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プロローグ

 とても寒い夜。

十二月の深夜二時。

王都ファーファルタウから北西へおよそ三百キロ。レイク地方のミロノ港の水は凍りついていた。

揺るぎない氷が見渡す限りに広がっている。大小様々なタイプの船が港に停泊していたが、それらも全て凍り付いている。

異常気象では済まされない氷。

港街はとても静かだ。

人影がない。

動くものがない。

誰もが寒さに凍ってしまった。

海岸に設置されている小さな灯台。その最新型モータだけが律儀にライトを回転させている。

その弱い光は何か巨大なものを照らしている。

沖の方に。

氷山。

それは氷山に見える。

しかし。

私がいるのは城。

私が凍らせた城。

隠れていた月が、雲から出た。

芸術的な城は月に照らされ浮かび上がる。

近代になって海に建設されたとても素晴らしい城。確か要塞だった歴史もあった。血にまみれた歴史もあった。誰かを殺してでも守らなければいけないものを隠した城。

城の名前は、忘れてしまった。

私は目的を果たしたから。

私は城の最上階から氷の街のハイライトを楽しむ。

夜風が寒い。

とても寒い。

気持ちいい。

素晴しい世界。

氷の世界。

私はうっとりと息を吐く。

「これでも喰らいやがれ!」

 扉が開く音と男の声と同時に三発の銃声が飛び込んでくる。

「きゃあっ」私は悲鳴を上げて耳を塞いでその場に蹲った。

「ちくしょう!」男はさらに三発撃った。怖がりで、銃が大嫌いな私を合計六発も撃った。狙って撃った。殺そうとして撃った。酷い。本当に酷いと思う。この男は最後まで私の言うことにイエスと答えてくれなかった悪い男だ。逃げたと思ったのに隠れていたのだ。銃声が途絶える。男は弾切れ。そして銃を私に投げつけて叫ぶ。「悪魔めっ!」

「ひ、酷いですっ、」私は涙目で立ち上がる。銃は私を守ってくれる氷の障壁に当たって凍り付いてその一部になっている。六つの銃弾も氷に呑み込まれている。私は氷の障壁を二つに割って、扉のように横にスライドさせた。男との間に壁はなくなる。男に抗議するために私は近づく。背が高く、筋肉質で、毛深い、まるでモンスタみたいな男に近づく。「悪魔だなんて酷いですっ、わ、私は世界を守るために」

「く、来るなよ、こっちに来るな、」男は不思議なことに私を怖がっているみたいだった。声が震えて裏返っている。寒いからじゃないと思う。男はダウンジャケットを着ているから。男は数歩後ろに下がった。悪魔を見るような目で私を睨んでいる。男は私から離れるのを止める。まるで死を覚悟したみたいに、怖い顔をしてがなる。「か、返せ、シー・サーペントを返せ、この野郎!」

「いやぁ!」私は悲鳴を上げた。男は銀色に光るナイフを手に握って私を刺して、きっと殺そうとしたからだ。

だから。

仕方ないよね。

 魔法を編んでも。

「うああ、」男の呻き声が、とても耳障り。目の前で男が倒れる音。「ああ、ああ」

 私は目を開ける。

 恐る恐る視線を床へ落とす。

 この城は王室の所有で、この部屋は確か第三王妃のものだった。

 第三王妃は私と同じ氷の魔女で。

 この部屋の全てが白だった。

 月明かりが窓から注ぐ。その光量は徐々に増す。部屋に色が付いているのが良く見える。

 画用紙に紅を垂らしたように。

 白くて素敵な部屋の白い絨毯は、紅く汚れてしまっていた。

 とても不愉快な気分になる。

 嫌。

 これ以上綺麗な白を汚さないで。

 私の細くて鋭い無数の氷に全身を刺されて男は悶えている。

「ご、ごめんなさい、」私は謝った。私は暴力が嫌いだから。後悔もしている。静かな世界を夢見ているから。「で、でも、あなたが私を殺そうとしたから、仕方がなかったの」

 男は血だらけで生きている。必死で呼吸をしている。必死に心臓を動かしている。必死で何か言おうとしている。必死で私を睨んでいる。

 なんでそんな目で私を見るの?

 私は恐くなって、炎に包まれているような気がして、震えた。

 気持ちが悪い。

 胃から込み上げてくるものがある。

 私は涙目になって口を押さえた。

 三十秒くらいでちゃんと息が出来るようになった。

 男は目を瞑っていた。

 静かに絨毯の上にいる。

 でも、もうこの男の近くにはいたくなかった。

 私はスカートのポケットに手に入れたものがあるかどうか確かめた。

 ある。

 私は男に背を向けて素早く動いて窓際に立てかけて置いた箒を手にした。背中に熱いものを感じる。男の熱を感じる。とても嫌な汗が出ている。私は逃げるように窓枠に足を掛けてそのまま飛び降りた。

 重力に従って堕ちる。

 スカートがはためく。

 私は空中で箒に跨り、バランスを取る。

 凍りついた海に近い低い高度から。

 一気に浮上。月を目指して浮上。

 汗は風に当たって冷えて引いた。

 男の怖い顔も徐々に消える。

 落ち着いて呼吸が出来る。

 そして私は高い場所から氷の街と氷の城を見下ろした。

 素晴らしい氷の世界。

 私が離れてしまったら、この素晴らしい世界は終わってしまう。

 それがとても残念。

 いつも残念な気持ちになるのだ。

 でも世界が救われた未来のことを考えると。

 私は雲の上を飛べる。

 私は上を向いて飛んだ。

 私は雲の上に出た。

 月が近い。

 宇宙が近い。

 銀河だって見える。

 澄んだ冷たい空気。

 私は息を吸う。

 そして私はポケットから携帯を取り出し開き履歴からダイヤルする。

 議長はすぐに出た。『もしもし?』

「あ、私です、任務完了、無事ゲットです」私は朗らかに言う。

『ご苦労様、大変だったろ?』

「はい、とても大変でした、」私は謙遜して言う。「ちょっとだけ、怖い思いもしましたし」

『そうか、近くにいって慰めてあげたいな』

 私の心臓はドキリと鳴る。「ふぇ? 慰めるって、ど、どういうことですか?」

『慰めてあげたいところなんだけど、』議長はアンニュイに言う。私の心臓は途端に静かになる。『僕は今、南極だ』

「え、南極に?」私はそのことを知らなかった。いや、議長はいつだって私が思いも寄らない場所にいるけれど。「それじゃあ、今から南極に向かいますね、もうファーファルタウ周辺に魔具の反応はありませんし、」

『いや、』議長は私の言葉を遮って言う。『君には他に行ってもらい場所がある』

「……どこへ、ですか?」私は、とても落胆していた。

『日本だ』

「日本?」

 私は上を向いて、体を傾けて、冷たい雲の中へ入った。


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