画面を見つめていた。「きっと誰かが何万人に向かって送信した悪戯だよ」

「うーん、ま、そうだよね」

 そのおり部屋がノックされる。「お嬢様、紅茶をお持ちしました」

 メイドのジェリィのふわふわとした声。それに反応してスズは立ち上がって扉を開けた。紅茶のいい香りがする。濃い紫色のメイド服のジェリィはニッコリと微笑んで首を傾ける。ジェリィは十九歳。魔女じゃない。外国人でもない。地元出身で滋賀大学に通う大学生だ。ジェリィというのはペンネームみたいなもの。メイドはアルバイトだ。「いらっしゃい、若頭、うふふ」

「もぉ、みんな揃ってそう言うんだから」

「ケーキでもお持ちしましょうか?」ジェリィは膝を折ってスムーズな動きで炬燵に紅茶を並べながらスズに聞く。

「いいよ、」スズは首を横に振る。「このおせんべい、とてもおいしい」

「京都のおせんべいですよ、この前アンナちゃんと一緒にお寺巡りしたんです、そのときのお土産です、うふふ、楽しかったなぁ、アンナちゃんってば伽藍配置に物凄く詳しくて、尊敬しちゃう」

「ジェリィさんとアンナさんって仲がいいですよねぇ、」スズはニヤニヤしながら聞く。「もしかして出来てるんですか?」

「も、もうスズちゃんってば、か、からかわないでよぉ、」ジェリィはスズの二の腕を触って恥ずかしがる。「私は魔女じゃないから、ノーマルなんだから」

「アンナさんは魔女じゃないけどアブノーマルだよ、アンナさんがその気になったらジェリィさんはどうするの?」

「……とっても素敵、」ジェリィは手の平を合わせて答えた。答えてから顔を紅くして少し慌てた。「いや、別に、そう意味じゃないよ、そういう意味じゃないんだからねっ」

「どういう意味ですか?」

「ジェリィがノーマルか、アブノーマルかなんてどぉでもいいよ」

「ああん、お嬢様ってば酷い、そういう些細なことが戦争の引き金になったりするんですよっ」

「歴史学者みたい」スズは笑う。

「私は文学部の歴史学科です」ジェリィは誇らしげに胸を張って言う。

「それより文学部歴史学科に在籍のジェリィに相談、」メグミコはパソコンの画面を指差し聞く。「くうかんって読むんだよね? これこれ」

「どれどれ、」ジェリィは画面に顔を近づける。「ああ、違います、クマ、です、くうかんともくうがとも読みますけど、この場合はクマです、空閑と書いてクマと読むんです、っていうか、お嬢様、このメール、ついに敵さんが本気を出して来るってことですよね、犯行予告なんて今までなかったのに、今夜は厳戒態勢を敷かなければなりませんね、早くアンナちゃんに知らせなきゃ」

 ジェリィは立ち上がって急いで部屋から出ようとする。

「え、ジェリィ、一体なんの話?」

メグミコは目を丸くしてジェリィを見る。スズも同じ目の形をしてジェリィを見る。二人はジェリィの袖をきちんと掴んでいる。

「……え? あ、いえ、しまった、」ジェリィははっと何かに気付いて顔色が悪くなる。「いえ、お嬢様、なんでもありません、なんでも、冗談です、冗談、あははっ、ではっ」

「ジェリィの冗談なんて聞いたことない、」メグミコはジェリィの袖を掴む手の力を強めてじっと睨む。「敵って何? 空閑って何? 厳戒態勢って何? どうしてアンナに知らせなきゃいけないの? このメールが何か分かっているんでしょ、ジェリィ」

「……え、えーっとぉ、」ジェリィはエロゲのパッケージで埋まった本棚の方を見る。「そのぉ……」

「空閑っていう、大事なものが村崎邸にあるの?」スズは聞く。

「の、ノーコメント」ジェリィは汗を搔いている。

「メグ、」スズはメグミコの目を見る。「ライトニング・ボルト」

「え、そんな、」ジェリィはメグミコのライトニング・ボルトを体験するのはきっと初めてのはずだ。しかしライトニング・ボルトは派手で分かりやすい魔法。ライトニング・ボルトを一度見てしまったら分かる。ただでは済まないことを。ジェリィは涙目で逃げようとする。「嫌、嫌です、ライトニング・ボルトだけは、」

「うん、」すでにメグミコの輪郭は紫色に発光し始めていた。「準備完了」

「い、嫌あああああああああ!」ジェリィは悲鳴を上げた。

 バチッ。

 ライトニング・ボルトにしてはとても小さな音。

 ジェリィ用にメグミコは電圧を押さえている。それでも痛いことには変わりないだろうけど。

「あんっ!」ジェリィは体を震わせて喘ぐ。とてもエロティックだ。「ご、ごめんなさい、お嬢様、あんっ!」メグミコは感覚を開けて電気を送っている。「ゆ、許してください、あんっ! お嬢さまぁ、あんっ! も、もぉ、ら、らめぇ! らめですぅ!」

 そして真っ赤な顔で涙目のジェリィは、全てを話してくれた。


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