第一章①
新しいシリーズ始動させました。
ヴェルベット・ギャラクシィ・ブランケット。
VGBシリーズです。
コンセプトは、紅・銀・ブリーチ。
時代は現代。スマホvsガラケーのつまらない戦争が起こる現代です。
NTKシリーズから八十年後の魔女の世界です。
ご感想お持ちしております。よしなに。 枕木悠。
放課後。
細かい雪が降る校舎。
S県立明方女学院大学付属高等学校の二階の窓から雪を見ている女の子を見ている室茉スズ。
スズは裏門に近い、人気のない昇降口の前で誰かの誘いを待っている。
寒さで息が白く染まる。息で手を温める。手を温めてくれる優しくて可愛い女の子の登場を待っている。ママの形見の素敵な模様のブランケットに包まって。今日は新しい女の子の誘いを待っている。
細かい雪はブランケットに落ちて吸い込まれる。
スズは二階の窓から雪を見ていた女の子のことが気になっている。
スズは再び上を向いた。
校舎の二階の窓から雪を見ている女の子の姿はなかった。
落胆する。
残念な表情をわざと作って前を見ると、そこに彼女がいた。
彼女はスズより背が小さいが、二階にいたことを考えると彼女は二年生。スズは一年生。先輩である。先輩は白くて甘そうな頬をピンク色にしている。ショートヘア。色は黒。おそらく風の魔女。スズも風の魔女だが、今はブリーチしてアッシュブラウン。髪の色を染めることが出来るのは色素が髪に現れない無色の風の魔女だけ。
「先輩、」スズはとても驚いた目をして先輩に言う。「私に、何か?」
先輩は可愛らしい視線をスズに向けている。周囲に誰もいないかどうかを念入りに確認してからスズに近づいてきてロマンチックに目を潤ませる。
スズは凄く素敵な笑顔を作った。
嫌らしくなく。
正直で。
純粋で。
愛にあふれた。
誰にも負けない素敵な笑顔。
女の子を勘違いさせる作り笑顔。
先輩は勘違いしたようにはにかむ。
「ず、すっと前から、」先輩の声はとても個性的だった。とてもふざけているような声。でも、チョコレートのように甘い声。可愛い声。スズの声もとても個性的だから、人のことは言えないけれど、無性にからかってやりたくなる声。「スズちゃんのこと、いいなって思っていたんだよね」
先輩はとても上から目線だった。とても傲慢だと思う。でも、慣れないことを口にしているということは分かる。無理をしているのだ。とても落ち着きがなく、瞬きの数が多い。
「いいなって、」スズは首を絶妙な角度で傾けて無垢に聞く。「どういうことですか、先輩?」
「ええっ、分かんない?」先輩は困っている。「普通分かるっしょ、今ので」
「分かりません、」スズは先輩を苦悩させたいと思う。「本当に、一体全体何の事だか、未来の予測が立ちません、全く」
「い、言わせんなよぉ、は、恥ずかしいなぁ」先輩は顔を背けて顔のピンク色を濃くする。
「言って下さいよ、言って下さい、恥ずかしいこと言って下さい、先輩、私、たまに女の子が考えていることが全く分からないときがあるんです」
「今がその時だっていうの?」
「はい」
それから先輩は「ぐおぉ」と呻きながら、くねくねと悶えた。呪いの儀式のようにも見える。その儀式はしばらく続いた。三十秒くらい。先輩は止まった。何かを決意した目をしている。魔女の目をしてスズを睨む。「告白してるに決まってんだろぉ」
「告白? 告白って、」スズは自分の頬を両手で包む。「……え、まさか、先輩、私のこと」
「何度も言わせんな、」先輩はスズにキス出来るくらいまで顔を近づけて言う。先輩のいやらしい顔がよく見える。「私、スズのことが好き」
「嬉しい、」スズは先輩の柔らかい体を抱き締めた。本当に柔らかい。スズが抱いてきた様々な女の子たちの体は柔らかかったけれど先輩は特に柔らかい。「先輩が私のことを好きだなんて信じられない、ああ、だから私の名前を知っていたんですね、私は先輩のこと全然知らないのに」
「てめぇ、」先輩はスズを睨んだ。「私はずっとスズちゃんのことを見ていたのにぃ」
「キスしてもいいですか?」
「ふえっ?」先輩の声は裏返っている。先輩は初心だ。可愛い。「ちょ、ちょっと、待って、心の準備体操が必要」
先輩は深呼吸を始めた。
スズはそれを邪魔するようにキスした。
先輩の舌を優しく噛んだ。吸う。甘い。チョコレートの味がする。
唇を離す。
「ぷはぁ、」先輩は酔っぱらったような表情。うっとりとスズを見つめている。とろんとなっている。「……う、噂と違って、せ、積極的なんだね、ああ、めまいがする」
「先輩」スズは先輩のふにゃふにゃになった体を支える。
「なぁに、スズちゃん、」先輩はいい夢を見ているみたい。「心配してくれるの?」
「どこのホテルにします?」
先輩はとってもエッチな顔をする。「……スプラッシュがいい、かな?」
「先輩は、その、回転したいんですか?」
「むふふっ」
先輩はエッチでとろけそうな顔でスズの腕に絡みつく。柔らかくて巨大な弾力を腕に感じる。スズの胸よりもずっと巨大だった。スプラッシュがとても楽しみ。
「それじゃあ、行きましょうか」
スズは先輩をブランケットに包もうとした。
しばらく自分のものにしようとした。
その時。
制服のポケットの中の携帯のバイブレータが震える。
スズは先輩をブランケットに包める作業を中断した。
このパターンは、この振動パターンは。
非常にまずい。
バイブレータは一度止まる。
すぐに震え始める。
スズは大きく息を吐いた。「はあ、もうぉ」
「どうしたの、スズちゃん?」先輩は不思議な顔でスズを見る。「電話出たら? いいよ」
スズは冷めた目で先輩を一瞥。「ごめん、先輩、また次の機会に」
スズは裏門に向かって歩き出す。ポケットから携帯を取り出す。震えている。
「え、ちょ、スズちゃん?」
振り返ると先輩は様々なことを考えて困っている表情で立ち尽くしている。追って来ない。それはきっと正しい判断。
裏門を出て右に折れる。駅の方角へ向かう小道に入る。電話に出る。
『電話して来いよ!』
電波で聞こえた甲高い怒鳴り声は、まぎれもなく幼馴染の村崎メグミコ。メグミコは警察よりも特別な力を持つ武装集団村崎組の総長の娘で、着物が似合う美人だ。そして暴力的だ。小さい頃はその力によく守ってもらっていた。それから結婚の約束も交わした。スズは約束を忘れたふりをしている。それが今のスズの立ち位置。心境。絶妙なバランス。
「メグってば、声がデカい、うるさい、で、何よ、スプラッシュ?」
『す、スプラッシュ? 何それ? 新しいエナジドリンクのこと?』
「あ、そういえば、メグとは行ったことないよね、スプラッシュ」
『え、だからなんなの? 新しいアトラクション?』
「スプラッシュのことはいいから要件を言って、」スズはとりあえずすれ違ったタクシィに手を上げた。空を箒で飛ぶには少し寒い。タクシィはスズの前に止まって扉が開く。身を滑り込ませ運転手に言う。「あ、村崎邸までお願いします」
「村崎邸に?」運転手はバックミラァでスズを確認した。何か言いたげな目をしていたが、そのままアクセルを踏む。「村崎邸ですね、分かりました」
『来てくれるの?』メグミコの声は喜んでいる。『嬉しい』
「どうせ私の家の前にリムジンを寄越してるんでしょ?」
『正解、よく分かったね』
「雪が積もってきたね」
『そうだね、』メグミコはきっと邸宅の二階の自分の広い部屋の丸窓から雪景色を見ているのだろう。『とてもファンタジィな気分』
「私に会いたいだけ?」
『伝えたいこともあるよ』
「なに?」
『後で話すよ』