表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

自覚

 兄貴の中庭突撃事件の日の夜。寮の食堂で夕食を食べた後、自分の部屋に戻る。


 あれ、鍵がかかってない。食堂に行く時には閉めたはず……

 まさか、泥棒が!?


 俺は覚悟を決めて部屋のドアを勢いよくあけ、部屋の中にいた人影に向かって拳を振り下ろそうとした。


 あれ?なんか見覚えが……


「ちょ、ちょっとアーツ!落ち着いて!俺だ!お前のお兄ちゃんの、フィーリウスだ!」


「なーんだ、兄貴か……って、なんで鍵かかってたのに入れてるんだ!そもそもなんで部屋の場所知ってるんだ!!」


「落ち着けよー。とりあえず、差し入れのケーキだ。これでも食べながら、ゆっくり話そうぜっ。」




―――――――――――――――――――――




 俺は仕方なく紅茶を入れ、兄に振る舞う。


「んー!やっぱりアーツの入れる紅茶はうまいな!」


「話そらさせねぇぞ。質問に答えろ。」


「アーツ、怖いよ?落ち着いて?」


 兄はケーキを一口食べてから話し始める。


「普通にアーツのクラス行って、聞いたんだよ。」


「クラスの奴ら、勝手に教えやがって……!許さねぇ。……で、部屋の鍵は?」


「それは、その。針でちょちょいとやったら開いたというか?」


「泥棒の手口じゃねえか!校長に泥棒として突き出すぞ!」


「だってぇ〜、アーツが全然話してくれないんだもん〜。お兄ちゃんにも構ってよ〜!」


 俺は無視してケーキを食べる。


「……これ美味いな。」


「でしょー?最近有名な店があってね!そこから買ってきたんだよ〜!すーっごい行列だったんだから!」


「そうか。買うの大変だっただろ。ありがとな。」


「いや、顔パスですぐに買えちゃった☆」


「……そういや、一応王子だもんな。」


「一応ってなんだ!ちゃんと王子してるし!」


「じゃ、質問にも答えてもらったし。ケーキ食べたら帰ってくれ。」


「やっぱりアーツ、お兄ちゃんに冷たくない?まだ俺も聞きたいことあるんだけどー。」


 どうせ答えなきゃ帰らないだろうなぁ。……はぁ、めんどくせぇ。


「何が聞きたいんだ?」


「おっ、珍しく聞いてくれる!じゃあ聞くけど……アーツ、あのイリスちゃんっていう子好きでしょ。」



 …………!?


「……はぁ!?馬鹿なこと言うな馬鹿兄貴!お、俺がイリスのこと、す、好きだなんて……」


「そんな顔真っ赤にさせながら言っても説得力ないぞー?」


「う、うるせぇ!」


「それにさ、イリスちゃんも言ってたじゃん。お側にいたいって。あれ、完全にプロポーズじゃん。」


「いや、あれはイリスが素直な気持ちを言ってくれただけで……って、盗み聞きしてんじゃねーよ!!」


「てへっ」


 殺そうかと思った。


「……とにかく、イリスに対して恋愛感情とか……そんなの、持ってないし。兄貴の気のせいだよ。」


「……そっかぁ。じゃあよかった。」


「えっ?」


「俺がイリスちゃん、狙っちゃおうかなー?って思ったからさ。」


「っ!」


「アーツが好きなら、諦めようかと思ってたんだけど……"ただの友達"らしいしね。」


「…………」


「それだけ。じゃ、ケーキ食べ終わったし、帰るねー。紅茶、ごちそうさまー。」


「…………やだ。」


「ん?」


「やだ!イリスが兄貴と付き合うなんて、俺は認めない!」


「…………」


「よくわかんないけど、イリスが兄貴と付き合ってるって想像しただけで、なんか……胸がモヤモヤするって言うか……苦しくなるって言うか。」


 俺にはよくわかんないけど。


「とにかく、嫌だ!」


「……っふ!あっはは!!」


「何がおかしいんだよ!」


「アーツ、それが恋ってやつだ。アーツは、イリスちゃんに恋してるんだよ。」


「……恋。」


 俺が、イリスに……?


「あー、やっと聞けたよ〜。それが聞きたかったんだ!満足したから帰るよ。」


 兄貴はドアノブに手をかける。


「あ、安心して。俺はアーツのこと、応援してるから!じゃ、おやすみ〜。」


 そう言って、兄貴は部屋を出る。


 扉が閉まった時、俺は察した。


「あの馬鹿兄貴、嵌めやがったな……」


 またしばらく口聞いてやんねー。


「……そっか。」


 俺、イリスに……


 恋、してるんだ。



 そう思うと、しっくりときた。




―――――――――――――――――――――




「あっ、アーツ様!おはようございます!」


「おはよう。」


「……?」


 アーツ様、今日なんだかぎこちない……もしかして私、何か失礼なことしちゃったのかも。どうしよう。




 やばい。まじでやばい。昨日一睡も出来なかった。それにさっきの挨拶。なんだよ!めっちゃぎこちなかったじゃねぇかぁぁぁ!

 意識しない様にって気をつけてだけど、そう思えば思うほど意識してしまうぅぅ……


 俺はどうすればいいんだぁぁあ!!




―――――――――――――――――――――




 いつもの様にお昼は中庭に向かう。そして、イリスがいる。そう、いつもの様に。


 ……いつもの光景なのに、やばい。めっちゃ緊張する。


「アーツ様?大丈夫ですか!?」


「えっ!あ、うん。ダイジョブダイジョブ!」


「ご飯全然食べてないじゃないですか。体調でも悪いのですか?」


「いや、ほんとにだいじょ……」


 ピタ、っとイリスの冷たい手がおでこに触れる。


 やばい。心拍数がやばい。


「やっぱり、熱あるじゃないですか!とっても熱いですよ!今すぐ救護室に行きましょう!」


「いや、大丈夫だよ、これは……」


「ダメです!立てますか?」


 そう言って、リリスが体を支えようとしてくれる。

 無理無理無理!体密着するじゃん!そんなの耐えられない!


「ひ、1人で行けるから!支えなくても大丈夫だから!」


「ほんとですか?でも1人は心配なので、ついていきますね。」


 そうして俺は救護室に行き、体調不良で早退した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ