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嫌い、その一言で投げ捨てたのは広大な世界。
投げ出したくなるのはこの役職、俗に言う神。
管理を任された世界は既に酷く荒れ果てており手のつけようがなかった。
前の神様の気持ちがよくわかる、と肩の力を抜き椅子の背もたれにもたれる。
どっと疲れが流れ出たような気分である。
ふうと溜め息をつきながら深見は思った。
大体、神様だなんて自分の役職じゃない、内心愚痴をこぼす。
神の管理下における世界を下界というのならここは天界といえるところだった。
視点の変化によって見方が変わるが、位で言うならこちらが最高位である。
広い世界もこちらからするとちっぽけなものですぐに消せるものだ。それを奴ら人間は知らないだろう。そして、自分達の世界が自分達の物ではなくそれを管理する神がいることも知らないだろう。
神を信じる信者、などというものがいるそうだがそんな慈悲深い神がいるとでも思ったのだろうか?
こちらに居る世界を管理する神はみな冷酷である。そもそも世界を創った理由は退屈しのぎだそうだ。ほんと、笑ってしまう。
今より前の前の世界の方がもっと荒んでいたと先代の神は言う。だが私はその時居てなかったので荒んでる荒んでないなどには興味がない。
もっとも今は今だ。今をどうするかでこの先が決まる。その決定権を自分が握っていると思うと怖気づいてしまう。
ちらと自分を補佐する狐の顔がちらほらと過ぎった。
濃い群青と黒が混じったような髪に金の瞳。それが補佐役の狐、凶だった。
狐と言っても見た目は人間と変わらず、寧ろ人間という方が正しいのかもしれない。
どこで習ったのか関西弁を巧みに使い誰にも考えを似つかせない、ある意味昔話にでてきそうな、そんな狐だ。
そんな彼が何故私の補佐なのか、それは彼が彼の一族の次期当主だからである。
狐の一族には古くから神の役職を補佐するという使命があるそうだ。
特に当主格である者は世界を管理する神に仕えるらしい。
では何故凶は次期当主なのにこの最高位に位置する神の補佐なのか。
そう、凶は当主格と言えども当主ではない。次期当主だ。次期なのだ。
確かに当主は存在する。ただ、その当主の力を凶は上回っているのだ。
しかも凶の力は生まれながらにして身についていたらしい。
生まれたばかりの赤子に禍々しいほどの力が。
それでも形式上当主の面子は保たないといけない。
ややこしいルールだ。私には無理無理。