第十三話 偽者(国王視点)
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「はい、実は陛下に見ていただきたいものがあるのです。これまで四大精霊様のお姿はどの書物も一様にここにいる4人と同じ姿で描かれておりましたが、ここをご覧ください」
そう言うと、大司教はその司教が見つけ出したという書物を開いた。そこに描かれていたのは。
「女性?」
覗き込んだオリバーが呟いた声は思いの外、部屋に響いた。
「女性だと⁈どういうことだ大司教!だが確かに他の書物では男性の姿であった!私もそれは確認しておる!」
そうだ、どの書物にも男性の姿で描かれていたのだ。
「陛下、陛下の読まれた書物に描かれた姿も正しく、そして、この書物に描かれた姿も正しいのです。この書物は今まで見つかっていた四大精霊様に関する書物の中で最も古いものであるようです。書庫に眠っていたものを司教が見つけ出したようです」
「そんなものが……それで一体どういうことなのだ?」
大司教が語るところによると、精霊王の愛し子の性によって四大精霊の姿が変わるという。愛し子が男性であれば側に侍る四大精霊の姿は男性、愛し子が女性であれば側に侍る四大精霊の姿は……。
「女性、ということになるな」
チラリと4人の男に目を向ければ、その顔色は今や青を通り越して真っ白になっていた。
「今年で建国858年を迎えるフェアリアル王国の歴史で判明していた精霊王の愛し子様は3名、みな男性でありました。だからこそ、これまでの書物に描いていた四大精霊様のお姿は男性だったのです」
そういうことだったのか。しかし。
「なぜその司教はすぐにそれを言い出さなかったのだ?」
「そこが問題でございました陛下」
そう言うと大司教は目線をベネディクト嬢に向ける。
「まさか……」
「はい、コーンウォール公爵家が司教を脅していたそうです」
大司教が続けて言うには、司教は6ヶ月前ベネディクト嬢と会ったときから四大精霊に疑いを持ち、秘密裏に調べていたという。
そして3ヶ月前、ここにいる者達が偽者である証拠の書物を見つけ出したところで公爵家から妹を人質にとった脅迫を受けて口をつぐんでいたという。
なんということを……。
「家族を人質にとられては口をつぐんでも仕方あるまい。ベネディクト嬢、何か申し開きはあるか?」
すると、それまで顔を伏せ震えていたベネディクト嬢が口を開いた。
「陛下、わ、私は父に命じられただけなのです!父に逆らえば酷い目に……!全ては父の命でやったこと!私は確かに精霊王の愛し子ではありません!ですがこの一年、王太子妃教育も教育係からお墨付きをいただく程一生懸命に取り組んで参りました!どうかお許しを!オリバー様……私はオリバー様をお慕いしております!その想いは偽りではありません!どうか、どうか……!」
ハラハラと菫色の瞳から流れ落ちる涙。真実が明らかになる前であれば誰もが心を打たれたに違いないが、今となってはもう……。
「偽りを認めたか……。コーンウォール公爵令嬢、残念だ。たとえ公爵に命じられたとしても、精霊王の愛し子の名を騙った事実は消えぬ」
「ベネディクト、いやコーンウォール公爵令嬢……君にはがっかりしたよ」
「陛下!オリバー様……!」
精霊王の愛し子を偽ったことは、いくら公爵家といえど見過ごすわけにはいかない。
「コーンウォール公爵令嬢、並びに4名を拘束し、話を聞くように。コーンウォール公爵を呼べ。コーンウォール公爵家の者達は使用人1人残さず国外逃亡をしないよう屋敷に閉じ込めておくように!」
「かしこまりました!」
私の命で部屋に入ってきた騎士に拘束された5人は、抵抗することなくそれぞれ取り調べを受ける部屋へ連行されていく。
「陛下!恐れながら申し上げます!」
宰相は焦燥感に駆られた様子で声を掛けてきた。
「どうした?」
「はい、コーンウォール公爵令嬢は精霊王の愛し子様の偽者でありました。しかし精霊王様からのお告げの内容からすれば、本物の精霊王の愛し子様は別にいて、1週間前に直ちに保護が必要な状態に陥っていたということになるのでは……?」
そうだ!本物の愛し子は今どこにいるんだ?
「そ、そうであった!では今すぐ本物の精霊王の愛し子を探す命を……!」
焦る私に大司教は首を横に振る。
「陛下、無駄でありましょう。今や国中の精霊が消え、申し上げた通り、今朝精霊王様の像が崩れ落ちました。このことから察するに、もはや精霊王様は我々を見限られたのです。本物の愛し子様をお守りできなかったためにお怒りを買ったのでしょう。既に愛し子様はこの国に、あるいはこの世にいらっしゃらないのではないでしょうか?」
確かに大司教の言う通り、我々は精霊王様のお怒りを買ってしまったのだろう。しかし、愛し子がもうこの国にいないとは限らない。生きている可能性も十分あるのだ。もし見つけ出し、保護さえできればお怒りを鎮めることができるかもしれない。
そのわずかな可能性に懸け、王命で貴族平民問わず1つ1つの家を隈なく探させた。その間にもコーンウォール公爵を中心に尋問を行って判明した事実は、何ともお粗末な内容であった。
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