(ゲテモノ食いで冒険者の)美女と(いつの間にかSランクの魔物に認定された)野獣とシスコンと超能力と
注・飯テロと恋愛は期待しないように。
このお話は頭がおかしいと思った方が正常です。
最近の異世界のあるところに、
それはそれは美しい乙女がおりました。
彼女の冒険者の名前はベルといい、
本名はスズといいました。
ある日、ベルがいつも通り
冒険者ギルドへ向かうと、
いつもは賑わいを見せるその施設は、
静まりかえっていました。
「皆さん、どうしたの?」
ベルが聞くと、副ギルド長であり
彼女の姉のアナが走って来て、
ベルに抱きつこうとしました。
ベルはいつも通りそれを躱してアナを
手刀で気絶させました。
「…それで、皆さんどうしたんですか?」
ベルが笑顔でもう一度聞き返すと、
近くにいた弓使いの青年が引き気味ながらも
こう言いました。
「実は、昨夜遅くに新しい依頼が来て……。」
「依頼?」
今度は槍使いの女性が答えます。
「その依頼が、推定Sランク、けれども、
どんな本にも載っていない……。
そんな魔物の討伐だったのよ。」
「なるほど……。」
「ベルさん、頼まれてくれねぇか?
俺たちじゃどうしようもないんだ。すまない。」
斧使いの男性がベルにそう言いました。
ベルは少し考えます。
「それは…美味しそうですか?」
『えっ』
ベル以外の全員がドン引きしているのを他所に、
アナが起き上がり、
聞いていたのか聞いていなかったのか
それに答えました。
「なんでも、毛むくじゃらで角が太くて、
かなり凶暴らしいわ。少なくとも、
美味しそうじゃないかなぁ。
スz…じゃなくて、ベルちゃん、
これはかなり危ない依頼だから、
嫌ならやめた方が…」
「なるほどぉ…。ちなみに、外見は?」
「えっ?えっと……。なんでも、
獅子と山羊と牛と熊を合わせたような
見た目らしいけれど…。」
「お姉ちゃん、全部、食べれるよ?」
「えっ、あ、あぁ…。ん?
獅子は…ちょっと…。」
「いや、食べたことあるよ。大丈夫。
割と美味しい。」
「そ、そう。でもそんなベルもかわいい…。」
「…私はお姉ちゃんのその感性の方が
わからないのだけれど……。」
「ベルは確かにべっぴんさんですからねぇ。」
魔法使いの老婆が微笑みます。
それによってなんとなく空気が和んだ後に、
ベルは意を決して言いました。
「私、討伐行きます!」
おおぉっと歓声が上がります。
…が。
「それで、その魔物を食べてきます!」
『ほぁ?』
次の言葉で上がった間抜けな声を
背中に聞きながら、ベルは身一つで
冒険者ギルドを飛び出して行きました。
「あれが、ゲテモノ食をこよなく愛し、
冒険者の素質に愛されたうちのエース…。」
「アイテムボックス持ち、武器は自作…。
ドラゴン討伐だってあの年で
もうすぐ20回だろ?」
「ねぇ、アン。あの子何歳?」
「16歳ね。私は副ギルド長になった19歳から
あの子の訓練には付きあってなくて………。
だから、13歳からどれくらい
強くなったのか…。」
「そっか、6歳差だもんね。」
「ついたあだ名は【異食の討伐女王】、
【騎士団もドン引きの冒険者】、
【ゲテモノ喰らい】…。ひゃあ、怖…」
ギルドでこんな話がされているのを知らずに。
「【転移】」
依頼書についていた地図の場所まで一気に直行。
「【加速】」
時速90kmで走って。
「【索敵】」
半径1km、円状にターゲットを探します。
「いた!!」
そこには……。大きな一角馬が。
「まずは腹ごしらえだよね!おりゃーっ!」
一気に放電します。
ベルには超能力者の側面もあるのです。
そして…。
「生ユニコーンって美味しいー!」
平然と、血まみれの…
ユニコーンだった肉塊にかぶりつきました。
味付けは無し、生、
毛皮を取っただけというトリプルパンチ、
飯テロではなく、
食中毒で死んでしまいそうな食べ物を
ベルは美味しそうに食べ進め……
「ご馳走さま!!」
骨を埋めると、やっとのことでターゲットを
探し始めました。
「……。【超索敵】っと。発見!
じゃあ、【超加速】!!」
恐ろしい勢いでその魔物に近付き、
その姿を確認します。
(なるほど…。かなり大きくて、
確かに強そう…。)
けれどもそれは、ベルのパッと見の感想で。
「倒せないわけじゃあないもんね!」
平然ととんでもないことを続け、
ベルは放電の準備を始めました。
「よーし、いっけーー!」
ドッカーーーーーン!!!!
ものすごい爆音が鳴り響きます。
ベルは爆風でスカートをはためかせながらも
ズンズン進み、魔物にしのび寄りました。
魔物は辛うじて生きながらえており、
フラフラと立ち上がったところでした。
「とどめだっ!」
ベルは魔物の心臓あたりに
鋭い3本のクナイをぶっ刺し、
そこから電気を流しました。
魔物はひとたまりもなく倒れ込みました。
「うーん…。じゃあ、こいつは…
『野獣』と名付けよう。うーん。それにしても、
こんなに美味しそうなのにギルドに
持ち帰らなくちゃいけないなんて…。
いや、また狩れば!」
その後、ベルは2体の野獣を狩り、
ギルドへ持ち帰りました。
満面の笑みを浮かべる口元に真っ赤な口紅を
たくさんつけたベルを見て、
ギルドの面々は心の中で野獣に合掌し、
アナは全く気にせずベルに抱きついたのでした。
読んでいただきありがとうございました!