1話 誘い
駅近くのある小洒落た喫茶店。
中もレトロな雰囲気に包まれてゆっくりといた時間が流れている。
本来なら落ち着けるはずの空間なのに、かなり気まずい空気が私の気を重くする。
冷や汗がだらだらと流れるのを感じながら相手は相変わらず無表情。
友人の頼みを聞くんじゃなかったと思っても後の祭り……。
「里美お願い!!」
友人が珍しく声を張り上げて言うから何かと思えば話してみたい人がいると、でもって今度の飲み会に誘ってきてほしいとの事。
彼女がこれ迄に誰かを誘うとか言ったことはあまりなく、人見知りする彼女が言ってきたのだ。
どうした心境なのかわからないけど頼ってくれるのが嬉しくて快く引き受けたが……。
まさか引き受け相手が私の苦手に思っていた伊達くんだ。
いつも無表情というか感情が読み取りにくい。
(私的にはだけど……)
なんとなく近寄りがたくて同じ学科なのに未だに話したことがない。
でも友達の頼みなのだから叶えてあげないと!!っと意気込んみ。
今日の講習が終わったときを狙って声をかけたのはいいものの。
伊達くんのお得意のポーカーフェイスで「何?」との一言に私は思わずたじろいだ。
(だって苦手なんだもん!!)
頭の中で言うと決めていた言葉は、すっかり抜けてしまい。
あたふたしている私を見かねたのか「付いてきて」と言われ、今の喫茶店に案内されたのである。
そして今まさにコーヒーを飲んでいるという何とも可笑しな状況になってます!!
未だに任務を今だ果たせてないし……。
伊達は優雅にコーヒー飲んでるけどな!!
(せっかく伊達くんがチャンスをくれたんだから言わなきゃ!!)
握り拳を作り、気合を入れて腹を括ったとき、
「何で呼んだわけ?山野」
「えっあの……その……」
「はっきりしない奴だな。今日声かけてくれて嬉しかったのに」
先まで無表情だった彼が表情を和らいだ。
とうか、今伊達くんがはにかんだようにも思える。
(気のせいかな?)
でも先ほどまでの気まずさが和らいだ気がした。今なら言えそう。
私は目をちゃんと伊達くんに目を合わせて、
「ちょっと頼みというか……。お願いがあるの」
「何?」
「今週の週末に飲み会をやるんだけど伊達くん来てくれないかな?」
「……それって普通頼みとかじゃなくて誘いじゃないの?」
彼がきょとんとして聞くから、自分の間違えに気付かされたけど慌てて、
「そっ!!そうなの!!誘い誘い。友達がどうしても伊達くんと飲みたいって」
「ふーん」
早口で言うと伊達くんは興味なさそうに相づちをしてくれたがまた素っ気ない態度に戻ってしまった。
(何で!?)
戸惑う私に伊達くんが、
「……山野は来ないの?」
「えっわっ私!?」
「うん。山野」
なぜ私と更にどぎまぎしてしまった私に対して伊達くんはじっと私を見て動じていない。
なんて頑丈な仮面でも例えようか……。
私は冷や汗をかきながら、「もっもちろん行くよ」声が裏返りながら精一杯の笑顔と共に言った。
「……じゃ行く」
「本当!?ありがとう」
なぜ私が飲み会に参加するのか聞いてきたのは謎だが、とにかく来てくれることに安堵した。
やっと落ち着いてアイスミルクティーを飲める。
そうと決まればと鞄から手帳を取り出して友人に指定された時間と日程をページを開く。
週末の所に大きく赤丸と~~に集合と書かれていて、友人の必死さが伝わってくる。
(これ、美穂ちゃんに掻っ攫われてまで書かれたからよっぽど必死だっただろうな)
友人の必死さに思い出し笑いをしてしまいそうになりなんとか堪えた。
伊達くんには気づかれなかったみたいでセーフだったけど。
私はなるだけ冷静に伊達くんに伝えると頷いてくれたので当日も大丈夫だろう。
伝えることは伝えたのでほっとした。
緊張して今まで飲む余裕さえなかったために置いていたアイスミルクティーを口に含む。
だいぶ時間が経ってしまったためコップの結露が出来ているがまだ冷たく甘い味が広がる。
すっかり気を落ち着かせた私は後は帰るだけと思ったのに、
急に伊達くんが何かを思い出したように隣に置いていた鞄をあさりはじめ。
探していた物が見つかったのか鞄から何かを取り出して私に、
「山野アド教えて」
「えっ」
「連絡取れないだろ。他のメンバー俺分からないんだし」
言われてみれば確かにそうだ。
私だってそこらへん友人から聞かされていない。
必死に誘って来きてと言われただけだ。
(失礼すぎたかな……)
思考がマイナスの方にしか浮かばなかったがなんとか振り切り、慌てて携帯を探す。
「そっそうだよね。気が利かなくてごめん」
「別に謝らなくても。それに気使わなくてもいいよ」
そう言われても相変わらず表情が読めない伊達くん。
私はどうすればいいか戸惑っていや落ち込んで、
重い口が開くけども言葉は繋がらず、出ても「……でも」としか続けられない。
どこか気が重くてでも考えがまとまらなくて、小パニックを起こしそうになったときに、
「山野。そんなに気にしてたらハゲるんじゃないか」
「なぁ!!だっ伊達くん!?」
「だからそんなに悩むことないじゃないか?同い年なのに」
抑えながらに笑う伊達くん。
でもはっきりと私に目を細めて綻んだ笑顔に驚きを隠せない。
私の体が一気に沸騰したように熱くなる。
悩んでいたことが恥ずかしくて、それに初めてみる笑顔にちょっとびっくりした。
だって爽やかに笑うから。私の中のイメージが変わった気がした。
(やっぱり、話してみないと人って分からないのね)
本当は話しやすい人なのかも……。
伊達くんの認識を改めていたが、まだ笑い続ける伊達くんの頬がほんのりと赤く染まっている。
確実私ほどではないけど私は頬がひりひりするぐらい熱を帯びているんだから、
きっと今鏡をみたら真っ赤なんだろうとそれはそれで恥ずかしい。
失態と苦手から早く開放されたいのにこういうときに限って探しても見つからない。
もしかして家に忘れてきたかな……。そういえば今日使った覚えないし。
「見つかった?」
「えっと……。家に忘れてきたみたいです」
「そう」
その一言を伊達くんが言うとテーブルの上にあったアンケート用紙のボールペン取り、
私の手帳が目に入ったのかメモの所あるよね?と聞かれたので素直にそのページを開いて伊達くんに渡した。
なんだろうかと私は首を捻ったが伊達くんは何かを書き始めた。
さらさらと書きすぐに手帳を返してくれた。
目線を手帳に移すと、名前と電話番号、メールアドレスが書かれていた。
しかも綺麗な字でちょっと悔しい。
手帳を睨みつけていたら、伊達くんに呼ばれて顔を上げたら立ち上がって鞄を背負っていた。
ただ不自然に何かを堪えてる顔をしたけど……。
何だろうと思考が空転しそうになったとき。
「ここに連絡して」
「えっあっわかった」
慌てて現実に引き戻ってなるだけ自然を装って返答した。
伊達くんは微笑んで(私が見えただけかもしれないけど)、
「じゃ俺先に出るよ。山野は気をつけて帰えろよ」
「うん。ありがとう」
このとき伊達くんにつられて自然に笑顔が出来たのは自分にとってちょっと驚きだけど、
苦手加減がちょっとくらいは軽減されたのかなっと思うとうれしいな。
伊達くんの背中を見送って、後はゆっくりアイスミルクティーを飲み干した。
後ほどあることに気がつく。出来れば見送るときにに気づけばよかったんだ。
まさか伊達くんに伝票を取られていたなんて思いもしなかったから……。
なんて紳士!!
店員さんからは微笑ましく見られたような気がするし。いやカンベンしてください。
軽減したって言っても苦手には変わらないのよ!!!!
(今度会ったら絶対お金返さなきゃ)
心に誓い。喫茶店を後にした。
今週末私は果たして生きていられるのだろうか。
不安だけが募ったのは言うまでもない。