本性
悪役令嬢、イリス•ツァオベラーと会った後。会場に戻り多くの人の相手をした。疲れた。マジで疲れた。
しばらくして自分のクラスに行く。さて、クラスには誰がいるのか。
俺は扉を開ける。その瞬間、黄色い歓声があがる。俺は王子様スマイルで応える。前世じゃ考えられない光景だ。
その時目に飛び込んできた。
!!
セミロングほどの淡いピンクの髪をしていて、サイド編み込みをしている。
優しさのオーラ漂わせている……!
「サクラ•セイント……!」
はっ!しまった!つい声に出してしまった!
「2人って面識あるの!?」
「えっ、何何?2人って付き合ってるの!?」
「お似合いじゃない?」
やばっ、教室が騒めき始めた。落ち着け。今の俺はアーツ•マジックだ。
「失礼。光魔法の使い手と聞いて、覚えていたんだ。」
これなら不自然じゃないだろ。光魔法は珍しい魔法の一つだ。国にとって有益だと思って覚えておいた、と言い訳しておこう。
それに、聖教と王家には魔王討伐の件で代々繋がりがある。サクラちゃんは聖教の聖女だからな。俺が覚えていてもおかしくはないだろう。
とりあえず席に着く。俺の席は1番後ろの真ん中の列だ。教室は後ろに行くほど席が高くなっている。だから、教室の全体が見渡せる。
ふと左を見ると、魔導書を読んでいる悪役令嬢がいた。彼女は今のところこの国唯一の、闇魔法の使い手。……闇魔法は強力だが、光魔法と違って汎用性がなく、使い勝手が悪いため、限られた場所でしか活用することができない。
ゲームでは、闇魔法の強力さを脅しに使い、取り巻きをゲットしただけでなくサクラちゃんも虐めていた。
思い出すだけで腹が立つが……
教室で過ごす彼女を見ると、ゲームとは何かが違う。取り巻きなんてのはいないし、とても静かだ。
ゲームの様な、傲慢で自分勝手なやつではない。
……もしかして、ゲームと変わっていることがあるのだろうか。
「あの……」
「!!」
サクラちゃんが隣の席に!!
か、かわいぃぃぃぃぃ!!!!!
「放課後、お時間ありますでしょうか?お話ししたいことがありますの。」
えっ、なんだろ。告白?いやまさか、ゲームは始まったばっかやぞ???
とりあえず、アーツとして応えねばならない。オタク心を今だけ封印しろ!!
「ええ、わかりました。いいですよ。」
「よかった。あっ、私こちらの席なのです。サクラ•セイントと申します。」
「ご丁寧にどうも。僕はアーツ•マジックといいます。よろしくお願いします。」
ついでに王子スマイルを添えた。
―――――――――――――――――――――
この学校は寮がついていて、女子寮と男子寮に分かれて皆そこで暮らす。
寮や学校についての説明等を受け、放課後。
話ってなんだろな。
呼ばれた空き教室に入ると、サクラちゃんと2人の友達がいた。
「あ、王子様。来たのね。」
……?なんか雰囲気が……
壁まで追い詰められる。
ドン!!
「!?」
いやなんか壁ドンされたんですけど!?何このご褒美展開!!
「ねえ、王子様。」
ち、近い。俺の知ってるサクラちゃんじゃない!
「もし、あなたがどーしてもっていうなら、付き合ってあげてもいいけど?」
……へ?
「……へ?」
やばい、驚き過ぎて心の声が。
それより、違う。
違う違う!!
俺の推しは!俺の好きなサクラちゃんはこんなグイグイくる性格じゃない!!
かわいくて、穏やかで……俺が好きなのはグイグイくるサクラちゃんじゃなくて、おとなしい聖女のサクラちゃんだ。
「で、どう?」
「……すみませんが、丁重にお断りさせていただきます。」
これは俺の好きなサクラちゃんじゃない。
「……あっそう。行くわよ。」
サクラちゃんは友達?と教室を去っていってしまった。
マジでなんだったんだ。こんなイベント、ゲームにはなかったよな。
―――――――――――――――――――――
謎の壁ドンから数日。あの時のサクラちゃんは幻だったんじゃないかってくらい、普段のサクラちゃんはゲームで見たまんまだった。マジで聖女だ。
あのサクラちゃんは、幻か……?
マジでそう思い始めてたんだけど……あの日、見てしまった。
放課後。入学式の日に悪役令嬢、イリスと会ったベンチは、人目につきにくいとこにあるということもあり俺の安息の地となっていた。
今日も一休みしてから帰ろー。
そう思い、中庭に向かう。
「なんとか言ってみなさいよ!!」
っ!
これ、サクラちゃんの声じゃないか?
何事かと思って、中庭に向かって走る。
そして、見てしまった。
「あっはははは!」
悪役令嬢、イリスに暴力を振るう、サクラちゃんの姿を。
サクラちゃん、なんで……
イリスも、ゲームで見た様な性格じゃない。反抗したりせず、ただ殴られている。
怒りが湧いてきて、体が動く。
「おい。何をしてる。」
「……!」
「っ!ああ、王子様。ごきげんよう!何って、魔王の手先の討伐をしているのです。光魔法を宿している私の、使命なので。」
ニコッと笑うサクラちゃん。前までかわいいと思っていた笑みも、今は不気味にしか思えない。
「たしかに、魔王も闇魔法を中心に戦うと聞く。でもな、魔王は闇魔法だけじゃない。火や水、風魔法だって使うぞ。」
「なぜその様なことがわかるのですか?」
「王家の書に書いてあるんだよ。」
ほんとはゲームで戦ってるから知ってるだけなんだけど。てか魔王が使ってる技も変わってたらどうしよ。
「闇魔法は珍しいが、過去に平民や、王族にも闇魔法の使い手はいたとされている。別に闇魔法が使えるからって魔王の仲間という訳ではない。」
一呼吸おいて、口にする。
「お前たちの方が、魔王の手先なんじゃないのか?魔法に関する知識もないまま暴力を振るうなんて、聖女のすることじゃないな。」
「……クソが。邪魔すんなよ。」
そう吐き捨てて、彼女は取り巻きたちと共に行ってしまった。
「大丈夫?イリス……さん。」
「はっ、はい!大丈夫です。ありがとうございます。あと、よろしければイリスって呼んでいただければ。」
「そうか。じゃあイリス。」
「……!はい!」
ぱあっと、イリスは笑顔になる。周りに花が飛んでいる様だ。……かわいい。
こうして、俺とイリスは友達になった。