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第十六話 可視化

第五話からのフィリスのその後になります。


※※※



 来年にはデビュタントに参加するために10年ぶりに部屋から出ることができるはず。



 いや、もしかしたらデビュタントに参加するために貴族のマナーやダンスの練習などのために今年こそ部屋から出る許可が下りるかもしれない。



 私の願いがついぞ叶うことがないとわかったのは、無事に16歳を迎えたデビュタントの前日のこと。



※※※



 1年前、デビュタントへ向けて可視化訓練とマナーやダンスの練習を更に熱心に取り組もうと決意した矢先、なぜか食事が一切運ばれなくなった。


 初めは、いつも食事を運んでくるメイドが体調を崩し、他の使用人も仕事が忙しくて忘れられてしまったのではないか?と考えていた、1週間、2週間経つとさすがに違うと気がつく。



 もしかしたらノームから食料をもらっていることがわかって、食事を与える必要がないと思われたのかしら?



 そう考えるようになった。確かにここ数年、与えられる食事はとてもじゃないが食べられるようなものではなかった。


 具なしのスープは飲めるが、カビが生えたパンはさすがに病気になりそうで食べられず、申し訳ないがサラマンダーに頼み燃やしてもらっていたのだ。


 そう考えると、せっかく用意してもらった食事を燃やしていたことがバレてしまって怒りを買った可能性もある。


 とにかく食事の用意もなくなり、ドアが1日に1回開く機会もなくなったわけだが、それでも希望を持ち続けた。


 デビュタントに向けて、精霊の可視化訓練を更に強化し、マナーやダンスの勉強、練習を毎日欠かさず行っていたのだが、何かおかしい。


 そう、私のデビュタントについて屋敷の誰も気にしている様子がないのだ。


 メイドがデビュタントで着るドレスの採寸にくるでもなく、マナーやダンスの練習のために部屋から出してもらうこともない。


 家庭教師を入れてくれるわけでもなく、お父様お母様からデビュタントについての話すらされなかった。


 ここまでくれば嫌でも気が付いてしまう。


 

 お父様お母様は、もしかしたら私をデビュタントに参加させる気がないのでは?



 そうなると私に残された道はひとつ。可視化を成功させて、自らを精霊王の愛し子であると認めてもらうのだ。


 デビュタントはあくまで私がお父様とお母様のお許しのもと部屋を出られる絶好の機会というだけで、私の願いはお父様とお母様に認めてもらい、堂々と部屋を出ること。


 そして、私を慈しみ育ててくれたサラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノームを国中の人々に見てもらいたい。


 6歳で閉じ込められてから、長い間共に過ごしてきた4人は、最早本物の家族より家族らしいと言っても過言ではないだろう。


 可視化により精霊王の愛し子だと証明できれば、私を部屋に閉じ込めておく理由がなくなる。四大精霊いわく、これまで精霊の可視化に成功した最小年齢は20歳。


 それでもやらなければならない。


 そして遂に、デビュタントの約1週間前に四大精霊を可視化できるようになったのだ。



※※※



「本当に成功したの?私からはいつもの4人でしかないからよくわからないのだけど」


 可視化は私が見えている4人の姿を他者に見せることだ。可視化成功と言われても、私には何が成功なのかよくわからなかった。


「フィリス、間違いなく成功しているよ」


 そう言ってサラマンダーが頭を撫でてくれる。


「すごいよフィリス!16歳で成功させるなんてよくやったね」


 ノームがギュッと抱きしめてくれた。


「私たち精霊にはわかるわ。ちゃんと成功しているから安心して」

「よくがんばったわね」


 ウンディーネとシルフはとても優しい眼差しで私を見つめてくれる。


 実感は中々わいてこなかったが、4人が言うなら間違いない。遂に可視化に成功したのだ。


 これで精霊王の愛し子であると証明することができる。10年取り組んで成し遂げた可視化に心が震えた。


 じわじわと実感がわいてきてからは、4人と涙を流して喜びを分かち合い、協力してくれた4人にひたすら感謝の言葉を述べる。


 そのうちに、段々と不思議な気持ちがわいてきた。


 もちろん可視化は嬉しい。ずっと取り組んできた成果なのだから。


 しかし、自分でも上手く言えないのだが、なぜかモヤモヤするのだ。私のその様子に気が付いたのか、シルフが心配そうに声を掛けてきた。


「どうしたのフィリス?浮かない顔をして」

「……うん。上手く言えないんだけど、モヤモヤするの」


 なぜ私はモヤモヤしているのだろうか。可視化を成し遂げ、お父様お母様に精霊王の愛し子であると証明し、認めてもらって外の世界へ出ることが私の悲願だったはず……。


「フィリス大丈夫?」

「どうしたの?」

「興奮して具合が悪くなってしまったのかしら?」


 私を心から心配してくれているのがわかる4人の様子を見て、心のモヤがスッと晴れた気がした。



 ああ、そういうことだったのか。



 私はスッキリした顔で4人を見つめ返す。


「サラマンダー、ウンディーネ、シルフ、ノーム、心配かけてごめんなさい。ありがとう、もう大丈夫よ」

「本当に?確かに何かすっきりした顔だけど」


 なお心配そうな4人に、私の今の気持ちを話すことにした。


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