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ヴェルヴェット・ギャラクシィ・ブランケット/甘い口どけ髪は紅  作者: 枕木悠
第三章 恥ずかしがり屋のガールズ・オンリィ
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第三章⑦

 那珂島はマリとベニ、それから大壺を部屋に招き入れた。

「おっ、意外と可愛い部屋ですね、」大壺がリビングの様子を見て感想を言う。そして壁際の本棚の上から二段目のフィギュアを触って言う。「これとか、めっちゃ可愛いやん」

「ここに座ってて、」ベニにマクドナルドのビニル袋を渡しながら、那珂島はソファを触る。「着替えてくるから」

 那珂島は寝室に行って、大壺の服を脱いだ。クローゼットの扉の裏の鏡に全身が映る。肩に傷が残っている。アリゲイタに噛みつかれたみたいに、傷は広範囲に渡っていて、煩わしい。痛みは邪魔以外の何ものでもない。見ていると気持ちが萎える。誰かに甘えたくなる。気持ちがしびれてくる。那珂島は目を閉じた。ベッドの上で灰皿を持ち、シガレロを吸った。半分以上残っていたが消す。頭の中はクリアになった。ブラウスを着る。黒タイツを穿く。グレイのスカートを穿く。グレイのジャケットの袖に腕を通す。

 那珂島はリビングに戻った。大壺が勝手にコーヒー・メーカを操作していた。ベニとマリはクォータパウンダにかじりついていた。若い魔女二人が無邪気にかじりついている様子は、猥褻さを伴って那珂島に伝わって処理される。那珂島は咳をして猥褻さを感じないようにする。

「話したいことは山ほどあるんだけど時間がないから手短に、」那珂島はソファに座った。対面のソファにはベニとマリが座っている。那珂島はマリの方を向いて聞く。彼女はいわゆる澄まし顔である。口元にはケチャップとマスタード。那珂島はそれがとてつもなく愛おしく感じた。「マリちゃんもここに住みたいの?」

「……えっと、はい、」頷いてから遅れてマリは微笑んだ。「なんでもします、」マリはベニを一瞥。那珂島の方を見る。「なんでもしますから、ここに住まわせてください、お願いします」

「ご両親は?」

「パリです」

「パリ?」那珂島は少し戸惑う。彼女からパリという単語が飛び出してくるとは思わなかったからだ。「旅行してるの?」

「いいえ、」マリは首を横に振って、僅かに頬を赤らめて恥ずかしそうに話し始めた。「向こうに住んでいるんです、旅行しているのは、私の方で、旅の理由は、恥ずかしいんですけど、自分探しってやつで」

「……なるほど、素晴らしい、」那珂島はマリの瞳を観察しながら聞く。「ハーフ?」

「クォータです、」マリは黒い髪をかきあげながら言う。「祖父が日本人です、絵描きになるためにパリに留学して、そのまま美大の講師になって、魔女の祖母と結婚したんです」

「どうしてこの街に?」

「祖父の弟子が、この街にいるんです、そこで寝泊まりしていたんですけれど、もう、耐えられないっていうか、ベニも同じ気持ちです」

「二人のご関係は?」聞いたのは大壺だった。口調が取り調べのときみたいに厳しい。コーヒーが注がれたカップを並べて、大壺は那珂島の横に座った。

「師匠です」とベニが言う。

「弟子です」とマリが言う。

「一体何の師弟関係?」那珂島は微笑みながら聞く。

「コレです」とベニとマリは同じポーズをした。そのポーズから那珂島は連想した。釣りだ。魔女にしては随分、変わった趣味ではないか、と思う。

「ベニちゃんは何年生?」

 ベニは人差し指を立てる。袖で手の甲が隠れている。寒がりみたいだ。ベニは部屋に中に入ってからも、マフラを外さなかった。

「マリちゃんはいくつ?」

「十五です」

 なるほど、二人は同い年か。同い年っていいな、と那珂島は思う。「なるほど、だから二人は仲が良いのね」

 二人は恥ずかしそうに顔を見合わせた。微笑ましい光景だ。自分もこんな風に笑い会えるパートナーに巡り会いたいと思う。「じゃあ、とりあえず、採用っていうことで」

「ありがとうございます」マリが言う。

「私は?」大壺が頬に人差し指を当てて、なぜか甘えるような声で聞く。

「何を言っているんだね、チミは、」那珂島は大壺の額を小突いてから、マリとベニに向き直る。「引っ越しはいつにする?」

「今夜からココで眠ってもいいですか?」マリが聞く。「荷物はスーツケース一つです」

「私はドラムバック一つ」ベニが言う。

「構わないよ、」那珂島は微笑んでテーブルに部屋の鍵を置いた。「合い鍵を渡しておくわ、今、一つしかないけど、あとでもう一つ、作るから、」那珂島は立ち上がる。「それじゃあ、勝手にくつろいでいて、夜には戻ってくると思うから、ヒカリ、行くわよ」

「了解っす」大壺は小さく敬礼。立ち上がる。

「警察官なんですよね?」マリが控えめに聞く。

「うん、そうだよ」

「事件現場に行くんですか?」

「うん、知ってるかな、公会堂の屋上の貯水タンクが破裂した事件、」応えながら那珂島は二人の魔女を見る。「君たちはどこまで飛べるの?」

 何もエナガに正々堂々やって勝とうとは思っていない。知略を尽くして、手錠を掛けられたら、それできっと愉快に笑えると思う。かつては、キャブズは飛ぶことしか出来ない魔女の職業だった。しかし、今は違う。実力のあるものでもキャブズをやる。世の中の印象を変えたのはキネマの力。キネマの中のキャブズは、素晴らしい魔法をスクリーン上に表現した。彼女たちももしかして、と思ったのだ。何かを隠しているのかもしれない。

 日常で表現するには大きすぎるものを持っているのかもしれない。

 だから。



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