不穏
「きゃー!アーツ王子!おはようございます!」
「おはよう。」
朝、いつもの様に黄色い声を浴びながら王子様スマイルで歩く。
いやぁ、一昨日は散々だった。まさか緊張しすぎて本当に熱が出るとは……それにしても、今日はイリスと普通に接することができるのか?
……いや、できる気がしないな。俺恋愛とかよくわかんねぇんだよ!!
物思いに耽りながら教室のドアを開ける。
「みんな、おはよう。」
「おはようございます、アーツ王子。」
教室の誰かが、挨拶を返してくれる。
俺は緊張を表に出さない様心がけながら、イリスに近づこうとする。
すると、パチッとイリスと目が合った。
緊張MAXだ。落ち着け、落ち着け俺。頭の中で何度も手のひらに人を書いて飲み込む。
……よし、行くぞ。
そう、俺が歩き出した瞬間。イリスは俺を避ける様に、後ろのドアから出ていってしまった。
へ……?
俺は血の気が引いていく様な感覚に襲われる。
俺、イリスになんか嫌われることしちゃったかなぁぁぁぁぁ!?
やばい、冷や汗かいてきた。もう表情取り繕うとかできる気がしない。
思い出せ。イリスと出会った時から全ての自分の行動を思い出せ。
あれか?入学式の日のベンチでちょっと嫌な顔しちゃったからか?
それともイリスのことじっと見つめすぎて気持ち悪がられたか???
どうしよ。イリスに嫌われたままじゃ俺立ち直れないかもしれぬ。
その時、周りの視線が冷たいことに気がついた。
……うん、とりあえず……席座ってから考えよ。
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「ごきげんよう、アーツ王子。」
「……ああ、おはようございます、セイントさん。」
「気軽に、サクラとお呼びください。」
「じゃあ、サクラさんとお呼びします。」
しばらくして隣の席のサクラが登校してきて、話しかけてきた。
それと同じくらいのタイミングでイリスが戻ってきて、俺ははやく話しかけたくてしょうがなかったのだが……
「はーいみんな、席につけー。」
先生来るタイミング悪すぎだろ!!
―――――――――――――――――――――
学校が終わり、放課後。今日はベンチにも来なかったなぁ、イリス。
今日一日会話を試みたが、イリスは一度も話してくれなかった。まじ俺何やらかしたんだ……?ショックすぎる。
とりあえず寮に帰るか。
そう思った時。
「魔王の使いめ!!」
「聖女を痛めつけるなんて……!」
なんだか、広場の方が騒がしい。
……嫌な予感がする。
俺は急いで広場へと向かった。
―――――――――――――――――――――
「悪魔!ここから出ていってよ!」
「聖女様をお守りしろー!」
群衆の中には、傷だらけになって地面に座り込むサクラと、石を投げられているイリスがいた。
マジで何事?
そう思ったのも束の間、この構図に見覚えがあった。
夕日が差し込む風景。地面にへたり込んでいるサクラ。サクラに向かい合っているイリス。
これは、ゲームで何度も見た光景。最初の、悪役令嬢として邪魔するイベントだ。
でも、違うところもある。まず、このイベントが行われるのは中庭だったはず。それにこんなに人もいなかったはずだ。
それに、ゲームの中のイリスは、悪役令嬢らしい微笑みを浮かべていた。
けど、今のイリスは涙を浮かべている。とても不安そうな表情だ。
ーーーそれを見た瞬間、俺は咄嗟にイリスと群衆の前に割って入った。
「おい、やめないか。」
「アーツ王子!しかし、この者がサクラ様を闇魔法で傷つけたのですぞ!」
「……それは本当なのか。」
「はい、この目で確認いたしましたわ、アーツ王子。」
そう名乗り出てきたのは、サクラの取り巻きのやつだった。
胡散臭さが半端ない。
「そうか。……とりあえず、皆今日のところは帰ってください。こちらでしっかりと、取り調べを行います。」
「……アーツ王子が、そうおっしゃるなら……」
そう言って、とりあえず皆帰ってくれた。
「……さて、これはどう言うことだ。」
イリスが不安そうに瞳を揺らした。
「見たまんまですわ。この悪魔が、サクラ様に危害を加えたんですわ。」
「……ち、ちが……」
「なにか言ったかしら?」
「っ…………」
明らかに、イリスを押さえつけている。
とりあえず、どちらからも話を聞かなければ。
「大変そうですね、弟よ。」
そんな時現れたのは、兄貴だった。
よし、ナイスタイミング!今日だけはその神出鬼没の技に感謝しよう。
「ちょうどよかった。お兄様、少しトラブルがありまして……」
「ええ、騒ぎを聞きつけ参りましたので、事情はわかっておりますよ。私はサクラさんの言い分を聞きますので、アーツはイリスさんとお話ししてきてください。」
さっすが兄貴、頭はいいんだよな。いつもこっちの言いたいことを汲んで、実行に移してくれる。
「ありがとうございます、お兄様。」
「これでも生徒会長なのでね。当然のことです。では、行きましょうか。」
こうして、サクラ達は連れて行かれた。
……さて、こっちはこっちで、ちゃんと話さないとな。