閑話 クラスメイトたちの末路
亡国の王、今は魔王軍人族代表のイワンは、アズサのクラスメイトと称する者達の相手をしていた。
「佐々木は俺達に1人たった銀貨50枚(50万円)しか渡してくれなかった」
「俺は佐々木に指輪を取れと言ったら、銃で手首ごと吹っ飛ばされた」
「冒険者ギルドでは、ドブさらいしか仕事がない。しかも、1日やって大銅貨3枚(三千円)しかもらえない。佐々木の政策が悪いせいだ!」
・・・ワシは魔王軍の人族の幹部イワン。人口三万人の公国の公王だった。
今、アズサ殿の元クラスメイト10人が、魔王軍駐屯地まで陳情に来ている。
アズサ殿が、城を出たとき、一週間分の生活費を渡されるはずが、役人に中抜きされて、銀貨2枚しかなかったと言う。
それに対して、彼らは銀貨50枚で不平を言う。
草原の戦いで、ライラの右腕が吹っ飛ばされたとき、マスターの指輪が破壊されて、術は解けていたと言うが、掛けられた本人達は確認しなかったのだろうか?
魔王軍が王都を占領しているのだ。魔族や魔物討伐の仕事はない。
ドブさらいはライラの時は、1日小銅貨3~5枚(300円~500円)だったのを知らないのか?
アズサ殿が最低賃金を、かの世界の法令をそのまま当てはめるのは早計だとして、出来る範囲であげたのだ。知らないのだろうな。
「その銀貨50枚は、アズサ殿のポケットマネーだ。魔王軍の報酬と、獣人族の集落で、スキルで稼いだお金だと聞くが、君たちは自分で外の生活をすると選んだのだろう?」
「な、何だと、あいつ、そんなに持っていたのか?ズルイ!」
「ケチだな。あいつ」
・・・これはダメだな。
「ドブさらいが嫌なら、薬草採取でもやればいいではないか?」
「薬草なんて知らないぞ。聞いたら下っ端からやれと言われた」
「俺たちは勇者だぞ!1日小銅貨数枚で荷物運びなんて出来ない!」
・・・うん。これはダメだな。
「で、君たちは何を求めてきたのだ?」
「「「俺たちを魔王軍に入れてくれ!佐々木よりも役に立つ」」」
「無理だな。お帰り願おう」
・・・ここで、ヤマダという右手首がない勇者が悪い顔をして提案してくる。
「このままじゃ。あんた、佐々木に抜かされるぞ!俺たちを味方に付ければ、功績をあげられるぜ!」
・・・ほお、発想は悪くはないが、突発的すぎる。
アズサ殿が受けたかの地の平民学校の教育には興味が湧くが、こいつは短絡的だな。
発展途上の年齢だ。高度な教育を受けた分、悪い方良い方、両極端に転がるのだな。
「ワシは今のままで満足している。それに、魔王軍幹部として、元公国民を守らねばならない。魔王軍内の出世競争には興味ない」
「意気地がないな~」
「おう、皆、こうしようぜ。魔王軍は実力が全てと聞いたぞ。俺たちがお前を倒せば、幹部になれるんじゃねえ?」
「そうだ。俺たちと勝負しろ!」
「しょぼいおっさんだぜ。誰と勝負したい?選ばせてやるよ」
・・・頭の回転は悪くはないが、またしても短絡的すぎるし、そういったこと、本人の前で言うか?
「ほお、そうきたか?勝負と言ったな?で、何時やるのか?」
「「「今すぐだ!」」」
・・・ワシは右手を挙げて合図をした。敵対的な勇者のジョブを持つ者と会うのに、丸腰で会うわけないだろう?
バン!バン!バン!バン!
・・・ワシのすぐ後の天幕の仕切りから、エミリー率いる管理班が、射撃を実施した。
「ウグ!」
「卑怯だぞ!」
「な、何で・・これで終わりなのか・・」
「ああ、終わりだよ。境遇に同情するがな」
・・・アズサ殿は、苛烈で思慮深い。
魔王アキラ様と同じだが、違いは、アキラ様は豪快で、アズサ殿は物静かな性格だ
そして、どちらも、どこか甘い。
だから、人と魔族は喜んで従うのだ。
「アズサ殿に、これ以上、同郷の者殺しをさせるわけにはいくまいて」
「イワン様・・いえ、イワン殿、アズサ殿は、間違いなく魔王軍の中で出世していくでしょうね」
「ああ、エミリー、ワシはもう公王ではないのだ。様付けはいらない。アズサ殿が出世すれば、魔王軍の中の人族の地位は上がっていくだろうな。
だから、余計な虫は我等が始末しなければならない」
この日、クラスメイト10名が来たが、追い返したとイワンは、アズサに報告した。
☆聖王国
・・・魔族領において、人族の突出部であった精霊国が魔族に陥落したとの激震が、女神信仰圏にもたらされた。
「聖女様、精霊国の情報を、正確に知っていると申す者が、来ております」
「そ、会いますわ。情報が有益なら、白金貨(数億円)を出すわ。どんな人なの?」
「・・・それが、聖女様と同じで、黒髪に黒目、一部、茶髪がいますが、召喚された者と言ってます」
☆
「・・・と言うことです。佐々木と言う奴がスキルで自衛隊の装備を作り出し、魔王に加担してます」
「なるほどね。
それで、規模は?召喚だと思うけど、制限とかあるのかしら?」
「それは・・わかりません」
「・・そ」
報告からは、統制された軍隊らしい。数千人だったら、もはや勝てない。数百人なら、犠牲を無視すれば勝てるかも。いや、勝てない。
数十人の近代軍と魔王軍を組み合わせられたら、もはや、勝てないでしょうね。
魔王軍ですら手を焼いていたのに・・
「わかったわ。ケンタ君だったね。謝礼の白金貨を渡すから、帰るときに、会計官にこの書類を渡してね」
「ちょ、ちょっと待った!俺たちの仕官をお願いしたい。打倒魔王軍に参加したい!」
「そうです!私たちに、精霊国のワナを言わないで、一人だけ城を出た佐々木さんは罰を受けるべきです」
「そうです。俺たち協力します!」
「あら、聖王国は裏切り者には、金を渡して情報を聞き出し、仲間にするなが信条よ」
「ヒドイ・・」
「貴方たち、異世界召喚されて浮かれていたでしょう?佐々木という子が言っても、貴方たち聞いたかしら。
もし、あの場で、精霊国の嘘を暴露したらどうなると思う?
皆、危険な目にあっていたと思うわよ。
貴方たちでも、気が付くタイミングはいくらでもあったと思うわ。
精霊国の嘘のライラ姫って有名なのよ。
人族だし、争う理由がないから放置していただけよ」
「いくら聖女様でも、口が過ぎます。うちらにも聖女のジョブを持つ者いますよ?俺は剣聖だ」
「へえ、なら、やる?」
聖王国の聖女の手が、青く光り、更に黄色、透明になる。
「聖魔法を高熱にすると、人の体には毒になるのよ・・」
「「「ヒィ」」」
・・・正直に言うと、俺は腰を抜かした。山木さんには無理だろう。
「同郷のよしみで教えるわ。貴方たち、冒険者ギルドで十年修行しなさい。そしたら、いっぱしの冒険者になれるかもね。では、さようなら」
その後、女神圏国王級会議において、議論の末、魔王軍に積極的な攻勢は掛けないことに決まった。
尚、ケンタは10年後、魔王討伐の旅に出るが、魔族領に数10キロ入ったところで、アズサによって、500m先から狙撃され、死ぬことになる。
最後までお読み頂き有難うございました。




