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第十四話 後悔(国王視点)


 今から2年前。自分の娘を王太子妃、未来の王妃にしたかった公爵と、金髪に澄んだ青い瞳を持つ美しいオリバーに恋をしていた公爵令嬢。


 当時オリバーの婚約者にはもう一つの公爵家の令嬢を有力視していたが、この国で婚約が結べるのは16歳を迎えてからだ。


 

 それまでにどうにかその状況を変えたい。



 そこで思いついたのが"精霊王の愛し子"を偽ることだったという。

 そこからは外交を担っていた公爵の顔の広さもあり、伝承される四大精霊の姿に似た人物を他国から探し出し、報酬を支払ってなりきってもらった。4人とも平民であったため、それらしい言動が出来るようにするのに時間を要し、準備が整ったのがデビュタントの1ヶ月前、こうして"精霊王の愛し子"が完成したという。


「精霊王の愛し子は200年以上も不在だったから偽ってもばれないと思った」


「四大精霊という尊い存在にわざわざ力を見せろと言い出す者がいるはずもなく、もしいたら無礼だと怒るふりをすればごまかせると思った」


 尋問を受けた公爵の語った内容に思わず頭を抱えた。



 こんなふざけた考えにまんまと騙されてしまったとは……。



 御神託があったことで、今世に本物の愛し子がいることがわかり、公爵家でも本物の保護に動いていたという。


 しかし、直ちに、という精霊王からの保護命令に叶えずお怒りを買い、此度の事態になったということだろう。


 精霊王の愛し子を偽り、本物の精霊王の愛し子を助ける機会を間接的に妨害したことで、結果的に国中の精霊が消える原因を作ったコーンウォール公爵家の者は爵位を剥奪、平民となった上で男女問わず炭鉱送りとした。


 無論、ベネディクト・コーンウォール元公爵令嬢はオリバーとの婚約を破棄の上、炭鉱送りとなったわけだが、最後までオリバーの名前を叫び続けていたという。


 コーンウォール公爵家の処遇が決まった後も、本物の精霊王の愛し子はなかなか見つけられなかった。



※※※



 愛し子を探している間にも日々の生活は続いていく。


 初めは嘆き、怒り、戸惑い、悲しんでいたもの達も少しずつ立ち上がり、協力しながら暮らしを立て直している。


 たとえば、他国を真似た水を川から各家庭に送る仕組み。以前精霊の負担を嘆く声を受け、この仕組みを提案したときは精霊がいるのに不要だという声の方が多く会議で認められなかった。

 しかし、その精霊の力が借りられなくなった今は大至急で工事に取り組んでいる。それが完成するまでは各々で川から水を汲んでくるしかない状況だ。


 火の精霊に頼み火をおこすことができなくなったが、他国の王と以前交わした火打石の話を思い出し、石好きで有名な貴族にその事を話すと我が国でも火打石が採取できることが判明。

 こちらにも人員を割き火打石を採取させている。コツが必要で時間はかかるが、火を起こせるようになってきた。


 風の精霊に頼み洗濯物や入浴後の身体をさっと乾かすことはできなくなったが、これは風の精霊と契約をしているものが少ない地方で取り入れられていた"干す"方法や布で身体を"拭く"方法で、時間はかかるが何とかなっている。

 

 土の精霊に頼み田畑を耕すことができなくなった今は、他国に倣い作った道具を使い耕すようになった。


 こうして何とか日々の生活を送れるようになってきた私たちが感じるのは、今までどれほど精霊に頼って生きてきたかということだ。


 精霊の力を借りられない日々はもちろん不便である。


 欲しい時、使いたい時に自由にいくらでも使えていた水は使えなくなったが、川の水を利用したり雨水を貯めたりすれば最低限の水は確保することができた。


 火おこしに時間はかかるし、火加減の難しさや、せっかくつけた火が消えてしまう不便さはあるが、それも薪を増減させることや、火をおこし直せばよい。


 すぐに乾かなくなってはしまったが、洗濯物は干せば乾く。身体は拭けば問題ない。家や屋敷、王城に至っても風の力で清潔に保っていたのだが、これも時間や労力はかかるものの人力で掃除をすることで何とかなっている。


 頼めばすぐに耕せていた田畑は、これも時間も労力もかかるが耕せるようになった。


 そう、不便ではあるが人間の力でも暮らしていけるのだ。


 力を貸したいと手を差し伸べてくれた精霊に力を借りることは悪いことではなかったとは思う。


 しかし、何でもかんでも精霊に頼りすぎた結果、精霊なくして国中が混乱に陥ってしまった。


 自分達で何でもしなければならない他国よりも精霊の力を借りられる我が国は優れていると、どこか驕りもあったのかもしれない。精霊の力が借りられなくなる日が来るはずないという思い込みもあった。



 どうしても人間の力では難しいことに関してのみ精霊の力を借りる。


 

 それさえしておけば、生活に困ることはなかったのではないだろうか?


 我々が不便に感じる暮らしが他国では日常なのだ。


 今までがどれほど恵まれていたのか、どれほど精霊を酷使していたのか、後悔してもしきれない。


 そんな中、精霊が消えてから3ヶ月経ったある日、私の元に本物の精霊王の愛し子に関する報告があった。



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― 新着の感想 ―
4大精霊役の食事とかトイレとか寝る場所ってどうしてたんだろう?王宮にいたとき用意されるはずがないんだけど我慢してたのかな? 炭鉱送りは処罰が軽いんじゃない?実質国家反逆レベルだし一族郎党拷問の末公開…
薪が燃えるのも、洗濯物が乾くのも、自然現象は全て精霊の存在があればこそ——なんて世界観だったら摘んでましたね
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