第四話 精霊の力
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ひとしきり涙を流し、気がつけば夕暮れになっていた。部屋は暗くなり、窓の外を見ると空が茜色に染まっている。
涙を拭いた私は、ずっと寄り添ってくれていた4人を見て頭を下げた。
「ずっといっしょにいてくれてありがとうございます」
「頭をお上げくださいフィリスさま!」
サラマンダーが涙を拭きながら私の手を握ってくれた。
「なんなりとご命令ください!フィリスさまのご命令ならば今すぐこの部屋からお出しすることもできます!」
サラマンダーの言葉に、私は首を横に振った。
「サラマンダーさん、ありがとうございます。でも、お父さまが決めたことです。お父さまがゆるしてくれるまで、ここにいます」
夜になればきっとお父さまが部屋に来て、一緒に夕食を食べようって、私を抱きしめながら優しく言ってくれるはず。
全くフィリスは仕方ない子ねって言いながら、お母さまも抱きしめてくれるはずだ。
「あなたは世界で一番大切な私たちの宝物よ」
昨日、お父さまとお母さまは私にそう言ってキスをしてくれた。だから今にきっとこの部屋の扉が開いて……。
そんな私の思いとは裏腹に、その日お父さまとお母さまは私の部屋には現れなかった。現れたのは夕食を持ったメイドが1人。それも扉を開けるとさっと床に食事を置いて出て行ってしまった。
よほど怒っているのかもしれない。今日は部屋で1人で食べろということだろう。
私が食事をテーブルまで運ぼうと立ち上がろうとするとシルフさんが手でそれを制した。
「フィリスさま、私にご命じください。食事をテーブルに乗せてほしいと」
「えっでも……」
これくらいなら自分でもできる。そう言おうとすると。
「フィリスさま、どうか私にフィリスさまの力にならせてください」
懇願するようなシルフの目に、拒否するのはかえって失礼になるのかもしれないと思った私はシルフにお願いすることにした。
「シルフさん、おねがいです。食事をテーブルにのせてください」
「かしこまりました」
シルフはそう返事をすると、フワッと風が吹き、床に置かれた食事が宙に浮かび上がったかと思うとスーッと移動し、テーブルの上にそっと置かれた。
「すごい……。これが精霊の、シルフさんのちからなんですね」
初めて自分のお願いで力を使ってもらった私が感動していると、シルフはくすりと笑った。
「まだまだ序の口です。フィリスさまのご命令さえあればこの屋敷を吹き飛ばすこともできますよ」
そう肩をすくめながら冗談めかして言うシルフに、私も思わずくすりと笑う。
「シルフだけずるいですよ!私だってフィリスさまのお役に立ちたいのに!」
サラマンダーの言葉にウンディーネもノームも頷く。
「みなさん、ありがとうございます。またみなさんにもおねがいさせてくださいね」
そう言うと、3人はパッと顔を輝かせて何度も頷いてくれた。
「ではフィリスさま、冷めないうちにお召し上がりください」
シルフに促され食事を取ろうとしたが、ふと気になったことがあった。
「あの、みなさんの食事がありません。この食事をみんなでわけて食べませんか?」
私がそう言うと、なぜか4人はまた涙を流し始めた。
「えっどうされたんですか?どこか痛いんですか?あっ少ないからですか?ごめんなさい。あのそれなら私はいいので、4人でわけて食べてくださ……」
「違いますフィリス様!」
サラマンダーに言葉を遮られる。
「フィリスさま、私たちはどこも痛いところはありません。それに私たち精霊は人間のように食事をすることはありませんので、どうかフィリスさまが全て召し上がってください」
ノームがこちらを労るような眼差しで見つめながらこたえてくれた。
「そうなのですか?ではどうして泣いているんですか?」
私の疑問にウンディーネがこたえるように優しく微笑んだ。
「ご自身が辛い目にあわれているのに、私たちを心配してくださるフィリスさまの優しさに感動したんですよ」
そう言うと、ウンディーネは私の頭をそっと撫でてくれた。
「さあ、私たちは大丈夫ですから、ご心配なさらずお召し上がりください」
サラマンダーに促されてスプーンを手に取りスープに口をつける。
「……あたたかい」
そう呟いた途端、なぜかまた涙が止まらなくなってしまった。それでも食事を続ける。
「うん。おいしい。おいしいな」
ボロボロ泣きながら食べたからよく味はわからなかった。でも、明日には許してもらって、また朝からお父さまとお母さまとご飯を食べられるといいな。
そう思いながら完食した私は、その日精霊たちに見守られながら眠りについた。
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