2話 ありえない!?
重い足で家に着いた。なんかやけに疲れた気がする。
家に入ると、私以外にまだ帰ってきていないみたいだ。お母さんもいない。
まぁいつものことなんだけど。
自分の部屋に行き、肩にかけていた鞄を下ろす。
まだ日があるためにオレンジ色の夕日が窓から差し込む。
白で統一されている部屋なため綺麗にオレンジ色に染まっていた。
この年になるとぬいぐるみなど、興味がなくなってしまったのでつい最近整理したら、なんか女子の部屋ではないような。よく言えばすっきりした部屋。悪く言えば殺風景な印象を与える部屋になってしまったがこれはこれで落ち着くので私は気にしない。
いつものようにベットに腰掛けると枕の隣に携帯が置いてあった。
「やっぱり忘れてた」
見ると着信が三件入っていた。
携帯を開き、見ると“五嶋美穂”とディスプレーに表示されていた。
この人物こそが、私にお願いしてきた友人だ。
この友人が伊達くんと飲んでみたいと言わなければ、関わらずにすんだのにとため息をひとつこぼす。があんなに必死に頼まれれば引き受ける他はない。
なんせ美穂ちゃんは可愛い。
大人しくて人見知り激しいけど黒髪の綺麗なロングヘアーは、私も羨ましいくらい綺麗で、まるでお人形さんみたいなのだ。
それを本人に言うとムキになって反発するところなんか、なおのこと可愛い。
ついついお節介を焼いてしまう。
私がとても可愛がっている子なのだ。
だからはなっから断れないことは重々承知していた事なのだから仕方ないことだ。
だが、なぜ着信があるのだろうと思いかけ直してみる。
トゥルルルルル……。
トゥルルルルル……。
と何度かコール音をして「もしもし」声が耳に届いた。
「美穂ちゃん。私、里美だよ」
「よかった。里美ちゃん電話かけても繋がらないんだもん。心配しちゃった」
「ごめん。携帯家に忘れちゃってさ。ところでどうしたの?何かあった?」
「えっとね。伊達くんの件が気になっちゃって……。どうだった?」
ああやっぱりそうですよね。
私は心で大いに頷いた。
だって私も同じ立場だったらきっと同じ行動してるもん。
そう思うと笑みがこぼれた。
「大丈夫だよ。伊達くん来てくれるって」
「本当!?よかった」
美穂ちゃんの喜んだ声が聞こえてなんだか私もうれしくなる。
頑張った甲斐があったなっとばっかしに、あとは当日だけ我慢すればいい話だし気を楽に考えていた。が連絡を取ることを思い出してちょっと気が重くなったのは置いといて。
「私も聞きたいことあったの。飲み会のメンバーなんだけど」
「あっごめんね。伝えてなかったね。伊達くんが来てくれるって確定したから4人よ」
「ありがとう」
「あっあのね里美ちゃん。ちょっと言いづらいだけど……」
喜んだ美穂ちゃんの声が、ちょっと曇った気がしたが、どうしたんだろうと思った。
何かと思って聞き返してみれば、
「実はね。私の連れがどうしても遊園地行きたいって聞かなくて場所を変更したいだけど」
「へっ?」
「いいよね?早めに切り上げてから飲み会ってことになってるからそのこと伊達くんに伝えてほしいだけど里美ちゃんお願いできるかな」
急な事に頭が動転した。まさかの予定変更……。
でも電話から聞こえる声はなんだか弱々しくて、きっと電話の向こうで眉をへの字にして困っているのだろう。その姿を想像して思い浮かべてしまうと益々断れない。
寧ろ何でも任せてとでも言ってしまいそうになるくらいの効果をもっているのだ。
よくよく考えると……。
……やっぱり怖いので深くは考えない事にするけども。
どうせ連絡を取らなければ、ならなかったので気が乗らないけど引き受けた。
「ありがとう。じゃ場所は新宿駅に10時に集合でよろしくね」
「うん。わかった」
近くにあった紙に言われた通りにメモを残すと、美穂ちゃんに呼ばれて「うん?」と聞き返してみればふふと笑い声が聞こえたあとに
「うーんと可愛くしてきてね!!あと絶対スカートは履いてくるんだよ!!」
「えっそれどう「絶対だよ」ちょっ美穂!!」
どういう意味かわからないまま通話が切れてしまった。
(どういう意味なの!!普通は美穂ちゃんが目立たなきゃいけなくて何故私も!?)
ぐるぐると思考が空転してしまう。
考えても出てこないのは始めからわかっていた。
もういいやと思ってベットに倒れ込んだ。
片手に掴んだまんまの携帯。
まず登録から始めないとなぁ。
せっかくの横になったのに、手帳が鞄の中に有ることに気が付く。
取り行くのはめんどくさいが、嫌なことは早く終わらせた方が気が楽なはずと、重い腰を上げて立ち上がって鞄を持ち上げる。
ベット付近に鞄を置き手帳を出す。
まただらりと横になりながらメモされたページを開くと綺麗に書かれた連絡先が目に入る。
(本当に達筆だわ~~。習字でも習ってたのかな伊達くん)
どうでもいいことを思いながら携帯のアドレス帳を押して淡々と入力する。
だが問題はここからだ。
本来ならメンバーだけを伝えれば済む話だったのに、遊園地も行くことになったことを言わなければいけない。
美穂ちゃんのお連れさんが余計なことをしなければ、こんなことには……って言ってもしかたない。けどどうしても文句の一つも言いたくなる。
止まらないため息をまた吐いて頭の中で文章を考えていたらアドレス帳の登録を終えた。
いよいよ腹を決めて連絡をとろうとして携帯を握る。が持ったまま動けない。いや動けない。まだ夕方の時間だし、焦ることもないのだが……。
どうにも行動が移せない。だたボタン1つ押せばいいだけなのに。ああ情けない自分。
そこまで苦手意識があったのかと別の意味で笑いがこみ上げるが声としては出なかった。
出てもたぶん空笑いだけど。
やっぱ始めはメールかな。
きっと電話しても大丈夫だろうが私の連絡先を教えていないので出ない可能性もあるし、忙しかったら困るのは伊達くんだもんね。
などと理由をつけてメールで連絡取るようにした。
これなら大丈夫だろうと思って簡潔に終わるはずだし!
とさっそくメール画面を開く。
メールの用件の所に山野ですと自分の名前を載せ。
用件に
『こんばんは 山野です。
早速メールさせて頂きました。
登録お願いします。』
と書き込んだ後に連絡先を入力した。
(あとは遊園地の件ね)
文章を考えるのはすごく時間がかかったがなんとかまとまって、
『えっと大変申し訳ありませんが集合時間と場所が変わりました。
新宿駅に10時になりました。
理由は遊園地に行くことになりました。もちろん飲み会もあります。
ちなみにメンバーは私の友達とその連れと私と伊達くんなので4人です。
何かありましたら連絡ください』
と連絡先の下に加えて伊達くんにメールした。
メールしてしまえばこっちのもんで、あとは待てばいい。
ベットの上ということもあってか夕飯前だが眠くなってきた。
軽くだが寝てしまおう。
どうせ夕飯は8時だしと私はまぶたを閉じて眠りについてしまった。
チャラララ~ラ~ラッラララチャラチャラ~♪
と機械音が私の眠りを邪魔をする。
無視をしようと思ったが鳴り止まない。
私に電話する人なんて早々いないし、そういえば留守電設定を切っていたような気がする。
寝起き眼で携帯を探し出し、訛った声で「もしもし」と出てしまった。
このときによく考えていれば分かったはずだった。
電話の主が彼だったことに……。