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第一話 精霊と契約


「フィリス!本当にあなたはお転婆ね」


 優しく微笑みながら、私の頭についた葉っぱを取ってくれるお母さま。


「まあまあ、元気なのは良いことではないか。それでこそローズベリー男爵家の後継者だ」


 豪快に笑いながら頭を撫でてくれるお父さま。


「旦那様、支度が整いました」

「うむ。さあ行こうかフィリス、お前の6歳のお祝いをしよう」

「はいお父さま!」


 お父様とお母様と手を繋ぎ屋敷の中に入っていく。そんな私たちの様子を優しく見守る使用人達。


 10年前の懐かしい、泣きたくなるような優しい記憶。


 そんな優しい世界が壊れてしまったのは、その翌日のことだった。



※※※



 6歳の誕生日の翌日、私はいつものように庭園を歩き回っていた。


 お気に入りのバラのアーチの下にくると立ち止まり、思いっきり深呼吸をするとバラのいい香りがする。バラが咲き誇るこの時期ならではの私の日課だ。


 バラのいい香りに癒されていると。


「我が王の愛し子さまはバラの香りがお好きなのですね」

「え?」


 声がした方を見上げると、見たこともない綺麗な人が私を見下ろすように立っていた。ふわふわとした腰まである緑色の美しい髪に、春の優しい風を彷彿とさせる澄んだ緑色の瞳の女性……その姿はまるで。


「精霊みたい……」


 思わず私がそう呟くと、その美しい女性は目を細め、嬉しそうに微笑んだ。


「さすがは我が王の愛し子さま。我が名はシルフ。風を司る大精霊です」


 そう言うと、両手をサッと広げたかと思うと、私の周りをぐるぐると風が包み込む。その風で舞ったバラの花びらが幻想的でとても美しかった。


 精霊の話はもちろんお父様とお母様から聞いている。この国の人々はみんな6歳を迎えると精霊と契約し、その力を借りることができるのだ。


 お父様もお母様も、この屋敷で働く使用人もみんな精霊の力を借りている。


 だが大精霊の話はまだ聞いたことがなかった。私が知っているのは、6歳になれば火、水、風、土の精霊と契約ができるようになるということだけ。それに、わがおうのいとしごとは何のことなのだろうか?


 よくわからないが、せっかく精霊と会えたのだ。契約をしてもらえるようにお願いしてみようか?そんなことを考えていると。


「シルフ!抜け駆けは禁止だよ!愛し子さまとは私が最初に契約するんだから!」

「なにを言っているノーム。私が先だ」


 いつの間にか私の右に小麦色の短い髪に金色の瞳を持つ美しい女性が、そして左にはサラサラの肩までの長さの燃えるような赤い髪に赤い瞳を持つ美しい女性が立っていた。


 3人のあまりにも美しい女性に囲まれ見惚れていると。


「あら私を忘れてもらっては困るわ。水を司る大精霊である私ウンディーネこそ、愛し子さまの最初の契約精霊に相応しいわ」


 後ろから聞こえた声に振り返ると、サラサラと腰まで流れる青い髪に澄んだ水を彷彿とさせる青い瞳を持つ美しい女性が微笑んでいた。


「愛し子さま。ぜひ愛し子さまと最初に契約をする栄誉を私サラマンダーにお与えください」

「サラマンダーさん?」


 赤い髪の女性はサラマンダーという名前なのか。名前で呼ぶとサラマンダーは嬉しそうに微笑む。


「はい!私は火を司る大精霊でございます。ぜひ私と最初の契約を……」

「ちょっと待った!愛し子さま!土を司る大精霊である私ノームが先でございます!」


 サラマンダーの言葉を遮り話しかけてきた小麦色の髪の女性はノームという名前のようだ。


「いいえ、一番最初に話しかけたのは私シルフです。最初に契約する権利があるのは私……」

「あら、話しかけた順番なんて関係ないわ。そうですよね?愛し子さま」


 よくわからないが、4人の精霊はみんな私と契約をしたいと申し出てくれているようだ。とても嬉しい申し出だが、気になることがある。


「あの……」

「「「「はい!なんでしょう愛し子さま?」」」」


 4人に一斉にこちらを見つめてくる。


「私のなまえはフィリスともうします。お父さまお母さまにつけてもらったなまえでよんでもらえたらうれしいです」


 私の名前はいとしごさまではない。お父様お母様に名付けてもらったフィリスという大切な名前があるのだ。できれば契約をする精霊にも、ちゃんと名前で呼んでもらいたいのだ。


「なんと!名前をお呼びしてもよろしいのですか?」


 サラマンダーが目を輝かせる。


「なんて光栄なことでしょう」


 うっとりといった様子で呟いたのはウンディーネ。


「光栄でございますフィリスさま」


 優しく名前を呼んでくれるシルフ。


「フィリスさま!寛大なお言葉、ありがとうございます!」


 なぜか涙を流しているノーム。


 名前で呼んで欲しいというこちらがお願いしたのに、なぜか4人とも喜んでくれている。


「それではフィリスさま、誰と最初に契約をするかお決めになりましたか?」


 そうだった。ウンディーネの言葉に先程までの様子とは打って変わり、4人の目が鬼気迫るものになっている。


「あの……ごめんなさい、そもそも精霊とどうやってけいやくすればいいのかまだおしえてもらってないんです」


 精霊との契約のやり方については明日の午後に家庭教師から教えてもらう予定だったのだ。せっかく申し出てもらえたのに……。残念に思っていると。


「フィリスさま、精霊との契約のやり方は私がお教えします」


 そう言うと、シルフが精霊との契約のやり方を教えてくれた。


 まず、精霊が契約する人間に対して自らの名前を名乗り、名乗られた人間はその名前を呼んで「力をお貸しください」と言う。


 これに了承した精霊が人間にキスをすることで契約が成立するそうだ。


 思っていたより簡単に契約ができそうでよかった。


「おしえてくれてありがとうございますシルフさん」

「いえいえ礼にはおよびません。では早速私と契約を……」


 とシルフが言い出したところでまた揉め出してしまった。どうしよう。誰を最初にすればいいんだろう?いや、もういっそのこと……。


「きめました!」


 私の言葉に4人は言い争いをやめてシーンと静まり返った。私の次の言葉を待っているようだ。


「わたしは4人といちどにけいやくしたいです!」


 勢いよく私が放った言葉に、4人はポカーンとした後、お互いに顔を見合わせた。そしてギスギスしていた空気がフッと和らいだかと思うと、4人とも一斉に私に向かって跪く。


「我が名はサラマンダー」

「我が名はウンディーネ」

「我が名はシルフ」

「我が名はノーム」


 精霊の名乗りだ!精霊との契約が始まった!

 私は目を瞑りフーッと一度息を吐いてから4人を見てカーテシーをする。


「サラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノーム、私にちからをおかしください」

「「「「御意」」」」


 するとサラマンダーが私の右手を、ウンディーネが左手をとり、シルフが私の右隣、ノームが私の左隣に立った。


 そして右手、左手、右頬、左頬に4人が一斉にキスをする。次の瞬間、4人と何か目に見えない繋がりができたのを確かに感じた。


 驚いて4人の顔を見ると、みんな嬉しそうにこちらを見つめている。


「これからよろしくお願いします、フィリスさま」

「こちらこそ、よろしくおねがいします!サラマンダーさん、ウンディーネさん、シルフさん、ノームさん!」


 この時精霊との契約に夢中だった私は気がついていなかった。何もいない空間に向かって何人もの名前を呼びながら話し続ける私の姿を訝しげに見つめる使用人のことを。



※※※

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― 新着の感想 ―
[一言] 本来は男爵家令嬢だったが、愛し子と判明して王家と婚姻(=男爵家では・・・・で公爵家に養女へかな)の為に、色々とかな。
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