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ヴェルヴェット・ギャラクシィ・ブランケット/甘い口どけ髪は紅  作者: 枕木悠
第二章 雪中遊禽連盟、花升エナガ
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第二章①

 次の日。

 室茉スズと村崎メグミコは明方女学院大学付属高校に登校した。二人は同じクラス。一年二組。クラスに固定の教室はなく一般的な大学と同じように講師の待つ講義室へ出向く形式だ。その代わりブリーフィングルームのような広い更衣室がそれぞれのクラスにあてがわれている。東側と西側には生徒のロッカーが備え付けられていて、中央には二つの円卓があって『∞』の字型に置かれている。その周りをキャスタ付の様々な蛍光色の椅子が囲んでいる。北側には巨大なホワイトボードがあり、何不自由なく作戦会議が出来る仕様になっている。講師は誰も更衣室に訪れない。よってホワイトボードは美大を目指す一之瀬ミュウのキャンバスになっている。ホワイトボードには例によって少女の裸体が描かれている。日によってモデルが変わるのだ。朝来て初めて分かる。だから心臓に少々悪い。更衣室の扉を開いて自分の裸体がホワイトボードに描かれていたら凄くビックリする。一之瀬に見せているわけじゃ当然ない。全て一之瀬の妄想だ。以前一之瀬が描いたスズの裸体は現実よりも胸の膨らみが随分大きかった。その日は気分が良かったのを覚えている。とりあえず、今日のモデルは委員長の観月リョウ。彼女はヒステリックに一之瀬に何か言っている。どうやらウエストの描き方に不満があるようだ。スズは一度観月のくびれを見て触って舐めたことがあるけれど、まあ、一之瀬の妄想と大差ない。多少ふくよかでいいと思う。

「それと、私の綺麗な金髪に色を塗りなさいっ」

「私は誰かに指図されるのが一番嫌いだぁ、」一之瀬はホワイトボードの観月の顔に大仏のような黒子を描いた。一之瀬はエキセントリックに笑う。「あははっ、何コレ、ちょー可笑しいっ」

「ちょ、消しなさいよ、」観月は慌てて黒子を消そうとする。ホワイトボードに観音様が描かれたみたいだと皆笑う。朝の回らない頭にはちょうどいい刺激だ。「ああん、もぉ、皆笑うなぁ、え、ちょ、どうして消えないの?」

「油性だもの、消えないよーだ」

「ベンジンを寄越せ、バカ野郎っ」

 観月と一之瀬の追いかけっこが始まった。コレも比較的日常的なことだ。クラスメイト達は各々好きなことをしている。スズとメグミコはロッカーに鞄を仕舞ってから、開いてる席に座る。二人とも同じタイミングで欠伸をした。ほとんど寝ていない。途中自販機で買ってきたコーヒーを口に含む。メグミコは円卓に突っ伏してスズのブランケットをいつの間にか奪って抱き締めてスヤスヤしている。

「おはよ、スズ、お嬢っ、」声を掛けて肩を触ってきたのは保志名リンだった。今日も彼女は朝から刺激の強いルンルン笑顔だ。陸上部の朝練の後で寒いのにTシャツ姿。地味な色のブラジャが透けていてスズは少し目が醒めた。保志名の胸はとても小さいが健康的でいやらしいのだ。「あらら、二人ともおねむさん?」

「昨日大変だったの、」スズは保志名の胸から視線を離さずに言う。「ホントにもう、大変だったの」

「火事があったんでしょ?」保志名はスズの隣の席に座って顔を近づけてくる。栗色のショートヘアから健康的でいやらしい匂いがする。保志名は破裂する魔女。「お嬢のうちの蔵が炎上したって」

「なんだ、知ってたんだ」

「そうなんだよ、リンちゃん、」メグミコはばっと顔を上げた。「蔵が燃やされて、大事なものも盗まれて、挙句の果てに私の大事なコレクションがカチンコチン、カチンコチンなんだよ」

「え、なぁに?」保志名は丸い目をさらに丸くして言う。「ただの火事じゃなくて、火をつけられたの?」

「ふん」メグミコは子犬のように頷く。可愛い子ぶってやがる。

「それにコレクションって、その、」保志名はにやにやする。メグミコがエロゲのコレクタであることは一年二組の一般常識だ。「アレのこと?」

「ふん、」メグミコは子犬のように頷く。可愛い子ぶってやがる。「氷の魔女が私のコレクションをカチンコチンにしたの」

「いい機会じゃん、」保志名はにこやかに言う。「これから引きこもってないで毎日学校に来なよ、あ、そうだ、お嬢、陸上部のマネージャにならない? 最近、なんか、背中が、」

「私は低周波治療器にはなりませぬぅ!」メグミコは頬を膨らませる。「私の素敵なライトニング・ボルトをなんだと思ってるの? 電気を大切にねっ、だよ、無駄遣いはよくない」

「えー、スズにはよくしてるじゃん、私にもピリピリっとやってよ、ピリピリっと」

「止めた方がいいよ、そんなに気持ちいいもんじゃないし、ピリピリっていうより、ビリビリって感じで痛いし、医学的効果も果たしてあるかどうか、」スズは苦い顔をする。「それに、メグのライトニング・ボルトをまともに受けたら、リン、きっと死んじゃう」

「そんな大げさだよ、」リンはメグミコのライトニング・ボルトを味わったことがないからスズが冗談を言っていると思って笑っている。メグミコの魔力はとても巨大なのだ。保志名はスズのブランケットの意味を知らない。だからメグミコにどうしても低周波治療をさせたいと考えているようだが、ブランケットがなければスズは一体何度死んだか分からない。まあ、メグミコもブランケットがあるから、本気でライトニング・ボルトしてくると思うんだけれど。「ねぇ、お願い、お嬢、少しだけでいいから、ピリピリっと」

「いーやぁ」メグミコは腕を組んで首を横に振る。

 保志名はメグミコの可愛い子ぶった顔をじっと睨んでいる。スズは獲物を狙う猫みたいだと思った。保志名は視線を逸らして立ち上がった。「あーあ、残念だなぁ、マネージャになってくれたら陸上部の可憐で美しい先輩たちの体を触り放題なのになぁ」

「え、マジ!?」メグミコはエロい顔で反応した。「触り放題!?」

「うん、」保志名はメグミコに向かってウインクした。「しかも時間無制限」

「ホントにっ!?」メグミコは胸の前で五指を組んで瞳を輝かせた。

「バカっ、」スズはメグミコの頭を軽く叩いた。スズは不愉快だった。現実の中でメグミコに浮気されると思うと発狂しそうになる。少し動揺している。メグミコは村崎組の娘で財力もあるし、この学園でスズの次に可愛い。だから陸上部の素敵な先輩に奪われてしまうかもしれないと思うと、かなり動揺する。「な、なに、喜んでんのっ、顔がエロいよ、エロゲやっているときの顔になっているよっ!」

「はわわぁ、私としたことがっ」メグミコは慌てて澄ました顔を作る。

「まぁ、その気になったら来てね、お嬢、」保志名はTシャツの上からアディダスのジャージを着て、スパッツの上にプーマのジャージを穿いてスカートを重ねて穿く。彼女の冬の正装はとてもファッショナブルだ。「陸上部の皆にも話しておくから、いつでも部室に来てね」

「うん、えっと、その、まぁ、うん、」メグミコの澄まし顔は緩い。「その気になったら言ってやってもいいぞ」

「そ、そんなことより、メグ、」スズはメグミコの手を触ってこっちを向かせる。「やることがあるでしょ、私たちには」

「うん、そうだ、私たちにはやることがある、だからリンちゃんごめん、凄く魅力的な、じゃなくて、凄く私を必要としてくれるのは分かった、ありがとう、でも、私たちはやることがあるの」

「なぁに?」保志名は円卓に肘を付いて首を傾げる。


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