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兎アントレの冒険  作者: てんきどう
4/4

アントレと春祭り

よろしくお願いいたします。




「わあ! こんなにたくさんの花がさいてるんだね! きれい!」

「この国も春祭りができるくらい復興したということです。本当に良かった……」

「満開の桜が美しいです」

「これが春祭りなんですね……」

 

 チョコとアントレとレモンとメイフォアは、春祭りを見にきていた。長引く戦争でずっと開催されていなかった。それが、復興が進み久しぶりに行われたのだ。桜の並木道を4人で、笑いながら歩いていく。雲一つない青空に心地よい風が吹き抜けていく。たくさんの花びらが舞い散る。輝くように美しい光景だった。

 アントレは、チョコ達に楽しい思い出を作ってあげたいと思った。レモンもチョコもメイフォアも、春祭りは初めてなのだ。アントレは、なんて嬉しいことだろうと感激している。

 チョコは、レモンさんが作ってくれた桜の模様のワンピースを着ている。ウキウキして、猫の黒い尻尾がユラユラ揺れている。

 レモンさんは、双子抱っこ紐を前と後ろにつけて、4頭の子龍達を抱えてニコニコと嬉しそうに笑っている。

 蛍のメイフォアは、魔力節約のために螢の姿で、チョコの頭にとまっていた。じっとしてると髪飾りのようだ。



「花びらがふってきてキレイだね」

「桜吹雪というんだ。綺麗だね」

「うん。すごくうつくしい」


 チョコは、目をキラキラと輝かせて見入っている。歩いていくと、たくさんの種族の獣人が歩いている通りに出た。


「みんなたのしそう!」

「久しぶりのお祭りだから、盛り上がってるね」


 一緒に散歩している夫婦、女友達と歩く獣人達。火を扱うパフォーマーをしている黒いチーター獣人、ギターを奏で歌い踊る鳥獣人。木には鳥獣人がとまり、リス獣人が幹を駆け降りている。ベンチで服をかぶって寝ている獣人もいる。

 そして、綺麗な行列がやってきた。満開の桜並木の下を、桜色の巫女の服をきた獣人達がしずしずと歩いている。笛や打楽器の美しい音楽を演奏している獣人達が、続いて練り歩いている。

 アントレは、チョコに行列について説明する。


「神様のクンピララ様に捧げる音楽と行列だよ」

「きれいな音楽だね」


 チョコは、美しい行列と音楽に感動した。そして歩いていくと、たくさんのテントがあって、いろんなお店がでていた。メイフォアは、どんぐりの苗木を売ってるお店を見つけた。


「どんぐり! 私達の出会いの木ですね。欲しいです。近所の荒地に植えたいです」

「植えるのは良いですね。ついでに、メイフォアさんのためにホタル草も探してみます。持ち歩くのは大変なので、配達してもらいましょう。手続きする間、皆さんはお祭りを見てまわっててください。後から追いかけます」

「分かりました。行こう。チョコ、メイフォアさん」

「うん! みんなでお出かけワクワクするね!」


 アントレは、お店でタンポポの花束を見つけて買った。


「この自然栽培のタンポポが美味しいんだ」


 アントレは、きれいに洗って水分を拭きとったタンポポの束をショリショリと食べだした。チョコは、兎のアントレは今日も可愛いと笑顔になった。

 行列を作って並んでるお店があった。動物の形をしたべっこう飴を売っている。


「チョコも食べたい」

「チョコはもう獣人化できるから、べっこう飴も食べられるね。いいよ。買ってあげる。好きなのを選んで」


 チョコは、嬉しくてたまらなかった。すごく嬉しい!獣人化できるようになってよかった! 子猫のままだと食べられなかった。私は大好きなアントレの形をした兎のべっこう飴を選ぶ。パクッと口に含むと口いっぱいに甘さが広がった。アントレは、何かブツブツと口の中でつぶやいている。なんだろう?


 アントレは、チョコに好きな形の飴を選ばせてあげた。チョコはとても喜んだ。アントレと同じ兎の形の飴を選んだ。そして嬉しそうに、パクっと食べる。アントレは、それを見て焦った。

 兎を食べた……チョコは肉食系猫獣人だ……


「おいしい!アントレ、ありがとう!」


 アントレは、耳を後ろにして歯をカチカチと鳴らす。恐怖の仕草である。


「まさか……いやチョコはそんな子じゃ……」


 歩いていくと、いい匂いのする草を置いてるテントがあった。くじ引き屋さんと書いてある。


「いいにおい!」

「クジを引いて、当たったハーブの苗をもらえるみたいだね。そのキャットニップの苗が欲しいの? ちょっとまってて」


 アントレは、魔力を静かに発動させた。彼のスキルは『Luck極振り』 

 チョコの魔眼には、アントレの魔力の輝きが見える。じっと見ていると、彼の右前足がキラキラと輝き出した。彼は魔力を右前足に集めてる。スキルを使う気なんだ。きっとこの光は魔眼の私だけに見える。アントレは、いい匂いのする草の苗のクジを引き当てた。そして私に渡してくれた。すごく嬉しい!


「ありがとう! アントレ! たいせつにする!」

「チョコの好きな草が見つかってよかったね」


 アントレはホッとした。チョコも草が大好きになるといいな。猫獣人が好きだというマタタビはないかと、お店の人に聞いてみた。しかし売り切れだと言われてしまう。女性の猫獣人へプレゼントするために、すぐに売り切れたらしい。春は恋の季節でもある。諦めるしかなかった。

 アントレがチョコを見ると、空を見上げている。空には白いお月さまが浮かんでいた。月の中には兎の姿が見える。チョコは両手を月に向けて突き出し、おいでおいでと手招きしはじめた。


「お月さまにもうさぎさんがいるよ。おともだちになれるかな」

「月には月兎族がいると伝説があるよ。いくらチョコでも、流石にそれは……」


 チョコとアントレが空を見ていると、フワフワとなにかが降りてきた。

 ギョッとして見つめた。やがてそれは傘をさしていて、空色の服を着た小さな獣人だと分かった。たてがみのようなフワフワの毛が顔のまわりに生えている。耳は短かめで、瞳の色は海の色だ。小さな旅行カバンを持っている。ゆっくりと地上に降りたった。そして、アントレ達に挨拶をした。


「こんにちは」

「わあ! ちいさな白ライオンさん?」

「僕は、ネロ・プロドッティ。月兎族です。よろしくね。君も見るところ兎獣人だよね。よろしくね! こちらは猫獣人の子かな」

「……驚いた! 伝説の? 薬作りを生業としてるという?」

「うん。そうだね。薬のことは詳しいよ。俺は月隕石に乗って、観光に来たんだ」

「チョコのスキルのレベルが恐くなってきた……」


 アントレは、チョコのスキル『招き猫』が不安になった。ちょっと色々と呼びすぎじゃないかな。コントロール出来ている気がしない。ネロさんとやらは、本物かな。話を聞き出してみるか。

 アントレ達は、空いているベンチに座り、話をすることにした。


「月にはない薬草を研究したくてね。しばらくこの国にいるつもりなんだ」

「薬草の研究ですか」

「うん。君が持ってるのは『タンポポの根っこ』でしょ? これを天日で乾燥させて、細かく粉砕して、乾煎りしてからドリップすると、タンポポコーヒーになる。むくみ解消や肝機能の強化、血行を良くして清熱解毒作用がある。そう書物にあったよ」

「詳しいですね」

「ネロさん、おくすりつくれるの? うちにはハーブのはたけがあるよ」

「ハーブか。いいね!薬の材料になる。ハーブ畑を見てみたいな」

「家主のレモンさんに聞いてみましょう。彼女の畑なんです。後から来るはずです」

「薬師として、是非お願いしたいね!」 


 アントレは、ネロに好感がもてた。怪しい言動はない。もっと薬草について話を聞いてみたいと思った。

 すると突然、通りすがりの獣人達に声をかけられた。


「薬師だと……」

「女にもてる薬はあるか…!?」

「惚れ薬はないのか?」

「あの野郎……ボスが負ける薬を作れ!」


 チョコはビックリした。急に野太い声で話しかけられたのだ。酔っぱらってる狼獣人達だった。大きな声で遠吠えをしている。黄色い目、全身黒い毛の大きな狼獣人達が、二足歩行で立っていた。

 兎獣人のアントレは、さっとチョコ達の前に立った。彼の魔力が、静かにキラキラと発動し始める。

 ネロさんは、彼らに答えた。


「いやいやいや。駄目でしょ。薬師として作ることはできないよ」

「俺達は一生モテないのか」

「一生あいつの子ども達を育てて、自分の子はもてない」

「いっそ殺してくれ」


 酔っぱらい達は、ある方向を指さす。アントレ達はそっちの方を見た。そこには、背が高くカッコいい人型の狼獣人の男性が、可愛いおしゃれな女性の狼獣人を後ろから抱きしめて、笑いあっていた。その周りを、いろんなタイプの女性狼獣人達がニコニコして囲んでいる。

 チョコは思い出した。そういえば、本で読んだことがある。狼獣人は、1番強いボスだけが子どもを作っていいって。


「うらやましい……」

「もう猫でもいい……」

「君達、正気に戻りなさい!」


 ネロが、狼獣人達に声をかける。しかし、酔っ払った狼獣人達の黄色い目が濁ってきた。ネロが小さすぎて、狼獣人達の目に入らなかったのだ。

 狼獣人たちの手が、チョコに伸びてきた。チョコは怖くて、獣人化が解けて猫の姿に戻ってしまう。恐怖で尻尾がブワッと膨んで、耳が後ろを向いてしまう。

 アントレが魔力を体にまとい、狼獣人達の手にうさキックを繰り出した。


「チョコ! メイフォアさん! 逃げろ!」

「チョコ。オオカミさんこわいぃー!」

「チョコちゃん!危ない!」

「うわ!? なんだ?この光はっ」


 螢のメイフォアが、チョコの頭から飛び立ち、強い光の球を狼獣人達にぶつける。そして、魔力を体にみなぎらせて巨大化した。メイフォアはチョコを背中に乗せ、ネロを掴んで空高く飛び上がった。しかし、兎獣人族は抱き上げられるのが苦手なのだ。


「チョコ、飛んでる!?」

「ぎゃあー!! 怖い!! 掴まれて飛ぶのは怖いー!!」


 ネロは怖がって暴れている。チョコは、初めて見る高さの景色にワクワクしてきた。猫獣人は高い所が大好きなのだ。


「あははは! たのしい!」

「怖い! 嫌だー!」


 アントレは狼獣人達と戦って、後ろ足で華麗なうさキックを繰り出している。アントレのスキルで、狼獣人の攻撃は彼に当たらない。しかし人数が多い。何人かは、チョコ達の後を追いかけてきた。


「どうしよう……アントレも大丈夫かな」

「アントレ君は凄いな! しかし、困ったな。あいつらの酔いが覚めるまで飛び続けるのも大変だ。狼獣人は、1日中狩りをするぐらいタフらしいからな」


 そして飛んで逃げていると、人混みが割れた。その先方にはレモンさんが立っていた。レモンさんの瞳は青黒く輝いている。……彼女はものすごく怒っていた。無表情にコテンと首を傾ける。


「……うちの娘達に何をしている……? うちの娘に手を出すのは、私を倒してからです……」


 急に、まわりの空気が一気に冷え込んだ!

 チョコの魔眼には、キラッと巨大な鱗のようなものが動いたのが見えた。それは透き通っていた。きっと他の獣人達には見えない。巨大な尾のようなものが、酔っ払った狼獣人達を薙ぎ払う。狼獣人達は勢いよく後方へ飛んでいって、気を失った。


「ふふっ……春の嵐かしら?」


 レモンさんは、冷たく笑って言った。

 チョコはビックリしたが、ホッとした。他の人達には、突風にしか見えなかったようだった。

 狼獣人達が、救護テントに運ばれていく。アントレも駆けつけてくれて合流した。彼はチョコ達を心配して、怪我がなくてよかったと喜んだ。チョコは嬉しくなって、アントレに抱きついた。

 狼獣人達は目を覚ますと、頭痛と眩暈でふらふらしている。

 するとネロは、魔力で杵と臼を作り出し、いろんな草ともち米を入れて、突き出した。ネロのスキルは『薬製造』

 ペッタンペッタンペッタンコ

 突き上がったものを丸めて、丸薬が出来上がる。ネロは、狼獣人達へ丸薬を渡した。


「2日酔いの薬だよ。狼獣人は子どもが欲しかったら、ボスに勝ってボスに成り代わるか、過酷な一匹狼になって女性の狼獣人を口説くしかないらしいからね。大変だよね」


 狼獣人さん達は渡されたお薬を飲んで、謝った。さっき見かけたボスの狼獣人さんも来て、謝ってくれた。


「ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした!!」

「こいつらが酔っぱらってご迷惑をおかけして、誠に申し訳ありません!」

「ごめんよ、兄貴……」

「俺はいつでもボス戦への挑戦を受けるから。だから、腐らずに修行を頑張れ」

「うん。ごめんよ……」

「次からは、気をつけてください」

「次やったら、許しません……!」

「「「はい!!」」」


 狼獣人達は、生命が削り取られるような気がした。酒はやめようと誓う。怒ったレモンを怖いと感じる。突風に吹き飛ばされたのも謎だった。

 アントレ達は救護テントを出た。満開の桜並木を、ネロも一緒に帰ることになった。


「月兎族のネロさんですか。うちの子ども達がお世話になったそうですね。お礼に、もし宿泊先が決まってなかったら、今夜うちに泊まっていってください」 

「お世話になります。ありがとうね。チョコちゃんに聞いたんだけど、ハーブ畑があるんだね。一度見せてくれないかな。俺はこの国の薬草に興味がある。桜は月にはないけど、花や葉をパウダーにして使ったり、お菓子やお茶にできるんだ。小枝や幹を細かくチップにして、染め物や燻製に使うと聞くよ。面白いよね」

「そうなんだ! さくらってすごい!」

「僕も月の薬学に興味があります。ぜひお話を伺いたいです!」

「いいね! 桜の花びらが入ったリキュールを手に入れたんだ。飲みながら語ろう!」

「僕まだ未成年なので、お酒は遠慮します」

「ええー!? アントレ、まだ大人じゃないの? そんなに大きくてしっかりしてて……」

「フレミッシュ家は、兎でも大型なんだよ」

「俺は小型だから羨ましい。何を食べたら、そんなに大きくなるの?」

「牧草とペレットが主食です。美味しいですよ」


 チョコは今日一番驚いた。アントレはまだ大きくなるなんて! ネロさんは、うちの木の家を見ると感激しました。こんな家が欲しかったそうです。レモンさんが、それなら丁度どんぐりの苗木があるから、魔法でネロさんが寝泊まり出来る家を作ろうと言いました。ネロさんは大喜びです。家の近くの荒地に、ネロさんはしばらく滞在することになりました。メイフォアさんは、どんぐりの苗木とホタル草を荒地に植えるとはりきっています。にぎやかで楽しい!桜の季節が終わると、ツツジやバラ、アジサイの花が咲いていくそうです。春祭りは終わっても、花の季節は続いていくそうです。みんなで過ごしていけたら、きっととても楽しい。

 チョコは、今日の出来事をノートに書くと、ベッドに入って目をつぶった。


 アントレは子猫の姿で眠るチョコを毛づくろいしながら、考え込んでいた。

 もっと強くなりたい。ならなければいけない。酔っぱらった狼獣人を全部倒せなかった。あの時、レモンさんが来るのが遅かったら……。アントレはゾッとした。薬師のネロさん、不思議な強さのレモンさん。明日、2人に相談してみよう。アントレは、眠っていてもすぐ起きて動けるように、目を開けたまま香箱座りで眠った。鼻がヒクヒクと動いていない以外は起きているようだった。アントレは皆を守ることに誇りをもっているのだ。






最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

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