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実況の合間に恋愛を

作者: 陽菜

これはデスゲームや幻想怪盗団の後日談に当たる物語です。

登場人物達は違うので読んでいなくても大丈夫だとは思いますが、先に読んでおくとより分かると思います。

「あ、かいさん!どれぐらい進みました?」

「あと一つだけですよ、マリトさん」

 ゲームの撮影中、通話越しに男女が話をしていた。

「ちなみに、誰が人外か分かりました?」

「なんとなくですけど、怪しい動きをする人はいましたね」

 この二人は通称「クロ実部屋」と呼ばれる立ち絵を使うゲーム実況者チームのメンバーだ。


 二人の出会いは一年前までさかのぼる。

 マリトこと高城 誠は会社に勤めながら動画を作る生活をしていた。

 そんな誠には、あこがれているゲーム実況者がいた。それが、

「おー……やっぱりすごいなぁ、かいさんは……」

 この「かな&かいの実況」というチャンネルだった。双子の男女が掛け合いをするというスタイルで、毎日投稿は当たり前、なんと有名作家でゲームも作成する人だ。しかも、不定期だが漫画や絵をSNSに投稿している。

 このチャンネルは当初、立ち絵をパクるなと言われていたのだが、

「そういえば、オレ達はパクリだとか言われているが、そうじゃないぜ」

「そうそう。ここの主が原作を書いた人だからね」

 そのカミングアウトに、多くの人が驚きファンが増えたとのことだ。

 そんな有名人となぜ知り合いになったのかというと……。

「……え?メンバーを作る?」

「そうそう。それでさ、あのかいさんも誘おうと思うんだよ」

 同僚で同じ実況者の赤月 恭介がそんなことを言い出したのが始まりだった。

「あの人、あんまりコラボしているイメージないんだけど……」

「まぁまぁ!試してみてもいいじゃんか!」

 恭介の言葉に、まぁ、頼んでみるだけならタダだし……と思って「それならいいんじゃない……?」と頷いた。

 その日の夜、恭介は早速DMを送ったらしい。すると、

『えーっと、コラボってことですか……?』

 そんな返事が来たようだ。

『実は、ゲーム実況者で定期的に集まってゲームをしたいと思ってて。それにかいさんもどうかなって思って誘ったんです』

 もちろん、恭介は断られると思っていたらしい。しかし、

『それなら、別に構わないですよ』

 なんと、まさかのOKが来たのだ。これに興奮した恭介はちゃんと許可を取ったうえでSNSに即報告した。

『え!?マジ!?』

『あのかいさんが!?』

 もちろん、それは誠のところにも報告が来た。

「え?マジでいいって言われたの?」

『マジだって!明日見せてやるよ!』

 最初は半信半疑だったが、同日かいさん自身もそのことを報告したため、大盛り上がりになった。

 誠は、かいさんはどんな人だろうと夜も眠れなかった。

(優しい男性かな……?それとも真面目そうな人だろうか……)

 しかし、彼は「かいさん」が女であることを知らなかった。


 同日、小説を書いていた女性のもとにDMが届いた。

「うん?えっと……『一緒にゲームをしませんか?』……」

 この人はゲーム実況者だと記憶している。確か、「クロディー」というチャンネルだったか?

 最初はいつも通り断ろうとしたが、

(……まぁ、たまにはいいか……)

 そう考え直し、彼女は『別に、構いませんよ』と返信した。

『え!?マジですか!?』

『はい。まぁ、たまにはいいかなって』

『ありがとうございます!じゃあ、日程は今度送ります!』

『了解です』

 そんなふうに送り、彼女は伸びをする。

 ……誰かと遊ぶなんて久しぶりだなぁ……。

 実際、「あの日」からずっと他人を避けていた気がする。

 その時、電話がかかってくる。母からで、彼女はすぐに出た。

「もしもし、どうしたの?お母さん」

『もしもし、元気?』

「まぁ、なんとかやってるよ」

『そう……あんまり無理しないようにね』

「うん……気を付けるよ」

 そんな会話をして、電話が切れるとため息をつく。

 ……こんな人生、意味ないのに……。

 そんなことを考えながら。


 そうして、メンバーが集められた。

 集められたのは誠と恭介のほかに佐々木 渉、坂木 清隆、遠藤 一月、原田 蒼汰、横山 碧、杉山 修斗、菅原 涼真、川口 莉子、大橋 小陽、成田 恵茉の十二人だ。かいさんは少し遅れてくると連絡が入ったらしい。みんな、ゲーム実況者だ。

「かいさんって、どんな人だろうねー」

 莉子がパソコン越しにワクワクしながら言った。ここにいる人達はみな、かいさんがどんな人か楽しみなのだ。

「あー、えっと……ここかな……」

 その時、女性の声が聞こえてきた。

 ……女の人?

「あ、見えた見えた。こんばんは、かな&かいの実況のかいです」

 映し出されたのは、灰色の髪に緑色の瞳の美しい女性だった。

「え、かいさんって、女の人だったんすか……?」

 恭介が唖然とした声で聞いた。この場にいた人達はみな男性だと思っていたからだ。

「はい、女ですよ。意外でした?」

「えっと、はい。正直、かなり意外でした……」

 渉が正直に頷く。それに「まぁ、仕方ないかもしれないですね。あまりSNS投稿しないですし」と小さく笑ってくれた。

「その、私、ファンなんですよ!こうして話す機会が出来てうれしいです!」

 小陽が目を輝かせると、「それはうれしいですね。よかったら今度、時間あるときに裏話でもしてあげますよ」と言ってくれた。

「本当ですか!?」

「えぇ、たくさんありますからね。没ネタとか」

 どこか淡々としている人だなぁ、と誠は思う。どこか、けだるげというか……あまり感情が表に出ない人だ。

「その、かいさんの話はまた後にして話し合いをしましょう」

 清隆が話に割って入った。

「あー、そうですね。何をするんですか?」

 一月も首を傾げた。

「みんなでいろいろなゲームをしようって計画っす。それで好きな試合を動画にするって感じで」

「なるほど……確かにそれはよさそうですね」

 蒼汰もそれに乗った。全会一致したため、今回の会議はここまでにして再びかいさんの話になった。

「その、かいさん」

「えっと……湊、でいいですよ。実況しているわけではないですし」

「湊?本名ですか?」

「はい。立花 湊と言います」

 男性名みたいだなぁ……と思っていると、

「まぁ、男性名みたいですよね。だから男と思われているんですけど」

 こちらの考えを読み取ったように彼女は小さく笑った。

「そういえば、湊さんはどこに住んでいるんですか?」

「私ですか?都内の駅の近くですよ。えっと……」

 住所を聞くと、

「あ、近くなんですね」

「そこだったら行けそう」

 誠の家の近くだった。

「あ、そうなんですか?」

「遊びに行ってもいいですか?」

 恵茉の言葉にさすがにそれは早いぞ……と思ったが、

「別にいいですよ。お茶ぐらいは出します」

 なんと、許可を出してくれたのだ。いいのか?

「まぁ、場合によっては小説書いているかもなので話せるかは分からないですけど」

「あ、そうか。次の小説っていつ発表ですか?」

「来週締め切予定なのでしばらく徹夜です……」

 ははは……と湊は苦笑いを浮かべる。

「大変ですね……」

「いつもならもう書き終わっているんですよ。でも、今回はなかなか進まなくて……」

「あ、だったら明日早速来ていいですか!?作業風景みたいです!」

「いいですよ。夕方六時以降ならほぼ確実に家にいるので、その時に来てくれたら」

 本当にいいのか?と思わなくもないが、ここは言葉に甘えてもいいだろう。

「あ、でも発表するまで内容は誰にも言わないでくださいね」

 見たというのは別に言ってもいいですけど、と湊は答えた。


 次の日、誠は「立花」と書かれた表札の前に立っていた。

(ほ、本当にいいんだろうか……?)

 そんなことを考えていると、ほかの人達も来た。

「あれー?早かったね、誠君」

「さては楽しみだったんだな?」

 家の前でワイワイしていると、

「……えっと、一応、ピンポンぐらいは押しましょうか……?」

 ガチャッと玄関が開き、湊が顔を出した。どうやら家の中まで話し声が聞こえていたようだ。

「まぁ、いいや。どうぞ」

 湊が中に案内すると、とても広いことに驚いた。

「結構広いっすね……」

「作業部屋とか、倉庫とか必要だし、家族が泊まりに来た時用にね」

 座ってて、と言って湊は台所に立った。そしてお茶とケーキをみんなの前に置く。

「すみませんね、ちょっと原稿が間に合わなくて。ここでさせてもらいますね」

 そう言って、湊はパソコンとにらめっこを始めた。

「このケーキ、おいしいですね。どこで買ったんですか?」

 真っ先にケーキを食べた小陽が尋ねると、

「よかった、それ、私が作ったんですよ」

 とやはりにらめっこしながら答えた。

「え、手作りなんですか?」

「はい。お菓子作りは好きなんですよ」

 あんまりSNSにはあげませんけど、と小さく笑った。

「お店で買ってきたものと同じですよ。すごいです」

「よく作っていましたからね」

 そう言いながら、湊は誠を見つめる。

「え、えっと……どうしました?」

「あ、すみません。……高城さん、でいいんでしたっけ?「あの子」に似ていると思って」

 あの子……?と首を傾げると湊のスマホが鳴った。

「ごめんなさい、ちょっと出ますね」

 そう言って湊は電話に出た。

「もしもし、どうしたの?お母さん」

 そんな会話が聞こえてくる。

「はぁ?またお父さんの借金が見つかった?どんだけ借金してたの、あの親父……。まぁ、そっちは私が何とかするよ。印税もあるわけだし、明日にでもその分は仕送りするわ。……あ?またあの馬鹿が彼女を妊娠させた?しかも社長令嬢?何度同じ過ち犯せば気がすむんだ、あの馬鹿は……毎回慰謝料とか建て替えるの私なんだけど。……そこにいるんだったら代わってくれる?ちょっと「お話」したいからさ」

 ちょっとずつキレているのが分かる。

 というより、借金?それに慰謝料って?

 聞いている範囲だと、父親と別の人だと思うのだが。

「ねぇ、本当にいい加減にして。私だっていつまでも見てあげられないの。あんた、私より年上でしょ?私だって自分で稼いだお金を自分や家族のために使いたいの。いとこだからっていくらでも迷惑かけていいわけじゃないの。こっちは病弱の母親抱えてるんだから、何かあった時のために貯金もしたいの。今は私も独り身だから面倒見てあげられるけど、結婚したらどうするの?そうなったら私も家庭と母親のことで手一杯になるのは分かるでしょ。あ?誰がてめぇみてぇなクズを煮詰めたような最低男と結婚すんだよ。私は絶対お断りだね」

 だんだん怒りに満ちた声になっていっている。やがて無言になるが、

「……………………」

(中指立ててる……!)

 相手に見えないことをいいことに彼女は指を立てていた。それだけキレているということだろう。

「……いっそ繋いでおくか?」

 ボソッと聞こえた言葉にぞわっとする。

「一応言っておくけど、働き始めたら今まで払った慰謝料とか返してもらうからね。あ?当然でしょ?建て替えって形なんだから。……あ?てめぇが女の子が欲しいとかわがまま言って彼女に慰謝料払ったの誰だと思ってんの?しかも結局結婚しなかったじゃねぇかよ。本当はてめぇが払わないといけないものだろ。こっちは父親の借金もあるっての。私に印税とか入ってなかったらどうするつもりだったんだ?あ、逃げやがった……」

 はぁ、と湊のため息が聞こえてくる。すぐにまた電話が入り、

「もしもし、お母さん。ありゃ聞かないね。……悪いことは言わないから、お父さんの借金を完済したら兄貴達含めて引っ越しも考えた方がいいよ。引っ越し費用は支援するからさ。じゃないと毎回私の愚痴を聞くのも疲れるでしょ?ただでさえ身体弱いんだから。私の方は気にしなくていいよ。まぁ、今のままだと近いうちに倒れそうだけど……うん、うん。またなんかあったら連絡して。すぐそっちに行けるようにはするから。原稿?大丈夫、そっちはいざとなったら延ばしてもらうからさ。体調の方が大事だし」

 それじゃ、と湊が電話を切る。そのあと、盛大なため息が響いた。

「作家も実況者もそんな簡単じゃないっての。私はたまたま成功しただけっての分かってないな、あいつ……」

 あきれたような声に、疲れが見えた。

「えっと、ちょっと聞いちゃったんだけど……」

「うん?あぁ、まぁ……あまり気にしなくていいですよ」

 湊の言葉に、「……そう」としか言えなかった。

 その陰りが気になったが、見ないふりをした。

「あー、あいつのせいで気が散った……来たついでですし、見て回ってみます?」

 その提案に、「見たいです!」と小陽が乗り出した。本当にファンなんだなぁ、とほかの人達は笑う。

「だったら、ついてきてください」

 そう言って、湊は部屋を見せてくれた。

「ここが作業部屋兼撮影部屋ですね」

「おー……広い……」

「その……これを聞くと失礼だと思いますが、年収っていったい……」

 碧が興味本位で尋ねると、

「えっと……本職で約二百万、印税とか動画収入とかも含めると三千万は行くかなって感じです」

「か、かなり稼いでいますね……」

「その稼ぎもどこぞの馬鹿のせいで減るんですけどね……」

 二十代でその年収はすごい。逆にどうやったら減るんだというレベルだ。

「本当はもう少しゆっくりやりたいんですけどね……もうしばらくは頑張んないと……」

「えっと、本職って何ですか?」

 恭介が聞く。湊は「障がい者施設……まぁ、B型の職員ですよ」と答えた。

「所長さんがいい人で、基本定時に帰してくれるんですよ。だから小説書く時間とか動画作成とかも出来るんですよね。給料もいいし」

 それならまぁ、マシか。

「その、これは……」

 誠が机の上にあった刃物に触れようとすると、

「おっと。危ないから触ったらダメだよ、敦人。それは姉さんの仕事道具の一つだからね」

 穏やかな声でそっと止めた。それに驚いていると、

「あ、すみません。つい」

 湊も気付いたように手をどけた。つい、って……珍しい人だ。

「あれ?この写真の男性、誰ですか?」

 そのやり取りを見ていなかった一月が写真たてを見て、聞いてきた。湊は「あぁ、弟なんです」と小さく笑った。

「……あ、もう七時か。えっと……動画撮影した後編集して、小説書いて……」

 まるでそれに触れられたくないと言っているかのように話をそらす。

「ご飯食べます?作りますよ」

「え、いいんですか?」

「来たついでですからね」

 皆一人暮らしであるため、その提案はかなり助かった。

「あー、パソコン持ってくればよかった……」

 涼真の呟きに「あ、確かに」と蒼汰が頷いた。

「そうだ、湊さんってゲーム得意なんですか?」

 不意に思いついたように誠は質問する。

「うーん……基本的には出来るって感じですかね。得意とは違うかも」

 湊は料理を作りながらそう答える。

「あの、今日のこと、SNSで発信しても……」

「いいですよ。あんまり詳しくないですけど……」

 そう言えばこの人、漫画投稿やちょっとした報告以外には使わない人だった。

「基本、見る専門なんですよね……まさかここまで有名になるとは思っていなかったし」

 どうぞ、と料理を出される。

「親子丼です。あり合わせで作ったのでおいしいかは保証できないですけど……」

「おいしそうですよ」

 作ってもらったものだから、よほどひどいものじゃない限り文句は言わない。そうして写真を撮った後に一口食べると、

「おいしい……!」

「どうやって作ったんですか!?」

 むしろ今まで食べたことがないほどおいしかった。

 小陽が早速SNSに投稿すると、

『本物!?』

『かいさんの手料理ですか!?いいなぁ、食べてみたい』

『うらやましい……』

 そんな反応が返ってきた。

「本当に人気ですね、湊さん」

「すごい反応……こんなに来るもんなんですね」

 まるで他人事だ。まぁ興味なければこんなものだろう。

「ごちそうさまでした」

 みんなすぐに食べ終わり、湊は食器を洗う。

「そういや、一人暮らしなのに食器が多いんですね」

 ふと思ったことを修斗が尋ねた。それに「あぁ、知り合いが時々遊びに来たりするので」と答えた。

「知り合い?」

「ホープライトラボの所長さんとか、そこの職員さんとかが来るんですよ。時々動画制作とか作家になりたい人とかも来るので、多めにあるんですよね」

「あそこの所長さんとも知り合いなんですか?」

「高校の時の友人なんですよ。再設立には関わっていないんですけど高校の時に意気投合して、私もボランティアとしてそう言ったことを協力している感じです。母や兄もお世話になっていますからね」

 思ったよりすごい人と出会った気がする……。

 そう思いながら、その日は解散になった。


 初めての撮影日、パソコンで人狼ゲームをしようということになった。

「これ、いわゆる村人側と人外側に分かれるんですよね。第三陣営もあるみたいですけど、今回はシンプルに人外二人に狂人、それから人外を切ることが出来る役職を一人、ほか村人陣営……このゲームで言うヴィレッジにしますか」

 この人狼ゲームは、ミッションというのがありそれをクリアするか人狼を全員吊るせばヴィレッジの勝利、妨害をしながら生存者と同数になるか妨害で誰も直さずに制限時間を超えたら人狼側が勝利するというものだ。第三陣営がいる場合はその役職によって勝利条件が変わっていくが……今回は入っていないので省く。会議は通報と、ミーティングにあるボタンを押すことで行うことが出来る。

 誠はヴィレッジ陣営だった。

「湊さん、役職なんですか?」

 近くにいた湊に尋ねる。彼女は「……ヴィレッジをキルできない役職、とだけ答えておきます」と言った。

 ということは、ヴィレッジか狂人、マタールか……。

 マタールは、人外をキルできる役職だ。ヴィレッジをキルすると自分が死んでしまうらしい。使い時を間違えると無駄になる役職だ。

 まぁ、人狼ゲームで正直に答える人はいないと思うが。

 だから参考程度に覚えておくことにする。

 ミッションを黙々と進めていると、通報が響いた。どうやら誰からキルされていたらしい。

(生き残っているのは湊さん、恭介、碧、一月、修斗、涼真、渉、小陽、莉子、恵茉……清隆と蒼汰がキルされているのか)

 まさか二人もキルされているとは思っていなかった。

「蒼汰君の死体は見たけど、清隆君の死体を見た人はいる?」

 小陽が尋ねるが、誰も言わなかった。人外側はそりゃ言わないだろう。つまり、人外しか清隆を見ていないということになる。

「とりあえず、原田さんの死体位置はどこですか?」

 湊が尋ねる。小陽が「えっと……」と話し出した。

「今のところ、大橋さんが一番怪しいですけど……今の段階でセルフ報告にしてもメリットが少ないというのは確かですね」

 湊の考察も確かにと思う。まだ序盤の会議だ、ここは様子見でも大丈夫だろう。

 そうして、みんながスキップに入れた。

「……よし……」

 小さな声で、そんな言葉が聞こえた。この声は……湊だ。

(なんだ……?)

 どういうことか、この時は分からなかった。

 ミッションをこなしていると、湊と修斗が一緒にいるのが見えた。

「ミッション、どうなっています?」

 誠が尋ねると、「うーん……まだですね……」と湊は答えた。

「じゃあ、早く」

「じゃあな」

 やってくださいね、と言い切る前に、修斗にキルされてしまう。

「え?」

 このゲーム、死んだら誰が何の役職か分かるのだが、どうやら湊は狂人だったらしい。

「さっきはサポートありがとうございます、湊さん」

「いえ、狂人なので当然のことですよ」

 どうやら湊は先ほどの二人の死体場所を知っていたらしい。それをあえて隠して、白位置になるように立ちまわっていたようだ。

(なるほど、確かにキルできない役職、だな)

 言っていることは間違っていない。ヴィレッジとも人外とも言ってはいないのだから。

「あ、誠もやられたか」

 清隆が声をかけてきた。

「マジで湊の演技がすごかったぜ」

 蒼汰もそれでやられてしまったらしい。さすが、作家をしているだけある。

「あ、合流した」

 もう一人の人外は小陽だった。

「あー……なるほど」

 こりゃやられた。序盤だからセルフはないだろうという誘導がそもそもの罠だったらしい。「よし」というのは騙せたことに対するものだろう。

「感情が読めないから全然気づかなかった……」

「まぁ、あれだと本当に分からないな……」

「というか、またキル決めてるぞ」

 これで犠牲者は四人。やられたのは恭介だった。彼はマタールだったようだ。

「うわっ!湊さん狂人だったのか!」

「いらっしゃい、恭介」

「誠もやられてたのか……」

 よしよしとゲーム越しに慰める。小陽は別行動していた。一応、湊から白を出されているのでキルした後は別行動していないと怪しまれるだろう。

「そろそろ見つかりそうですね……」

 ふと、湊が呟く。確かにかなりの時間が経っている、いつ見つかってもおかしくはない。

「せめてもう一人持っていきたいけど……」

 修斗の言葉と同時に、前から碧が来てしまった。

「お、二人ともあとどんくらいで終わります?」

 そう声をかけると、修斗がキルをしてその瞬間湊が通報する。

「キルされてそれなりの時間が経っていると思います」

「なるほど……とりあえずみんなのルートを聞いていこうか」

 恵茉の言葉にみんな答えていく。湊は小陽と一瞬だけすれ違ったすぐ後に見つけたことと修斗とはずっと行動していたからキルは出来ないハズだと答える。ほかの人達は涼真が恵茉と、一月が渉と、莉子は恵茉と白を取り合えると言った。

「うーん……でも三人死者出てるから、どっかが繋がっていると思うんだよなぁ……」

「この中で怪しいのは小陽なんだよなぁ……でも視認がたくさんあるしなぁ……」

 実は小陽、修斗と湊と合流する前にほかの人達とも合流していたのだ。だから無理だと思われているらしい。

「うーん……どこだろう……」

 莉子も考え込む。しかし話し合いはまとまらず、この会議は時間切れで終わってしまった。その前に緊急会議を開こうという話になっていたので、誰かしらはボタンのところに来る。

「あと二キルでパワープレイだな……」

 それは小陽と修斗も分かっているらしい。

「二キルしたら、通報して私を吊るしてください」

 湊が言うと、二人は頷いてミーティングに門番し始めた。

 ミーティングに来たのは莉子と恵茉。その二人をキルした後、小陽が速攻で通報した。

「その、後ろから湊さんを追いかけていたら恵茉さんを目の前でキルして……」

「あ、見られていたんですか?道理で通報が早かったわけです……」

「湊さん人外か。だったら湊さんは吊り確定で、莉子さんのことについて詰めましょうか」

「でも、今回はみんな固まっていたような……」

「じゃあ、そこ二人外もあり得る……?」

 しかし、話を詰めることは出来ず湊を吊る流れになった。

「騙されたよ……」

 清隆に言われ、湊は「アハハ……実は狂人ってどんな立ち回りがいいのか分からなくて……」と困ったように笑った。

「もーパーフェクトでしたよ!人狼ゲームって初めてでしたっけ?」

「そうですね。ルールは知っていましたけど、やったことはなかったです」

 そういえばそんなこと言っていた気がする。

 ――珍しい人だな……。

 小説を書いているなら、一回ぐらいはやっていそうなものなのに。

 そんなこんなで、人外側が勝った。

「うわぁあ!やられた!」

「もともとそこで繋がっていたのか!」

「ハハハ。湊さんが自分の周りをぐるぐる回ったから狂人だと気付いたんだよな」

 そう言えば今回、狂人は誰が人外か分かるように設定していた。それが繋がれた理由の一つだろう。

「まさか、早速撮れ高が出来るとは思ってなかった」

「正直、負けると思っていたからねー」

 小陽と修斗が笑う。

「こっちもある意味出来たけどな……」

 ハハハ……と蒼汰も乾いた笑いを出した。

 そのあと、何試合かやってこの日はお開きになった。


 数日後、同時投稿される。湊の実況はすぐに多くの人に見られていた。誠も視聴する。

「今回は初のコラボだぜ!かな!」

「そうだね。じゃあコラボ相手を紹介しようか」

 そうして動画内で紹介される。

「あ、かい。まさか最初から狂人?」

「そうみたいだ。うまく立ち回れるかな……」

「今回は誰が人外か分かるから、うまく伝えていったら大丈夫」

「お、マテオさん人外じゃん」

「本当だね。どうやって伝えるの?」

「そんなの決まっているだろ」

 そうして、ぐるぐるまわりを走る。

「それで分かるの?キルされるだけじゃない?」

 かなに突っ込まれるが、マテオは「あ、かいさんまさか狂人?」と聞いてきた。

「これで気付かれるんだ……?」

 かなは驚いたような表情を浮かべる。

 ――あー、こうやって伝えたのか……。

 おそらくやられても撮れ高になると踏んでいたのだろう。というよりそっちの方が目的だったなこれ。

 そうして一緒に行動していたらしい。なるほど、納得した。

「かなり好評だったっすね!」

 恭介がグループメッセージで成功を喜んでいた。

「でも、湊さん、大変じゃないですか?私達とコラボしたら、ほかのところからもコラボのお誘いが来そうですけど……」

 恵茉が心配そうに聞いてきた。それに湊は「大丈夫ですよ」と答える。

「今回が特例だってみんな知っているので」

「それはいいんですかね?」

「まぁ、ほかの人達もたまにはコラボすることにすればいいでしょう」

 多忙の日々を知っている身としては心配だが、彼女がそう言うのなら大丈夫だろう。そう思うことにする。

「今度、うちに来ます?おいしいものを作りますよ」

 湊の誘いに、恭介が「行く行く!」と早速乗った。

「では、適当に作っていますね」

 皆が盛り上がっている中、誠は本当にいいのだろうかと考えていた。


 日曜日、みんなが湊の家にやってきた。

「いらっしゃい。中に入って」

 湊は前より少し穏やかに中に入れてくれた。恐らく人見知りなのだろう。

 中に入ると、料理を作っている途中だった。

「湊さんの料理って、ちょっと珍しいよな」

 不意に清隆がそんなことを言った。

「そうですか?」

「あぁ。なんていうのかな……おいしいけど、味はあまり濃くないなって」

「あー……まぁ、いろいろ事情があるんですけど……」

 確かに、湊の作る料理は薄味が多い。もちろんおいしいし、気になるほどのものではないが、やはり気になる人には気になるのだろう。

 そもそも、一人暮らしなのにほぼ毎日料理をするのも珍しい気がする。

「そうですね……あまり人に話すようなことでもないんですけど、すぐ上の兄が内部障害を持っていて、あまり味の濃いものは吐いてしまって食べられないんですよ。母も身体が弱いから健康的な食事をさせないといけなくって、我が家では味付けが薄めになっているんですよね」

 なるほど……それは大変だったんだろうと容易に想像できた。

「ごきょうだいって何人ですか?」

「きょうだいは……五人ですね。一番上が姉で、上二人が兄、そして弟です」

 莉子がきょうだいの話をした途端、湊は寂しそうな表情を浮かべた。

 あまり触れてほしくないのだろうか?

 でも、見たところそう言うわけでもなさそうだ。現に基本的には答えている。だとしたらほかの理由があるハズだが……。

「どうぞ」

 皆の前に出されたのは揚げ物やサラダ、みそ汁。本当に健康第一の食事だ。

 いざ食べようとした時、やはり湊に電話がかかる。

「もしもし」

『湊、どうしよう……ゆず君、前の彼女のこと、まだ解決してなかったって……』

「はぁ?あいつまだ解決させてなかったの?」

 聞いてもいいものかと思ったが、どうしても聞こえてしまう。

「あいつ……しかも妊娠させたの学生?社長令嬢だったよね……その彼女さん、そこにいる?」

『え、えぇ。いるわ』

「あ、いるのね。だったら代わってくれる?」

『……あ、もしもし。その……ゆずさんの……』

「うん、あいつの親戚。その、あの馬鹿との出会いはどんな感じだったの?」

『えっと……歩いていたら話しかけられて……あの「かいさん」の親戚だって言われて興味を持って……そこから付き合うことになって……』

「あいつ……また私の名前を使ったな……」

『え……?』

「まぁいいや。……それで、君はどうしたいの?」

『どうしたいって……』

「子供を産みたいかって話。……それは、母親である君が決めることだ。私達がどうこう言う資格はない。産むにしろ中絶するにしろ、こっちが責任を持つのは当たり前だ」

『……私、産みたい、です……。でも、私、学生だし……』

「分かった。だったら、私があの馬鹿の代わりに慰謝料と養育費を立て替えるよ。君が独立するまで、ちゃんと面倒も見る」

『え、でも……』

「さっきも言った通り、私達が責任を取るのは当たり前。子供に罪はないし、君にも罪はない。あるのは避妊しなかったあの馬鹿の方だ。そのくせ女の子の方がいいなんてわがままを言うなんて、親戚ながら情けないよ」

『でも、本当に大丈夫、なんですか?』

「私の方は気にしないで。私は当たり前のことをしているんだから。明日から、うちにおいで。明日……は無理だから、明後日仕事の都合をつけて君のご両親に謝罪しに行くよ。うちの馬鹿が本当にごめんね。つらかったでしょ?もう大丈夫だから」

 その言葉を聞いた瞬間、電話越しからすすり泣く声が聞こえてきた。

「大丈夫。明日の朝早くにそっちに迎えに行くから、今日は泊めてもらいな。それから、家まで連れて行くから領収書も持ってきて。その分もちゃんと返すから」

『っ……ありがとう、ございます……!』

「だから泣かないで。私が泣かせてるみたいで申し訳なく思ってくるわ……」

 いたわるような優しい声に、電話越しの彼女だけでなくその場にいたほかの人達も心が温かくなるような気がした。

「それじゃ、うちの母親に代わってくれる?」

『はい』

「あ、お母さん?聞いてたかな?明日から彼女は私が預かるからね」

『うん……その、ごめんね。毎回毎回……』

「仕方ないって。お母さんのせいじゃないよ。それに金銭的に余裕があるのは私の方なんだし、気にしないで」

『湊が言うなら、構わないけど……』

「それで、あの馬鹿はいる?」

『え、うん。いるけど……何ならおばさんも来てて……』

「じゃあ、代わって」

 いきなりの指名に相手も驚いただろう、おずおずと電話に出た。

「ゆ~ず君?君は何度同じ過ちを犯したら気がすむんだい?」

『は?何をしようが勝手だろ?』

「それで人の名前を使うのは違うよねぇ?それに、女の子が欲しい?んなもん自分でコントロールできんと思ってんのか?」

『何言ってるの!?ゆずが女の子欲しいって言ってるんだから、産むのは当然でしょ!?』

「……はぁ。お前さ、本当に子供産んでる人?信じられないんだけど。だったらいいこと教えてあげますけどね、子供って男性側の遺伝子で性別が決まるそうですよ。だから少なくとも女性側に責任はございませんね。そんなに女の子が欲しいならまずてめぇの遺伝子を変えてこい。まぁてめぇみたいな遺伝子、誰も欲しいとは思わないだろうけど」

 煽り属性が高すぎる……。実況が出来るのはこれのおかげかもしれない。

 なんて、本人達はそれどころではなさそうだ。

「とにかく、彼女に近付くのは私が許さない。警察にも根回ししておくからね、近付いたらすぐ通報するから」

『そこまでする必要があるのかよ!?』

「彼女を守るためよ。てめぇはとっとと働きに出て養育費ぐらいは稼いで来い。何回も言うけど、私が払った分はちゃんと返してもらうからね。じゃないとそろそろ私も出るところ出るから」

『はっ!親戚にそんなこと出来るわけねぇだろ?』

 どうやらこの馬鹿は本当に出来ないと思っているようだ。湊はため息をつく。

「……よーくわかった。じゃあ、私も考えておくわ~」

 それじゃ、と湊は電話を切る。そして、

「あぁ、ごめんなさいね。気にしないでちょうだい」

 人のよさそうな笑顔を向けた。

 ――いや気にするなって無理なんですけど!?

「その……俺達でよければ、相談ぐらいは乗るよ……?」

 誠の絞り出した声に湊は目を丸くする。さすがに出過ぎた真似だろうか……?

「うーん……でもうちの問題に他人を巻き込むのはねぇ……」

 そう呟く湊に渉が「そんなの気にしなくていいっすよ」と笑いかけた。

「見たところ、俺達より年下っすよね?大人を頼るのも年下の特権っすよ」

「一応、二十歳なんですけど……」

「やっぱ、俺より五歳も年下じゃないっすか。頼れるときに頼るもんすよ」

 そう言われ、湊は押し黙る。そして、

「……それなら、協力してほしいことがあるんですけど……」

「何?なんでも言って」

 湊の言葉に、みんなが頷いた。

「そういえば、弟さんがいるんだよな」

 清隆の言葉に、湊は「あー……」と言いにくそうにうなった。

「……弟は、亡くなったんです。数年前に……」

「え……」

「その……精神崩壊事件に、巻き込まれたみたいで……」

 寂しそうにしながら、湊は話し出す。


 湊と弟である敦人は、年が近いということもあり仲が良かった。敦人はもともと身体が弱く、入退院を繰り返していたのだ。父親も幼いころに亡くなっていて、兄と母親が生活と父親が遺してしまった借金を返すために必死に働いている間、湊が世話をしていたのだ。

「姉さん、小説読みたい」

 中学のある日、敦人が湊にそう頼んだ。湊は「持ってきた本じゃダメだった?」と尋ねると、

「うーん……まぁ、これも面白いんだけどね……でも、もっと斬新な小説が読んでみたいんだ」

 そう答えたようだ。湊は「分かった。書けるか分からないけど、書いてみるね」と笑いかけた。

 湊が小説を書き始めたのは、それが理由だった。一作出来たらすぐに敦人に持って行って、

「姉さんの小説、面白い!」

 そう言って笑ってくれる弟に、湊も心が満たされていた。

 高校に入学してしばらくすると、

「姉さんの小説、俺だけが読んでいるのはもったいないよ。どこかに応募してみなよ」

 敦人にそう言われ、湊は「敦人が言うなら」と実際に応募した。

 ――しかし、その結果が来る前に、敦人は亡くなったのだ。

 ほかでもない、湊の目の前で。

 その日、久しぶりに少し遠出に行こうと湊と敦人は電車を待っていた。しかし、電車が止まる直前、突然敦人が目の前に飛び込んだのだ。

「――敦人!」

 湊は必死に手を伸ばしたが、その手を掴むことは出来なかった。

 目の前で、血しぶきは飛び散る。それを見ていた湊は放心状態になっていた。

 湊は最初、自分のせいだと己を責めていた。自分が弟の苦しみに気付かなかったからと。

 しかし、そうではなく、精神崩壊事件の犠牲者に選ばれてしまったのだとある人から聞いた。それが、ホープライトラボの所長だったのだ。


「……あの子の葬式のあと、小説が入選したって連絡が来たんです。書籍化するって言われて、それで有名になって……」

 湊は自分の処女作の本を愛おしげに見る。

「これは、私があの子に書いた小説だったんです。この本は、あの子が生きた証だった」

「……弟さんへの、愛情の物語だったんですね」

 小陽が小さく笑う。

「……あの子にも、みてほしかったなぁ……」

 小さく呟いた声に、ほかの人達も同意した。


 次の日、湊はいとこの彼女を迎えに行った。

「おはよう。遅くなってごめんね」

「い、いえ。そちらも大変なのに、わざわざ迎え来てもらって……」

「妊婦さんが無理をしたらいけないよ。家では自由にしてもらっていいから。今度合鍵も渡すよ」

 そうして一度家に帰る途中、

「そういえば、本当にあの「かいさん」なんですか?」

「ん?あぁ、それは本当だよ。あの作家で実況者。それをあいつらは悪用してるってわけだね」

「私、ファンなんですよ!後でサインくださいませんか!?」

「いいよ、迷惑料だ。何個でも書いてあげる。何ならサイン入りの本もあげるよ」

「やったー!」

 家に着き、湊は宣言通りにサイン入りの本をあげる。

「あの、これSNSにあげても……」

「うん?まぁ、いいけど」

 仕事行ってくるから、と湊は職場に向かう。

 職場で所長に事情を説明すると、

「あー、いいよ。湊さんも大変だね」

 そう言って快く休暇をくれた。

「それから、その彼女さんも連れてきていいよ。一人じゃ心配だろうし」

「ありがとうございます。学校が休みだったら連れてきます」

 この厚意のおかげで、湊は本職が続けられているのだ。正直この職場でなければすぐにクビになっていたと思っている。

「湊さん、大丈夫ですか?」

「アハハ……また例の馬鹿がやらかしたみたいなんですよ」

 利用者の方もとてもやさしい人で、湊の方が助かっている。

「そろそろ何か対策した方がいいんじゃないですか?」

「えぇ、だから今度、やり返してあげようと思ってて」

 ニコリと笑う湊に、ほかの人達は疑問符を浮かべていた。


 彼女の両親にもしっかり謝罪し、数日後、

「……そんなに動画投稿したいなら、これを貸してあげるから「常識の範囲内」でやってごらん?」

 そう言って、湊はゆずにカメラを渡す。

「フン!湊に出来んだから楽勝だろ!」

 そう余裕をぶっこいていたのだが。

 一か月後、ゆずが配信をしていると、

「ねーえー、ちょーっといいかーい?」

 配信中に湊が後ろから黒い笑顔を浮かべながら出てきた。


 実は湊は、ホープライトラボの所長と相談して、SNSの別アカウントでファンに伝えていたのだ。

『うちのいとこに一か月ほど動画投稿をさせます。迷惑行為などがあったらこちらにお伝えください。チャンネル名は……』

 それにファン達は疑心暗鬼になりながらも頷いた。なぜならコラボしていた実況者やホープライトラボの所長もそれを伝えていたからだ。

 そして、実際に投稿されると予想通り問題行動が続出した。

 おかげで湊のSNSは連日報告の通知でいっぱいだった。

『毎日報告ありがとうございます。一か月後、生配信するそうなのでそこで説教&配信停止&通報します。皆さんもためらわず迷惑だと思ったら通報してください』

 湊もそう返信した。


 そうして、ここにいるわけである。

「私はさ、「常識の範囲内で」って言ったよねぇ?」

 湊がニコリと笑いながらそう言った。

 コメント欄は湊の乱入により盛り上がっていた。

『うわっ!本当に来た!』

『てかかいさん女性!?』

『すっごい美人さんじゃん!こんな子から借金してるってマジ?』

『若い人じゃん。この子からお金借りてるの?』

 批判の声と実際に湊を見たことによる興奮が混ざっている。湊はそれも気にせず、説教を続ける。

「別に、実写動画でもいいわよ。でもそれで他人に迷惑を掛けたらダメでしょ」

「はぁ?何言って……」

「しらばっくれても無駄よ。ちゃんと報告は来ているんだから。……それに、お店に許可も得ずに動画を撮ったり無許可で顔出ししたりしたみたいね?しかも批判していたみたいじゃない……あんたは苦労したことないから分からないかもしれないけどね、ほかの人達は努力を積み重ねて作り上げていってるの。それは私だって同じ。動画投稿を許可したのだって、実際に見たら考えも改まるんじゃないかって期待したからだけど……ダメだったみたいね。むしろおばさんと一緒に問題行動ばかり起こして……」

 湊はため息をついた後、パソコンを見る。

「すみません、これ、ついてますか?」

 その質問に、『見てます』と視聴者たちが答えると、湊はおもむろに土下座をした。

「この度はうちのいとこが皆様にご迷惑をおかけして本当に申し訳ありません。この件に関しましては弁護士とも話し合う予定ですので、ほかにも被害等がありましたらご連絡ください。後日一軒一軒謝罪しにまいります」

 まさかそんなことをするとは思っていなかったのだろう、視聴者もゆずも驚いた。

『かいさんのせいじゃないよ!だから顔を上げてください!』

『こんないい子がこの人といとこってマジ?信じられないんだけど』

『逃げずにちゃんと謝罪できるってすご……しかも自分がしたことじゃないのに』

「ちょ、ちょっと、顔上げろよ……」

 ゆずが必死に湊の頭をあげさせようとするが、湊は「あんたも、本当はここまでやらないといけないほどやらかしてるの!」と叱った。

「今回のことに関しては、今までの分も含めて警察にも通報した。おばさんと一緒に塀の中でしっかり反省しなさい。ちゃんと常識を身に着けるまで、動画には一切手を付けさせないからね」

 今回は本当に申し訳ありません、と湊が言った言葉を最後に、配信が終わった。


 後日、あるラーメン屋に湊がやってきた。

「この度は申し訳ありません、うちのいとこが……これ、お詫びの品です」

「いやいや、お詫びなんて申し訳ない!」

 湊がお詫びの品を渡すが、受け取らなかった。

「……あの、それならおすすめってありますか?どうか私にレビューさせてください」

「いいのかい?あんた、顔出しはしないって聞いてるけど」

「これが私に出来る、精いっぱいの贖罪ですから」

 それならいいけど、と店主は湊の前におすすめの醤油ラーメンを置く。しっかりと撮影許可を取り、

「……うん、おいしいです。これは海鮮系をベースにしているんですか?」

「よく分かったね。そうだよ」

「私、海鮮系はあまり好きじゃないんですけど、このラーメンはとても食べやすいです」

「あの、サインとかも……」

「はい、構いませんよ」

 そうして、ゆずが迷惑をかけた飲食店のおすすめをレビューしていくと、そこに客が来るようになった。

『かいさんが来てくれたおかげで売り上げが上がりました!』

『かいさんが本当にいい人で良かった!わざわざお詫びの品まで持ってきて、受け取れないというと代わりにレビューしてくれました!』

 迷惑料としては受け取りすぎている気もするが、湊自身が「気にしなくていい」と言っているので気にしないことにした。

 それから、街中で声をかけられるようになった。

「あの!かいさんですか?あの作家さんの」

「はい、そうですけど」

「サインくれませんか!?」

「いいですよ」

 サインや握手を求められたり、写真を撮ってほしいと言われ、湊は快く引き受けた。

「本当に人気っすね」

 恭介に言われ、「あはは……改めて思いましたよ……」と湊は苦笑いを浮かべる。

「あの後、ファンが離れるかと思っていたんですけど、逆に応援されちゃって……」

「まぁ、弟のための小説だと発表したのもきっかけでしょう。本当に感動ものですもん」

 湊と弟の話はまさに理想の話だった。結末は残酷なものだったが、それでも愛情が伝わってくる。

「ようやくゆっくり出来ますよ……あいつらのせいで毎日投稿していたようなものですから……」

 伸びをしている湊からは、今までのけだるさが感じられない。どうやら毎日投稿していたのは何があってもいいように少しでも多く稼ごうとしていたからだったようだ。

「本当は自分のペースでやりたかったですからね……いつまでも毎日投稿は出来ませんし」

「あー、分かります!むしろなんで出来るんだろって思ってました」

 実際なら本業と印税だけで暮らしていけるのだ、趣味程度にやっていくぐらいでよかったのだろう。

「久しぶりにどこか出かけようかなぁ……」

「あ、私達もついてきていいですか!?」

「もちろん。今日は外で食べますか。あなたもどう?無理しない程度に」

「いいんですか?」

 いとこの元彼女である奈々にも声をかけ、皆で遊びに出かける。

「ショッピングなんて久しぶり……!もう小説と動画制作で休日がなくなってましたからね……!」

「マジで?すげぇ……」

 久しぶりの外出に湊はこれ以上ないほどに盛り上がっていた。

「誠、一緒に回ってやれよ」

 突然恭介に言われ、誠は目を丸くする。

「じゃ、私達別のところ行ってるから!」

「二人で回っておいでー!」

 そそくさとどこかに行かれ、誠は状況が飲み込めなかった。

「高城さん、本屋行きません?」

 しかし二人きりだと理解すると、途端に顔が真っ赤になった。

 まさか、あの湊と二人きりなんて。

 あこがれの人と過ごすだけでもうれしいのに、二人きりなんて心臓が持たない。

「これ、昔から好きだったシリーズなんですよ」

 湊が一冊の本を取る。少年漫画ではあったが、誠は読んだことがない漫画だった。

「意外でしょう?これ、敦人が好きだったんですよ。読んでいたらはまっちゃって」

「確かに、湊さんのイメージとは違いましたね」

 なるほど、弟の趣味だったのなら湊も読んだりしただろう。

「最初はこんな感じの小説を書いていたんです。でも、学校にも行けなかったものだから、学園物を読んでみたいと言われて……」

「そうだったんですね……いろんな小説書けてすごいなって思ってたんですよ」

「いろんな人に話聞いたりしたんですよ?結構大変でした」

 弟のためならなりふり構わなかったのだろう。他人の話を聞いて、それをモデルに小説を書いていたらしい。

 その時、女性が話しかけてきた。

「あ、あの、サインくれませんか!?」

「いいですよ」

 ニコリと笑う湊に、女性はスマホを渡して「ここに書いてください!」と言った。湊が絵も一緒に書くと、

「わぁ……!ありがとうございます!このキャラ、好きなんです!」

 それを合図にしたように、ほかの人達もサインを求めた。

 一時間後、

「うーん……定期的にサイン会とか開いた方がいいのかなぁ……?」

 湊が苦笑いを浮かべていた。結局たくさんの人が来て、かなりかかったのだ。

「それに、まさかあんな勘違いをされるなんて……」

 すみませんね、と湊は微笑みかけた。

『あれ?お隣の人、もしかして彼氏さん!?』

 先ほど、ファンの一人にそう聞かれたのだ。湊は否定したが、

『えー!でもお似合いですよー!』

 黄色い悲鳴が沸き上がっていたのだ。あれには参った。

「……その、湊さんって、俺のことどう思ってる?」

 突然の質問に湊は疑問符を浮かべるが、

「まぁ、そうですね……頼れる人だとは思いますよ。私がやりたいこと、分かってくれてますし」

 撮影中のことを思い出しながらそう答えた。

 事実、誠が相方の時が一番動きやすかった。人狼をやっている時もほかのゲームをしている時もまるで分かっているように立ち回ってくれるから湊はとても助かっていた。

「それってなんでか、分かります?」

「え?何か理由があるんですか?」

 目を丸くする湊に誠は笑った。

 ――小説を書くのは得意なのに、人の感情には疎いんだなぁ。

 そう思ったのだ。

「そりゃ、好きだからだよ」

 その言葉にキョトンとした後、炎でも吐けるのではないかと思うほど顔が真っ赤になった。

「いやいやいや、そんな小説とか漫画みたいなこと……!」

「君、作家さんだよね?」

 一体何を言っているのだろうかこの人は……。

「れ、恋愛小説は妄想の世界ですし……」

「まったく……まぁある意味そうかもしれないけど」

 誠はニコリと笑う。

「案外、そんな小説みたいなことも起こるものだよ」

 湊は口をパクパクさせていた。

 ――意外と可愛い……。

 フフフっと思わず笑ってしまった。

「おー、お二人さん、お熱いねぇ」

 そのタイミングで、みんなが戻ってきてしまった。

「話聞かせてよぉ」

 皆ニヤニヤしている。こいつら、聞いてたな……。

 二人して真っ赤になってしまう。

「意外と可愛いですね」

 小陽がフフッと笑った。ファンとしてはそれでいいのか?……まぁ人によるか。


 それから、ゲーム撮影もゆずの身勝手で身重になった奈々に手伝ってもらってはかどった。

「奈々さんもゆっくりしてね。安静にした方がいいんだからさ」

「いえ!かいさんの助手はしたくてやっているので!」

「フフッ。じゃあうちで雇っちゃおうかな」

 そんな冗談(湊からしたら本気だが)を言い合いながら、湊は撮影始める。

 誠は自分の役職を見て呟いた。

「今回は第三陣営……」

 第三陣営はヴィレッジや人外とは違った勝利条件の陣営だ。横取り勝利出来たり、追加勝利出来たりすることが出来る。

 誠は相方を探す。と言っても、もう分かっているのだが。

「やっほー、かいさん」

「マリトさん、役職なんですかー?」

 クスクスと湊の笑う声が聞こえる。そう、相方は彼女なのだ。

「あ、かいさーん。役職なんすかー?」

「クロディーさん、もちろんヴィレッジですよ」

「うーん……嘘っぽいんだけどなぁ」

「どうでしょうねー」

 まぁ、このゲームをしていると嘘なんて当たり前だ。これぐらいで決め手にはならない。

 誠と湊は一緒に行動する。

「マリトさんとかいさんじゃん。やっほー」

「ソフィアさん、やっほー」

 莉子が声をかけてくる。湊は割とふつーに返事をしていた。

「二人は役職何ー?まさか人外じゃないよねー」

「そんなわけないじゃないですかー」

「そうですよねー、かいさんがそんな分かりやすいこと、しませんもんねー」

 ハハハ、と笑い声が響く。そして、

「それじゃ」

 湊はそのままキルをした。

 そう、「人外じゃない」とは言ったがキルは出来ないと言っていない。

 今回、湊は「サイコパス」、そして誠は「サイコフレンド」だ。サイコパスは人外と同じようにキルが出来る。その代わり次のキルは人外よりもたまるのが遅い。勝利条件はサイコパスが生き残っていたら横取り勝利できるというものだ。

「本当に強いな……」

「演技はうまいですからね」

 二人が一緒に居ても疑われない。なぜならこの二人はヴィレッジでもよく一緒に行動していたからだ。

「あー!またやられたー!この二人怖いよー!」

 莉子の声が響く。湊はクスクスとやはり笑っていた。

「まぁ、出来るだけキルは避けましょうか」

「気を付けるのが遅い!」

 莉子のむすっとした顔が思い浮かぶ。一応、湊って最年少だよな?

 まぁいいか、と誠は苦笑いを浮かべた。

 そのあと、莉子の死体が発見されたがほかにも蒼汰と小陽の二死体が見つかり、計三人がキルされていた。

「早いなぁ」

 恭介が驚いた声を出す。しかし、

「いやいや、クロディーさん現行犯じゃん」

 恵茉が笑いながらそう言った。あ、現行犯だったんだ。

「ちなみにどこですか?」

「ミーティングです。死体の上に立っていました。それで通報しようとしたらソフィアさんの通報が来たというわけです」

「なるほど……なら、クロディーさんは吊るとしてあとはどこを詰めます?」

 湊の言葉に「通報されたソフィアさんの方を詰めた方がいいんじゃない?」と清隆に言われた。

「十字路で発見していますね。キルされて時間が経っているかと思います」

「私からはマリトさんに白出せますね」

「俺からもかいさんに白出せるかな?ここはずっと一緒に行動してたし、何人かにも視認されてるからキルは難しいと思う」

「それなら、そこ二人人外じゃない限り無理かな?」

「サイコパスのキルの可能性もあるけど、キルを溜めるまでに時間かかるからやってるとしても一人ぐらいだよね……」

 会議が乱れに乱れ、恭介を吊った後会議もはさんだが詰められなかった。

「終わってないってことは……」

「まだ人外が残っているということですね」

 まぁ、さすがにあそこでたまたま人外を切ってました、となるとどんな奇跡だということになる。

「まぁ、気長に待ちましょう。一応この役職は潜伏するのが基本ですから」

「そうだね」

 ここからはお散歩だ。二人で歩いているとボタンが押された。

 死体は……涼真だけだ。

「これ、最後に視認あります?」

「ミゲルさんは今回見ていないですね……」

「俺も見てないかな」

「私も見てないですね……」

 となると、詰めようがない。そうなると莉子の話になるのだが、

「これ、仮に人外を吊ってもサイコパスが勝ちますよね?」

「そうだな。だからここは吊らずにミッション優先の方がいいと思う」

 どうやら人外同士で斬りあっている間にミッション勝ちに追い込もうということみたいだ。今回のミッションは十個だから、その間にサイコパスが死んでいてもおかしくないということだろう。

「どうしようか……」

「人外が誰かも分からないですからね……キルのしようがないです」

 二人で話していると、後ろから渉がやってきた。

「お二人さん、今回の役職は結局なんすか?」

「私達はヴィレッジですよ」

「へぇー」

 三人で笑っていると、

「じゃ、切りまーす」

 湊が切られた。

「あ」

「人外、ジャックさんだったんか」

「これはもう……勝ち目ないんでジャックさんに従った方がよさそうです」

「了解」

「あ、もしかしてかいさん、サイコパスでした?」

「そうですよー。で、俺がサイコフレンド」

 こうなったらサイコフレンドは人外に従うしかない。まぁヴィレッジに従ってもいいのだが……どうせなら人外を勝たせたいものだ。

「がんばー」

 湊が適当に応援している。これはいつものことだ、あぁ見えて本当に応援している。

(まぁ、編集している気もするけど……)

 ゲーム越しに編集している音が聞こえている。どうやら身に着いた生活はなかなかやめられないようだ。

「これ……かいさん編集してますね」

 二人で笑いながらキルを通していく。

 この試合は人外が勝った。

「かいさんサイコパスかよ」

 蒼汰の笑い声が聞こえてくる。

「笑いすぎです」

「だってかいさん、よく役職引くんですもん」

「私に言わないでくださいよ」

 ちなみに湊は、現行犯は絶対にないのだが誰にも見られていなかったり途中で合流した時に死体が出来ていたら怪しまれる可能性が高い。

「この後、お絵描き伝言ゲームしません?」

「あ、いいですね。明日休みな感じですか?」

 一月の提案に湊が賛成した。

「湊さんは原稿の期限大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫。この後徹夜で五時くらいまでやるから」

「それは大丈夫と言わないんだよ……」

 まぁ、やる気満々なので断るのもかわいそうだろう。

 このまま、お絵描き伝言ゲームへと移行した。それぞれお題を考えるのだが、

(まぁ、これでいいでょ……)

 誠は「かい君がキル失敗しちゃった……」というお題にした。

 最初に回ってきたお題は某ゲームだった。

「いやいや難しいってこれ!」

「アハハハハ!」

「絶対動画でねぇ!」

 皆の声が聞こえてきた。ワイワイ騒いでいる間、誠はどんな風に書くか考える。

「マジで難しいなぁ……」

「お、誠、まさか俺のお題来たか?」

「あー、確かにお前そうだなぁ……」

 まぁとにかく戦っている棒人間と吹っ飛ばされている棒人間を描けばいいだろう。伝わる、多分。

 次に回ってきた絵は何かのキャラ。

「何?この可愛い絵」

「分かんねぇ!」

「誰の絵だよ!?」

 またもや響き渡る声。

(まぁこれでいいか)

 これにも適当に答える。

 それを繰り返し、最後に発表。

 湊のお題は「漫画を描く宇宙人」。何を思い浮かべていたんだこの人?

 ちなみにこのお題、最後には爆発オチで終わっていた。

「湊さん、一体何考えてたんですか!?」

「適当に考えてたらなんか思いついた」

「小説の内容?」

「うん。アクション系の話を考えていたらなんか宇宙人出てきた」

 なんだそれ。

 今の湊はちょっとバグっているのかもしれない……。

 恭介のお題はやはり先ほどの某ゲーム。

「おま、下手だなぁ」

「描きにくいんだよ!」

「私わかんなかったよ!」

 これも最終的に、ヴィレッジ(恭介)が人外(湊)にキルされている絵になった。多分よくやられているからだろう。

 そうしていろいろ見ていき、最後に誠のお題。こちらは最後まで回った。

「湊さん、本当に絵、うまいですね」

 さっきから見ていて思ったが、本当に上手だ。

「ホントにそう!でも時々ボケはさんで来る……」

「思いっきり乱れたところもあったからな……」

「アハハ。元ネタが分からなくて想像で描いたらそうなるんですよね……」

 湊は絵が上手なために、まったく分からないものになるとマジでうまい絵で乱してくる。いい例がある漫画がお題に回ってきたのだが、どんなものか分からずネタキャラの顔面をドアップで描いたことがあった。それで誰も分からず、結果別のものになってしまった。

 もちろん、この会話も動画に出す。

『そう言えばかいさん、あの後大丈夫なんですか?』

 そんなコメントが流れてきた。湊はそれにSNSで返答した。

『その件に関しては、弁護士や警察も動いてくれています。また、いとこ夫婦も離婚したそうです。おじはホープライトラボに勤め始めました。母子はもう逮捕されていて、しばらくは釈放されないそうです。また、母子の方には私達に近付かないと制約を立てました。ニュースにしても構わないと言っているので、いずれ出てくるかもしれません』

 それに安心のコメントが送られてくる。

「本当に愛されていますね」

 奈々がそれを見ながら呟いた。

「実感するよ……。ところで、助手の話、前向きに考えたいんだけど」

 突然そう言われ、奈々は目を丸くする。

「え?」

「私、ホープライトラボの所長さんとも繋がっているんだけどさ。彼女に君のことを相談したら、そこで雇って自分のところに送ってもいいって言われてね。あの馬鹿のせいで就職活動もろくに出来てないし、どうかな?」

「でも、子供……」

「そこは心配しない。ここに住み込みでいいからさ。作家って、助手がいる人もいるんだよ。給料は自分のために使っていいからさ」

 そう言って笑うと、「それだったら……」と奈々は頷いた。

「ありがと。多分真っ先に読ませることになるから楽しみにしてて」

「本当ですか!?」

「助手になるからにはね。先に読んでもらって、その意見を参考に書き直して送りたいんだよ」

 あのかいさんの小説を真っ先に読める……それはファンである奈々にとってとてもやりがいのある仕事だ。

「一緒に実況も撮ってみる?」

「いいんですか?」

「うん。みんな君もやらないのかって言っていたからね」

 フフッと湊が笑うと、「じゃ、じゃあやってみます」と固い返事をした。

「そんな緊張しなくていいよ。編集するの私だし、好きに動いて」

「は、はい」

 そんなこと言われて、なおさら奈々は固くなる。

「撮れ高とかは最初気にしなくていいんだよ。そういうのは余裕が出てきてからでさ」

「そ、そうですか?」

「私も実際そうだったよ。最初は自作ゲームの解説だったからどうにかなったけど、別のゲームだと難しかったね」

 実際、撮れ高は狙って撮れるものではない。偶然が重なって出来るものなのだ。

「だから気を抜いてやっていいよ。……あ、そろそろ撮影の時間だね」

「い、今から入るんですか?」

「あ、無理そうなら見ているだけでもいいよ」

「いえ、やりたいです」

「了解」

 湊はパソコンを持ってきて、それを繋げる。そして奈々に渡し、自身は隣に座った。

「みんな、報告したいことがあります」

「え、何々?」

 動画撮影と同時にみんなに報告した。

「今回から、奈々さんが参戦します」

「本当!?」

「やってみたいって思ってたんだよね!」

 皆が喜びの声を上げていると、

「というわけでサヨナラ」

 なんと、急に恭介をキルしたのだ。

「えー!?」

「いきなり何やってるんですか!?」

「村長よく湊さんにやられてますね……」

「……斬れちゃった……」

 どうやら湊の方も予想外だったらしい。まさか……。

「湊さん、マタールですか……?」

「は、はい……一人白確実な人を作りたかったんですけど……まさか斬れちゃうとは……」

 本当に偶然だったらしい。霊界で「いきなりかよー!」と叫んでいる恭介の姿が思い浮かぶ。

 このまま、もう一人の人外を探すゲームが始まってしまう。

「あ、クールあけました。斬りまーす」

 そう宣言した後、修斗が斬られる。

 そのまま、ゲームが終わってしまった。

「ピッタリ人外当てるのかよ!?」

「なんで分かったんだよ!?」

「えっと、勘」

 まさかの撮れ高が出来てしまった。逆にすごい。

「……湊さん、マタールの時初手特攻禁止しますね」

「はーい……」

 この時、その決まりが出来たそうな。

 それからはいい試合が出来た。

「こんな感じでいいんですかね?」

「上手だよ、奈々さん」

 湊は何度か抜けて、奈々にやり方を教えている。

「いいなぁ、俺も湊さんに教えてもらいたかった」

「こらこら、湊さんは誠のものなんだから」

 恵茉のその言葉を聞いた途端、ゴンッ!と大きな音が響いた。

「湊さーん!?」

「だ、大丈夫だよ、奈々さん……」

 どうやら動揺して頭をぶつけた音だったらしい。「いたた……」と呟く声が聞こえてきた。

「あ、本当だったんだ」

「カマをかけたつもりだったんだけど」

「いいじゃん!青春じゃん!」

「青春はもうとっくに過ぎている気がしますけど……?」

 湊が苦笑いを浮かべている。

「いやいやまだいけますって!」

 小陽が食い気味だ。ファンとしてそれでいいのか?

 そのあと、お絵描き伝言ゲームで相当いじられた。


「あ、湊さん。今度デート行かない?」

 ある日の撮影後、誠が誘った。

「お!堂々とのろけるとは、誠も大人になったなぁ」

「うるさい、恭介」

 同僚組で話していると、

「いいですよー。いつがいいですか?」

 湊は了承した。

「あ、奈々さん大丈夫?いざとなったら友達とかみんなを呼んでいいけど……」

「大丈夫ですよ。あーでも、ちょっと心配だからみんな呼びますね」

「いいよいいよ。みんなだったら壊しさえしなければ執筆中の小説も読んでいいよ」

 かなり心を許してくれているのだろう。前だったらこんなこと言わない。

 明日二人とも休みだったので、約束してそのまま終わった。

 次の日、湊は誠と合流した。

「そう言えば、誠さんもこの近くでしたね」

「そうだよ。じゃあ行こうか」

 そうしてショッピングモールを歩いていると、

「あ、あの、かいさん、ですよね?」

 男子高校生が恐る恐る声をかけてきた。それに頷くと、

「その、サインとかもらっても……」

「あぁ、いいですよ」

 湊が快くサインをくれて、男子高校生は「あの、デート中だったんじゃ……?」と聞いた。

「まぁ、彼も分かっているので」

 どうぞ、とサインの書いたスマホを帰し、湊は誠と一緒に歩き出した。

「本当に人気だね」

「敦人のおかげかな?あの子が私の書いた物語を読みたいって言わなかったら書いていなかったので」

 湊はフフッと笑う。弟のために書いた小説が、今こうして有名になっているのだから弟も自慢できるだろう。

「あ、そういえば今度、涼恵さんが一緒にゲームするって」

「え、ホープライトラボの所長さん?」

「そうですそうです」

 まさか、あの人が参加するとは……。

「涼恵さん、かなり頭がいいので私も正直勝敗は五分五分なんですよ」

「湊さんでもなかなか勝てないんだ?」

「もう未来が見えているんじゃないかって思うぐらいですよ」

 そこまでなのか……。さすが、大学生ながら所長をしているだけある。

「でも、楽しみだね、それだったらさ」

「もちろん、みんなもやるんですよ。ちなみに人狼ゲームだけはあまり乗り気ではないみたいです」

「え?」

「まぁ対戦ゲームですね。だから今度時間が合う時に私の家に集めますね」

 マジか……それを聞いた後だと怖いのだが。

「というより、人狼ゲームは嫌いなんだ」

「うーん……理由は分からないんですけど、人狼ゲームは自分が入ると面白くないと思うよと言ってましたね」

「どういう意味だろ?」

「さぁ……?」

 人狼は人数が多ければ多いほど楽しいのだが。

 とりあえず、対戦ゲームでコラボできることを喜ぶことにしよう。


 それから数日後、いつものメンバーの中に茶髪の女性――森岡 涼恵がいた。

「本当によかったのか?湊さん」

「うん。よくやってるし」

「まぁ、二人の時はそうだよな。時々動画にも出ていたし」

 湊が二人プレイの動画を出している時、大体相方がこの人なのである。

「涼恵さん、ゲームなんてやるんだ……」

「弟の影響ですけどね」

 フフッと涼恵は笑う。

 そうしてゲームをするのだが、

「うわっ!本当に涼恵さんつよっ!」

 かなり強く、湊以外は一度も勝てなかった。

「そういえば、涼恵さんって人狼ゲームは嫌いなんですか?」

 誠が尋ねると、「あー……」と涼恵はうなった。

「嫌いっていうよりは……まぁ、うん……」

「うん?どうしたんすか?」

「……驚かない?」

「まぁ、何か理由があるのでしょうし、よほどのことがない限り驚きませんけど……」

「……私さ、未来が見えるんですよね。人狼が誰かとか分かっちゃんですよ」

 ……あー……それだったらまぁ、確かに面白くないかもしれない。

「てか、そんな力あるんすか!?」

「私、一応巫女の家系ですからね」

 巫女の家系だからで済ませられることではなさそうだが……。

「なんか、すみません……」

「いえ、大丈夫ですよ。実際、人狼ゲームは楽しそうだと思っていますし」

 笑いながら言う涼恵に「では、一度やってみます?」と莉子が聞いてきた。

 実際にやってみると、

「涼恵さんに勝てないー!」

 そう、どうしても涼恵に勝てないのだ。未来が見えるというのは本当なのだろう。

「でも、案外楽しいですよ」

「それならよかった」

 蒼汰の言葉に涼恵は微笑んだ。

 これも動画になり、話題になった。

『所長さん、すごく上手じゃん!』

『ゲームやるイメージなかったんだけど、するんだなぁ』

『フレンド申請したいな』

 そんなコメントが流れてくる。まぁ確かに、あの生真面目な所長がゲームをするとは思わないだろう。

「なんか、私の方にも実況してほしいってコメントが来たんだけど」

 後日、涼恵が苦笑いを浮かべながら湊にそんな報告をした。

「あー……まぁ実際、涼恵さんはゲーム上手だから」

「本業もあるから難しいんだけどなぁ……」

 そう、涼恵はあくまで会社の社長的存在。たまにならいいのだが、本業も併せてとなると厳しいものがある。

「と、いうわけでもしかしたら湊さんに頼むかもしれない」

「まぁ、私は大丈夫だけど、涼恵さんの方が時間ないんじゃない?」

「動画撮るだけなら、時間は作れるよ。でも編集時間がね……」

「まぁ、そうだよね……編集時間の方がかなりかかるから」

 涼恵は多忙の身だ、いろいろなことをしているのだから時間があるわけがない。

「まぁ、その件に関しては考えておくかな?あ、そうそう。お兄さんの方、編集が出来るようになってきたよ」

「そうなんだ、よかった」

 最近はこうやってうれしい報告が来るからどちらも楽しかった。前は相談に乗ってもらっていたようなものだったので申し訳なさが大きかったのだ。

「お母様の方も無理なく続けられているし、おじさんもみんなに支えてもらいながらやってくれているよ。本当にうちの戦力になってくれて感謝してる」

「所長さん達はいつもよくしてくれるって言ってたよ」

「大事な社員だからね、無理なく働いてくれたらいいよ」

 笑いあう二人は、親友と呼ぶにふさわしいものだった。


 そうして序盤に戻る。

「でも、初めて会った時とはイメージが変わったよね」

「そうですか?」

「そうそう、初めて会った時はどこかはかない人だと思っていたんだけど、今は割と明るい人だなって思うよ」

 小陽の言葉に恵茉も笑う。

 これからも、このメンバーは繋がっていくだろうと確信しながら。

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