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兎アントレの冒険  作者: てんきどう
1/4

子猫と大きな兎と魔女

よろしくお願いいたします。




 音もなく、黒い子猫が走っていく。フワフワと浮かぶ毛玉を追いかけているのだ。

 フワリと、その毛玉が木の根元の穴へ入っていった。暗い穴の中は、奥まで続いていた。毛玉はフワフワと奥へ進んでいった。

 黒い子猫は迷わず穴の中へ飛び込んだ。


「ミャアミャア!(待て待てー!)」

  

 楽しげな、幼い鳴き声が穴の中に響きわたりました。




⭐︎⭐︎⭐︎




 毛玉は、トンネルを抜けて明るい場所に飛び出した。子猫も、トンネルから外へ飛び出す。

 そこは、白い靄が一面に広がる世界だった。

 子猫が毛玉を探すと、草むらの上にいました。子猫は、飛びかかって毛玉をキャッチしました。すると、毛玉はとても驚いて、垂直に飛び上がったのです。子猫には、急に毛玉に大きな体が生えたように見えました。ピョンピョンと跳ねていって、大きな木のかげに隠れたのです。それは、震えながらそっとこっちを見ました。長い耳が生え、赤いつぶらな瞳で子猫を睨んできます。


「悪い子猫ちゃんめ!」


 大きな体の生えた毛玉は、喋りました!毛玉は、冬の夕焼け色の上着を着ています。大きな体は、茶色い毛がモフモフと柔らかそうです。晴れた日の草原のような匂いがしました。


「僕はアントレ。兎獣人のアントレ・フレミッシュ。君は誰? どうしてこんなイタズラをしたのかな」


 これが、私とアントレとのはじめての出会いでした。

 

「私は黒猫の子です。名前はありません。毛玉を追いかけて捕まえたら、あなたが生えてきたの。ごめんなさい。毛玉をキャッチしたら、大きな兎獣人が生えて怒るのね。知らなかったの」

「……ええとね。君が捕まえたのは、僕の尻尾です。動く毛玉じゃありません。僕の尻尾を毛玉と間違えたんだね。今日は靄が濃いから、間違えたんだ。動く毛玉はきっと魔法生物ケサランパサランだ。あれは、イタズラ好きだから。ふいに現れては消えてしまう。驚いたけど、わざとじゃないならいいよ。一人でおうちに帰れる?途中まで送っていくよ」

「びっくりさせてごめんなさい。ありがとう」


 ふと気がつきました。なぜか言葉が通じます。不思議です。私もミャーでもニャアでもない。喋っています。

 アントレは、長い間私とトンネルの入り口を探してくれました。でも、どこにも入り口はありませんでした。

 私は哀しくなって、しくしくと泣き出しました。お腹も空いて疲れました。


「ここらにトンネルがあったの。ウソじゃないの。かえれない……」

「嘘だと思ってないよ。ここではよくあることだ。魔法のトンネルだったのかもしれない。気まぐれに、現れては消えてしまうんだよ。ついておいで。僕のうちで休むといいよ。それから、家主のレモンさんに相談してあげるよ。優しい魔女だから、きっと助けてくれる」



 アントレは、私を大きな木に連れてきてくれました。木には、小さな扉と大きな扉がついています。右上に小さな窓がありました。暖かみがあって、素敵な木の家です。

 アントレが、大きな扉を開けました。中には、白い服を着た女性がいました。黄金色の髪と、クルクルと色の変わる輝く瞳をしています。今は左が緑色で、右が金色に輝いています。とっても綺麗で、ニコニコしています。

 部屋の中には、木でできたイスとテーブルがありました。左下から右上へ、階段がありました。階段の下はたくさんの棚になっています。


「レモンさん。迷子の子猫です。魔法のトンネルを通ってきたらしくて。トンネルは消えたようで見つかりません」

「まあ!可哀想に!」


 レモンさんと呼ばれた女性は、輝く瞳で私をじっと見つめました。

 しばらく考えこんでから、話し出しました。


「うーん。この子は遠い別世界から来たみたいだね。元の場所が特定できないと、送り返すのは難しいね。しばらくうちにいるといいですよ。私はレモン・ミント。魔女よ。あなたのお名前は?」

「名前ないです」


 アントレは、心配そうに私を見つめた。


「名前がないと不便だよね。『チョコ』はどう? 君みたいな色をした食べ物なんだ」

「チョコ。素敵な名前。ありがとう!」


 名前をもらいました。嬉しいです。ウキウキします。体がぽかぽかしてきました。力が全身にみなぎってきました。走り出したいくらいです。そして、体が光りだしました。


「体が光った?」

「チョコが光った!」

「魔力があるんですね。だからケサランパサランが見えて、追いかけてきたのね。ここは魔法と獣人の国クンピララです。今日はゆっくり休んでください。明日になったら、この世界について教えてあげますからね」


 レモンさんも、とても親切な人みたい。本当によかった。私は、とても疲れててお腹も空いて、体も冷えて寒かった。私は、モフモフしたアントレにくっついた。アントレは、とても暖かかった。私より体温が高いのかな。心もぽかぽかと暖かくなって、私は眠ってしまった。アントレは、私と寄り添ったまま眠ってくれた。彼は、私の悲しい気持ちが分かるのかもしれない。そんな気がした。

 



 次の日の朝、子猫用フードと水を出してくれました。お腹いっぱい食べました。

 食後に、この世界についてお話してくれました。

 

「魔力とは、この世界に満ちている不思議な力のことだよ。魔力があれば、異種族でも言葉が分かる。姿形も変えて獣人化できる。魔力の勉強をすれば、いろいろなことが出来るようになるんだ。僕もレモンさんも持ってるよ」

「教えてくれてありがとう」


 この世界には魔法があり、とても便利で、私も持っているらしい。魔法の勉強をすると、獣人化できるようになる。獣人化ってどんな感じなんだろう?さらに勉強すると、スキルというものを獲得出来るらしい。スキルは、いろいろあるそうです。

 私達がいるのは、クンピララという小さな国です。王様は、ライオン獣人です。

 象の頭の形をした山があって、上の方にクンピララ様というワニ獣人の守り神様がいらしゃっいます。

 この家は、国のはずれにある荒れ地にあるそうです。

 レモンさん達は薬草を育ていて、薬を作って売っています。

 アントレは、レモンさんのお手伝いをしています。

 私は、畑を見せてもらったり、王都や神殿を案内してもらいました。

 獣人の姿で暮らす人もいれば、動物の姿でいる人もいます。

 



 アントレは、考えていた。

 黒猫の女の子が、迷子になって家にきました。

 子猫をお世話するのは、初めてです。

 不安で疲れていたのか、僕にくっついて眠ってしまいました。

 レモンさんと、『猫との暮らし方』という本を読んで、子猫用フードと食器を用意しました。

 チョコ専用のベッドやトイレも用意しました。

 起きると、匂いを嗅ぎながら家中を探索してました。

 それから、ご飯を食べたり、お話をしました。

 僕やレモンさんに、頭をこすりつけてくるのは甘えてるのかな。

 早く帰れる方法が分かるといいけれど…。

 もし帰れないなら、この国のことを教えてあげたほうがいい。

 幸い魔力もあるから、獣人化できるかもしれない。

 獣人化できたら、いろいろなことができるようになる。

 様子を見ながら、いろいろ体験させてあげよう。

 

 


 私チョコは、ここが好きです。

 アントレもレモンさんも、獣人化して兎や人の姿になった猫の仲間かもしれない。

 私もいつか獣人化してみたい。

 私は、よくアントレにくっついて過ごしていました。

 とにかく彼は興味深かったです。

 アントレは、いろんな事に詳しくて、食べられる草やお腹を壊す草を教えてくれました。

 あの長い耳はとてもよく聞こえて、遠くの雨の音を聞き取って天気を教えてくれます。

 いつも鼻を動かして可愛いです。鼻呼吸というらしいです。

 綺麗好きで、よく毛づくろいしています。

 私も、アントレに毛づくろいしてあげます。

 彼は大きな音が苦手で、ビックリすると音が聞こえなくなるまで部屋から出てきません。

 私も、雷や大きな音は苦手です。

 そんな時は、レモンさんが優しく撫でてくれます。

 彼を怒らせると、突進してきて怖いです。

 足をダンダン!と踏んで怒るときもあります。

 仲直りする時は、おでこをくっつけてくれます。

 私は、そっとアントレの尻尾に触ってみたり、寄り添って寝るのが好きです。


 

 

 魔女レモンは、考えていた。

 この国にきて、魔法で木の家を作ったら、大きな兎のアントレがやってきました。

 アントレは帰るところがないそうなので、一緒に暮らすことにしました。

 兎のお世話は、初めてです。

 しっかりした子だったので、自分で必要なものを教えてくれました。

 この国の暮らし方も教えてくれています。

 そして、子猫のチョコがやってきました。

 チョコは、帰る場所が分からないのです。

 魂の情報が違うので、異世界から紛れ込んだようです。

 チョコも一緒に暮らすことになりました。

 ここは、荒れ果てた地です。

 地面はひび割れ、乾いた風が吹きます。

 遠くの地まで、緑が見えません。

 魔法を使って、この家と畑に緑が少しあるだけです。

 先のことは分からなくて不安だけれど、この子達がいると心が暖かくなります。

 荒んだ気持ちが、癒やされます。

 願わくば、この子達が平和に幸せに生きていけますように。

 この国は戦が終わったばかりで、とても不安定なのだから。





 



お読みいただき、ありがとうございます!

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