第一王子
いじめの一件から、イリスは俺に懐いてくれてる。俺も、前の悪役令嬢というイメージはもうなくなっていた。
「イリス、おはよう。」
「アーツ王子、おはようございます!」
こうやって朝の挨拶をしたり、中庭のベンチで会った時には話をしたりしてる。昼もベンチで偶然会った時から流れで一緒に食べる様になった。
知れば知るほどかわいい。妹みたいだ。同い年のはずなんだけど。
こうして、順調に友達と呼べる存在ができた。
いつしか、イリスの前では安心して本来の自分を出すことができる様になった。
ある日、イリスとお昼を食べていた時のことだった。
「アーーーツーーーーー!!」
大きな声で俺の名を呼ぶ声が聞こえて、振り返る。
「うげっ。」
「アーツ様、どうしたのですか?」
「……お兄様だ。」
そう。遠くから爆速で走ってくるのは、アーツの兄。第一王子のフィーリウス•マジック。魔法の腕も良く、中々優秀な男なのだが…………とんでもないブラコンなのだ。
いやそりゃ嫌われるよりかはいいと思うよ?でもあんなにベタベタされると鬱陶しいわ!!
ちなみに俺と同じく攻略対象である。
「アーツ!!どうして会いにきてくれなかったんだ!お兄ちゃん心配で、アーツが入学してから毎日探してたんだぞ!」
兄貴は会うなり座っている俺に抱きついてきた。
「あはは……いろいろ忙しくて〜……」
「そうなのか!?疲れてないか!?大丈夫か!?」
「だ、大丈夫です、お兄様。それより、人前でやめて下さい。第一王子なんですから。」
「人前?……あっ。」
どうやらイリスに気づいていなかった様だ。中庭は人が来ないことで有名だから、油断してたんだろう。
兄貴はごほん、と咳払いをしてから膝をつき、イリスの手を取る。
ちょっとモヤッとした。
「こんにちは、美しいお嬢さん。私はフィーリウス•マジックと申します。以後、お見知りおきを。」
そうして王子様スマイルをお見舞いする。やっぱ顔はいいな。イリスの顔も赤い。……イリスを最初に照れさせたのは俺だし。
「……どうしたアーツ。怖い顔してるぞ。」
ハッとした。兄貴を無意識のうちに睨んでいた様だ。
「さて、とりあえず……お嬢さん、さっき見たことは忘れてくれぇぇぇぇぇ!!お願いしますぅぅぅぅぅ!!」
さっきまでのカッコイイオーラ漂わせてたお前はどこいったんだよ!!と言いたいほどの変わり様で土下座する兄貴。
そう、兄貴は家族の前以外では、さっきのカッコイイオーラの兄貴で通しているのだ。バレたら威厳がなくなる。
「えっ!?そんな第一王子様!やめて下さい!忘れますから!顔をあげて下さい!」
イリスが困っている。仕方ないな。
「お兄様、イリスは僕の友達です。別にバレたところでお兄様はまたやるでしょうし問題ないです。」
「えっ、あのアーツが友達を作った……だと!?」
俺は今まで友達を作ったことがなかった。皆俺の家柄目当てで寄ってきてる様にしか見えなかったから。
でも、イリスは違う。なんというか、落ち着く。
「アーツがそんなに信じられる子なら、別に良いかぁ!お嬢さん、このことはどうか、内密に。」
「は、はい!わかりました!」
これで、一件落着。俺は紅茶を飲む。
「ところでアーツ。この子はアーツの彼女か?」
兄貴がそんなことを言うから、飲んでいた紅茶を吹き出してしまった。咽せて苦しい。
「違うよ!なんでそうなる!イリスは友達だ!」
咳をしながら否定する。……あれ、またモヤッとした。
「そ、そうです!私なんかがか、か、彼女だなんて!友達でもおこがましいですのに!」
「そうかなー、お似合いだと思うけどなー。なぁ、顔が赤くなってるアーツくん?」
「えっ!?」
確かに、顔が熱い気もする。いやいや、イリスは友達だ。イリスは、友達……
チラッとイリスの方を見る。顔を真っ赤にしながらあわあわしている。とってもかわいい。
「まぁ、とりあえず。もうすぐ授業も始まっちまうし、俺は戻るわ。アーツ、またなっ☆」
もう来ないでほしい。
兄貴が去ってからのこと。
「えっと、お兄様がごめんな。迷惑かけて。」
「いえ、迷惑だなんてそんな……私なんかが王子お2人とお話しすることができるなんて、光栄ですわ。」
……ずっと気になっていた。その、自己評価の低さ。イリスがそうやって自分を卑下するたびに、俺がイラッとする。
「イリスは自分が思ってるよりかわいいし魅力もあるのに……」
「へっ!?」
「えっ?」
「いっ、今なんと……?」
「…………あっ。」
やっば、心の声が漏れてた。
「えっと……この際はっきり言います!」
「は、はい!」
「イリス、君は自己評価が低すぎる!」
「えっ」
「僕の人生で唯一の友達なんだ!そのくらい、君はいい子だ!」
めっちゃ顔が赤いが気にしない。
「君はもっと自信を持っていい!この国の第二王子、アーツ•マジックが保証しよう!」
「で、でも……私は闇魔法の使い手です。そんな人が王子様のそばにいるなんて……」
「闇魔法は悪いものではない。人の役に立つことだってできる。実際に君は、とても優しい人だ。」
「っ!」
「だから、自信を持って、これからも僕の友達で……いてくれないか?」
「……嬉しいです。今まで誰にも、そんなこと言われたことありませんでした。……私、自分に自信を持っても、良いのでしょうか?」
「もちろん。」
イリスは目に涙を浮かべながらも、いい笑顔を返してくれる。
「私、これからもアーツ様のお側に居たいです!」
「ああ。是非そうしてくれ。」
こうして、僕とイリスの仲はさらに良くなった。