コアが割れた日
ある日、それは突然上空に現れた。ひし形に十字の切れ込みがあり、その中央では常に光る謎の物体。
世界で7つ発見されたそれらは『コア』と名付けられた。
「皆さん、あれがいつ何をして来るか分かりません!そんな不安は私が当選した暁には払拭します。私が皆さまの安心と安全を提供します」
朝から公約を書いた段ボール札に囲まれながら、河川敷でマイク片手に熱弁する彼女は、新塚綾音。この近くの高校生だ。彼女は、昔から『アレ』についての妄想が激しい。
小さい頃は、レーザーが出て町を炎の海にするとか。中学生の時は、宇宙人が出てきて人をさらって行くとか。色々と話してくれらけど実際のところ、そんなことは一度もない。ただそこにあるだけの物、オブジェのような物だ。
そんなことだから、周りから厨二病って言われたり、変わり者として扱われることもある。
「綾音そろそろ学校に行く時間だよ。早く片付けていこう」「うん。また遅刻したらゴリ先に怒られるからね」私たちは急いで片づけをした。
私たちは、他愛のない会話をしながら学校に向かった。その最中にも綾音は、宙に浮くコアを時々眺めていた。いつもどうりなのだが私は悲しくなる。しっかり話も聞いてくれるし軽い冗談も言ってくれるのだが、なんだか心ここにあらずって感じが少しムッとする。
学校についていつもどうり授業を受け、昼休みに入るときだった。「ねぇ、彩花。コア動いてない?」
綾音が指をさしている先を見ると、かすかに動いているように見える。よく見ないとわからないように小刻みに上下に動いている。「あっちょっと!」みんなが窓からコアを見ている中綾音が屋上に向かって走り出した。追いかけるように私も屋上に向かう。
「はぁはぁ、綾音どうしたの急に」屋上に着いてコアを見上げると、まるで生きているかのように右へ左へぴょんぴょん跳ねるように動きながら上昇していく。
数回跳ね終わり小さく縮小したかと思うとコアが爆発した。爆音と爆風が吹いているはずなのに不思議と苦しくない。吹き飛ばされるほどの風が吹いているのは分かる、鼓膜なんて一瞬で破けるほどの音なのもわかる。しかし、どこにも自分にとって異常はない。鼓膜も破れてはいないし、吹き飛ばされてもいない。
爆発の余波が終わり空を見上げるとコアはどこにもなかった。ただ、さっきまで青空だったのに空一面紅く染まっていた。
「綾音大丈夫?」「うん、私は何ともないけど、彩花は?それにしても、すごい風と音だったね。これじゃあ教室は窓が全部割れているだろうね。早く教室に戻ろ」
校内に入るとすぐに誰かの悲鳴と物音が聞こえた。屋上から二階の私たちの教室までに行く間にも悲鳴や何かが壁にぶつかる音が鳴り響く。教室のみんなが心配になり全速力で走り出す。
校内には机やイスが散乱していた。そのせいで廊下が通れないところがあり、自教室に行くには少し遠回りしないといけなかった。
教室のドアを開けるとそこには化け物が食事をしていた。
二メートル半くらいの高さに、猫背で真っ白、足か手が十数本生えていてふっくらと丸みを帯びている。そして何より体の外側には見知った顔が数人いる。
「嫌だ。来ないで!こっちに来ないで!いや!」足が動かない。体が震える。力が入らない。何も考えられない。
みんなはもういない。誰も来ない。
怪物がゆっくりとこっちに向かってくる。それと同時に、液体の滴る音が私の恐怖心をさらに増加させる。
赤く染まった手がこっちに伸びてくる。
とっさに目をつぶる。夢だと信じたい。ただの悪夢だと信じたい。現実ではないと思いたい。私はまだ死にたくない。まだ綾音と一緒に過ごしたい。
その瞬間何かが落ちる音がした。
「大丈夫彩花?ケガしてない?」いつもの元気で優しい声で話しかける。
「怖かったら、まだ目つぶっていていいよ。すぐ終わるから」綾音が話し終わると同時に、化け物の、男声と女声が混ざりあった気持ち悪い悲鳴が鳴り響く。
体感では数分たった頃には教室は静寂に包まれていた。「もう、目を開けても大丈夫だよ」綾音の言葉どうりに目を開けた。
そこにはいつものように笑顔で話しかけてくる綾音の姿があった。ただ、違う点があるとするなら右手に刀を持ち頬には返り血がついている。
「綾音、さっきを怪物は?」まだ少し震える声で聞くと優しくなだめるように言ってくれた。「ご覧の通りやっつけたよ。けど、まだ学校にいるかもしれないから彩花はとりあえず安全なとこが見つかるまで私と一緒に来てくれる?」差し伸べられた手を取った。「ごめん、まだ上手く立てないや。足が震えるし、腰も抜けちゃって」彼女は、私が言い終わる前に優しく包み込んでくれた。「大丈夫、大丈夫、私がいるからね。焦んなくてもいいよ。」
少し時間が経ち、だんだん落ち着きをとり戻してきた。まだ怖さが残っているが動けないほどではないので外に出ることにした。
「ねぇ、綾音は私が襲われる前は何してたの?途中から何も言わずに行っちゃったからさ」
「ああ、三階にいたやつらを倒してから残った人たちを外まで送っていたんだよ。あと、学校にいたやつらはたぶんさっきので最後だと思う」ってことは私が真っ先に教室に向かわずに綾音と一緒にいればよかったのでは?もしくは、屋上で待っていればよかったんじゃないか?
外に出ると学校を脱出した生徒と教師が集まっていた。「あなたたち大丈夫?」教師の一人が私たちに 言い寄る声は震えていた。きっと恐怖心がまだ残っているのだろう。それでも、私たち生徒の前では教師として、大人としての姿勢を崩さないことに感動した。
「まぁ、なんとか。それより、ほかの人たちはどこに行ったんですか?明らかにここに残っている人たちが少ないけど」綾音が言い終わる前に先生は首を横に振った。
気まずい沈黙を破ったのはパトカーのサイレンの音だった。「先生助けが来ましたよ。これでもう安心してもいいんですよね?」私の言葉とは裏腹に到着した警察の人は私たちの希望を消し飛ばした。
「皆さんご無事でしたか。ただいまこの町には、正体不明の怪物がはびこっているので直ちに避難して下さい。もう、この町には安全と言える場所がありません、ですから速やかにこの町から離れてください。私たちは、他の場所に行って安全確認と注意喚起をしなくてはいけないので先生お願いしてもよろしいでしょうか。」それだけ言うと警察の人はパトカーに乗ってどこかに行ってしまった。
「先生…どうしましょうか」なんて役に立たない警察の人なんだ。
「またいつあの化け物が来るかわからないから、とりあえず警察の人が言った通りこの町から離れたいけど、私たちの車で移動すると二人だけ乗ることができないんだけどどうしましょうか。」
「それなら、私と彩花が徒歩で行きます。隣町までは結構距離があるけど途中にある自衛隊の駐屯でもしかしたら、私たちの事を運んでくれるかもしれないですから。」
「そんなこと言ったってまたいつあの化け物が襲ってくるかわからないんですよ?それに、女子二人だけじゃ危ないですよ。」
「けど他の人でも危ないですし、それにあの化け物を倒すことのできるのはここでは私だけです。だから、二人だけで向かっても問題ないと思うんですけど。」
「それでも危ないことには変わりありません!ですから…あ、ちょっと!新塚さん、宇野さん」先生が言い終わる前に綾音は私の手を引いて学校を出た。
「彩花ごめんね、急に連れてきちゃって。みんなと一緒のほうがよかったよね。けど、あの先生は何を言ってもきっと反対しいていただろうね。だからこうするしか私には思いつかなかった」
「いや、私は綾音と一緒に行くことがうれしいけど、みんなは無事に避難できるといいんだけど。またいつあの化け物が襲ってくるかわからないんだから」
本当に私は綾音と一緒でよかったと思っている。命を助けられたってことも多少はあるんだけど、それよりも親友と一緒にいられるってことがうれしい。緊急事態なんだけどどこか楽しんでいる自分に違和感はあるがそんなことはどうでもいい。
自衛隊の駐屯地まではここから30分も歩かなくてはいけない。その間にいったい何体の怪物と出会うのだろうか。一体だけなら、綾音が一緒だから大丈夫だと思うけど、もし複数同時に出会ったら…。
「そうだ、今からコンビニに行こうよ。さっきのせいで喉乾いたからさ。」私はオッケーとだけ伝えた。
それにしても、なんで綾香はこんなにも余裕があるのだろうか。さっきの先生との強気な発言もそうだ。確かに、あの怪物を倒せるのはあの中では綾香だけだからの発言ともいえる。だけど、いつものおおらかな性格は私と一緒の時には感じられる。
私は綾香に言った方がいいのか、それともこのままそっとしておくのがいいのか。なんて考えているうちにコンビニまでついた。
予想はしていたが人の気配はもういない。それに、さっきの化け物が荒らしたのか足の踏み場がないほどに商品が散らかっている。
「彩花まだ食べれそうなお菓子とジュースもっていかない?」
私は窃盗にならないか心配していたら彩花がバレなきゃ犯罪じゃないなんて言うから少し肩の力が抜けた。
「ねぇ綾香、なんか奥から音がしない?」
「ちょっと見てくる。ここで待っててね」
綾香がスタッフルームを開けると鉄のにおいがしてきた。それと同時に、何かが滴る音が聞こえてくる。一滴一滴の音が私の鼓動を早くする。ドクン、ドクン脳に響くように聞こえてくる。
まだ、綾香はスタッフルームから出てこない。
五分くらいたっただろうか、私がスタッフルームの扉に入ったら綾香が化け物の死体を解剖していた。
「な、何してんの!?」匂いとそこら中に真っ赤に染まっているせいで気分が悪くなる。
「何って、見ての通り解剖しているけど。だって学校でこんなことしてられなかったし。どんな感じになっているか気になるんだもん。」元々この子は正義感と好奇心が強かったけどまさかここまでやるとは思はなかった。
「だからって、なんでこんなところでしてるの!私あそこで待ってたんだけど!」
「だって、彩花に言ったらやらせてくれないし、それに私…」
綾香が言い終わる前に私は目の前が真っ暗になった。
次に目を覚ました時には綾香の背中の上だった。
「起きた?彩花が気絶した後に自衛隊の人たちが来て避難所まで運んでくれたんだよ。まぁ忙しそうだったからみんなのいるとこまでから私が運んでいるけど」
「ありがとう」
避難所には学校のクラスメイトも何人かいたが、先生の姿は見つけられなかった。他の大人たちは避難所の出入り口にバリケードを作ったり使えそうなものを探したりしていた。
私は彩花と一緒にお昼を食べようと探していると、彼女は誰かと連絡を取っているみたいだった。
「綾香、これから一緒にお昼食べない?それに、話してほしいことがあるんだけど」
「彩花、ごめんこれから行かなくちゃいけないとこができたからその時間はないんだ。じゃあ、みんなによろしく言っといてね。」
「待って。せめて学校でのあれは何か教えてよ。」
綾香は、私の制止を聞かずに行ってしまった。けど、私には彼女がこれから何をするかが何となくわかる気がする。だって私は彼女の親友だもの。




