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1-4

蒼真の全身から誇り高きマナの気配が漲った。

これまでの修行が実を結び、遂に異界への旅立ちの時が訪れようとしていた。


「龍一の師、ありがとうございます。この試練を無事くぐり抜けられるよう、私は精一杯尽くします」


蒼真が龍一に感謝の言葉を述べた時、ふと彼の胸中に家族の姿が蘇った。


蒼真が煌朧の櫂への入門を決めた時、両親や弟の蒼空からは強い反対があった。


「まだ若すぎる。そんな世界に関わるべきではない」

父の賢介は組織の実態を気にかけていた。


「兄ちゃん、ボクが止めてやるから!」


運動神経に優れた弟は、異能に目覚める蒼真を心配していた。


しかし蒼真はすでに決心を固めていた。自分の異能を活かし、人々を守る存在になりたかったのだ。


「ごめん。でも、これが私の使命なんだ」

そう言い残し、蒼真は家族から離れていった。


家族とは疎遠にはなったが、その分、使命感だけは強く胸に燻っていた。


「ああ、期待せずにはいられんな。ただし、げしつブンには気をつけよ」

「げしつブン?」

「異界における常識の軽視じゃ。この世界との違いを肝に銘じるがいい」


龍一から受けた最後の助言を胸に留め、蒼真は煌朧の櫂の面々に見送られながら旅立った。

目的地は都内の鬼門、数多の霊的パワースポットのひとつに数えられる場所だ。


煌朧の櫂では、そこを異界へのゲートと指定していたのだ。


「ここから、一人で異界へと渡らねばならぬのか」

蒼真は立ち尽くした。その先に広がるのは、今まで見たことのないような光景だった。


苔が生い茂る古木が立ち並び、無数の経筒が宙を舞う。

地面が蒸すような熱気すら立ち昇っていた。まるで異世界への入口のようだ。


「では、参ります!」


蒼真は勇気を振り絞り、光景の先へと一歩を踏み出した。

異界からの導きの糸を手繰り寄せるべく、蒼真はマナを精一杯に募らせながら歩を進めた。


人里離れた場所で、次なる試練が始まろうとしていた。




蒼真は異界への入口と呼ばれるあの光景に足を踏み入れた。


薄暗い森の中を進むと、そこには見たことのない奇怪な生物たちの気配を感じ取ることができた。梟のような鳴き声が遠くから聞こえてくる。


「これが...異界なのか」

蒼真は自身のマナを高次元に振るい、警戒しながら前に進んでいった。


ゴロゴロと地鳴りがした。足場である地面が次第に不安定になっていく。蒼真は地面に視線を注げば、そこには無数のごつごつとした泥状の塊が蠢いているのが見えた。


「これでは落ち着いて進めない...!」

間一髪のところで、蒼真はマナの糸を放って上空に浮かび上がった。そうすることで、その怪しげな塊の動きを上空から見下ろすことができた。


果たしてこの先に、龍一が言う『導きの糸』は存在するのだろうか。

蒼真はそう自問しながら、異界の地を無事に通り抜けるべく浮遊を続けた。


しかしその時、蒼真の正面から黒々とした影が迫ってきた。

巨大な顎を持つ化け物が、蒼真の浮遊する姿を狙っている。異界においてついに、第一の試練が蒼真に課されようとしていた。




巨大な顎を持つ化け物が迫ってきた。蒼真の正面から黒々とした影が塊となり、獰猛な形相を現しはじめた。


「くっ...これが異界の化け物なのか?」

蒼真は自身を守るため、マナの糸で防御の構えをとった。すると化け物の口から赤黒い液体が吐き出され、蒼真めがけて放たれた。


「ぬわっ!?」

蒼真はその液体の異様な気配に膂力を感じ取り、体勢を替えた。しかし液体はすでに蒼真の防御線を超え、彼の肌を掠めていく。


「う、うぅっ!?」

その液体に触れた部分から、蒼真の肉が蝕まれるような痛みが走った。防御を切り崩され、蒼真は上空から回転しながら落下していく一方だった。


「ま、まずい...!あれが触れれば、私は...!」

化け物はさらにその液体を噴出し続け、蒼真の落下への追撃を開始した。蒼真は緊迫の中、ある秘策を思い付いた。


「かくなる上は、これしかない!」

蒼真は自らのマナをより高次元に振るい、全身に守りの膜を展開させた。そうすることで化け物の液体攻撃をある程度は防げるはずだった。


しかし、それでは化け物を圧倒できそうにない。どうすれば勝利に足を踏み入れられるのか――。


異界での第一の試練は、まだまだ終わったわけではなかった。




守りの膜で液体の一時的な防御はできたものの、化け物の攻撃は絶えるどころか、ますます激しさを増していった。


「ぐえっ...こ、この程度じゃ済まされない!」

蒼真は己のマナを渾身の力で高次元に振るい、霊的な結界を展開した。


霊障幻衆(れいしょうげんしゅう)!」

その言葉と共に、蒼真の周りに無数の怪しい姿の霊々しい気息(きそく)が渦を巻きはじめた。

やがてそれらは、化け物の存在を捕捉するかのように集束し、一気に化け物へと襲いかかった。


「ぐおおおお!?」

化け物はその凄まじい霊圧に怯えつつも、液体の攻撃で応戦しようとする。

しかし蒼真の放った霊的な気息は、化け物の液体をも切り裂き、化け物の本体に深い傷を与えていった。


「な、なんという力だ...!」

化け物は蒼真の力に圧倒され、次第にその姿を崩していく。

やがて、化け物の姿は霧散し、蒼真の前から消え去った。


「フフフ...よくやった蒼真!」

化け物の姿から、にわかに龍一の影が現れた。その正体は、蒼真への試練の演出に過ぎなかったのだ。


「師匠...あれは一体...?」

「御覧の通り、ただの幻術じゃ。しかし異界においては、幻とてよもや現実を超える」

「つまり...?」

「つまりこの世界では、想像を絶する出来事が実際に起こり得る。おまえの精神を試す良い機会となったろう」


龍一の言葉に、蒼真は唖然とした。この試練のすべてが、ただの幻術に過ぎなかったと知って。しかし、その裏に異界の常識が潜んでいたことを悟った。


「分かりました。この先はそういった出来事への備えが必要だと」


「しかしそれでいい。今回の試練を通じ、おまえの異能への可能性を改めて確信できた」

龍一はにっこりと微笑んだ。


「これで現実世界へ戻るぞ。そしてあと一つ、最後の試練が控えている」

「了解しました」


龍一の言葉に従い、蒼真は異界からこの世界への帰還の岐道(えだみち)を進んでいった。

そして、待ち受ける最後の試練に身を削ぐことになる。




現実世界に戻った蒼真は、再び龍一の前に姿を現した。


「お帰り、蒼真。異界での試練は無事だったようだな」

「はい、お陰様で。しかし、あの世界の常識のなさには驚かされました」

「フフフ、それが異界の本質だからな。そして、お前はそれを乗り越えた」


龍一は満足げに頷くと、続けて言った。


「だが、最後の試練が残っている。それは、お前にとって最大の難関となるだろう」

「最大の難関...?」

「そう。それは、お前自身との戦いだ」


蒼真は一瞬、目を見開いた。自分自身との戦いとは、一体どういうことなのか。


「お前は己の力を恐れている。そして、その力を完全には受け入れられずにいる」

龍一の言葉は的を射ていた。確かに蒼真は、自分の異能の力に戸惑いを感じていたのだ。


「だが、その力を真に自分のものとしなければ、お前は真の力を発揮できない」

「...分かりました。では、どうすれば」

「瞑想だ。己の内なる力と対話し、それを受け入れるのだ」


そう告げると、龍一は蒼真を瞑想室へと案内した。そこで蒼真は、自分自身と向き合う最後の試練に挑むのであった。




瞑想室に入った蒼真は、静かに目を閉じて座った。自分自身と向き合うため、深い呼吸を繰り返す。


「私の力...私の異能...」

蒼真は己の内なる力の源泉を探るように、意識を内側に向けていった。


すると、蒼真の脳裏に1つの光景が浮かんできた。

それは幼い頃の自分が、得体の知れない霊的な存在に怯えている情景だった。


「あの時から、私は自分の力を恐れていた...」

幼い自分は霊的存在から逃げ惑い、時には傷つけられもした。

その経験が、無意識のうちに蒼真の力への恐怖を生み出していたのだ。


「だが、もうあの頃の私ではない」

蒼真は瞑想の中で、今の自分に言い聞かせるように呟いた。


「私には守るべき者がいる。家族も、仲間も...そして、この世界も」

その言葉と共に、蒼真の内なる力が反応を見せ始めた。

恐怖心とは裏腹に、力は蒼真の意志に呼応するかのように高まっていく。


「そう...私はこの力を、皆のために使うんだ」

その覚悟が決まった瞬間、蒼真の全身から強烈なマナの奔流が迸った。


「お、おお...!これが、私の...!」

目を開けた蒼真の瞳は、澄み切った青に変わっていた。

恐怖に怯えていた彼の表情は消え、凛とした強い意志が宿っている。


「よくやった、蒼真」

その変化を感じ取ったのか、龍一が瞑想室に入ってきた。


「お前は自分自身と向き合い、真の力を手に入れた。これでお前の試練は全て終わりだ」

「ありがとうございます、師匠。これで私は、皆を守る力を得られたのですね」

「ああ。そして、お前はこれから煌朧の櫂の一員として、その力を存分に発揮することになる」


こうして蒼真は、全ての試練を乗り越えたのであった。

彼の真の戦いは、これからようやく幕を開けるのだった。

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