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宇宙ステーションの一角で

作者: カディパラ

「お客さんはレジャー帰りですか~?」

と、のりのいい感じで、その若い女の子が聞いてきた。

 ここは月と地球を行き来するロケット(シップ)が駐留する宇宙ステーションの一角にあるコンビニ。AIを載せたロケットが土星から返ってきたとニュースで流れるこのご時世に、まさか人間の店員をお見かけすることがあるとは思わなかった。黒髪ショートカットで新品の制服に身を包んだ、弾けるような笑顔を見せる女の子、年の頃は20歳くらいかな、若いなーと思いながら返事をした。

「そうだね。彼女と一緒にルナディズニーに行ってきた帰り。お姉さんは店員さん?」

コンビニって店員とフランクに話す場所だったかな。と、思いながら、カウンターの上に商品かごを載せた。

「珍しいですよね?私、大学でAIの社会浸透を研究していて、今フィールドワークでこのAIの機能向上に取り組んでいるんです。」

彼女はこちらに向かってペンギンを映し出しているディスプレイをポンポン叩きながら言った。さっき俺に向かって【イラッシャイマセー♪】と答えた、頭の毛が跳ね返ったペンギンだ。当たり前だが商品のバーコード読み取りは自動で行われているので、彼女は特に酒とつまみが入ったかごを触ろうとはしない。【お会計は1,200Zです。ありがとうございましたー♪】と寝癖ペンギンは続けて喋った。正直コンビニのAIに大した機能は不要と思うのだが、と、こちらが思っているのを察したのか、もしくは自分が紹介されていると認識したのか、ペンギンが一礼して喋りだした。

【はじめまして。ペンタンといいます。今はサキと一緒にコンビニで接客を勉強しています。いろいろなお客様にあわせたシームレスな対応ができることを目指しています】

「簡単なインターフェースや応対プログラムは初めから搭載されているんですが、これを社会へ溶け込ませるためのチューニングをどのように行うかが課題なんです。」と、彼女が補足した。聞くところによると個別の客に合わせてペンタンの雰囲気や口癖を変えたり、客にあった商品を紹介するなど、一辺倒に受け答えするだけに加えて、色々と向上させるところがあるらしい。

「そんな勉強もあるんだね、頑張って。」と、俺は言って店を出ることにした。

「あ、すみません」と、慌てて彼女が言う。

「すみません、本来はペンタンが声をかけるようにセットしてたのですが、機能しなくて・・・。えっと、宝くじを販売しているんですが、いかがでしょうか?」

彼女がそう言うと、忘れていた寝癖ペンギンが踊りながらディスプレイにその情報を映し出した。

「へー、1枚辺り10万Z。結構高いんだね?」

「はい。ルナと一緒で宇宙ステーションもレジャー特別区域なので、結構自由に金額設定できるみたいです、でも、当たれば最高額は10億Zですよ。」と続けて彼女は言った。もちろん彼女に言われるまでもなく、そのことは知っている。俺もルナで高額なギャンブルをやってきたからだ。

「なるほどね。俺もルナでギャンブルやってきたよ。でも、結構そこで儲かったからもうこれ以上はいいかな。」

「えっ、いいですね!だったらもう一回儲けると思って、1枚ぜひお願いします!」聞けば彼女の大学研究の成績にどれだけの売上を上げたかも影響するらしい。ペンギンはそんな彼女の苦労も知らずに「是非どうぞ」と笑顔で踊っている。

「うーん、じゃあ1枚だけね。自分で言うのもあれだけど、今結構ついてるからまた当たるんじゃないかなー」といい、俺はスマホを操作してくじを買った。発表時刻を見ると約8時間後が結果発表だった。

「JS12時には当選結果分かるね。JS20時に地球に帰るから、当たっていたら半分あげるよ、えっと番号がルナLの24736番」

「本当ですか!?やったー、絶対ですよ!当たるように祈っておきます!」

彼女は小躍りして喜んでいた。自分ながら若い女の子に弱いなーと思いながら、お店を後にした。


 前後上下左右がほぼガラス張りの廊下を歩き、部屋へもどるエスカレーターに乗り込んだ。太陽を地球が隠しているのだろう、周りは一面星だらけだった。ルナへの往路も同じような風景を見たのだが、そのときに比べ星の明かりがか細く見えた。

俺が乗ったエスカレーターの逆方向、コンビニや商業施設がある中心地に向かうエスカレーターに乗っている連中は全員が楽しそうな顔をしている。この宇宙ステーションにはルナほどではないが娯楽施設が整っており、ルナまで足を伸ばさなくてここに来るだけの目的の奴らもよくいると聞いていた。いくつかエスカレーターを乗り継ぎ、周りに誰もいないことを確認した上で「はー、なんで買っちゃったかなー」と、俺は一人ぐちをこぼした。

 ルナで大儲けしたというのは大嘘だ。地球でちょっと仲が良くなったマイという女性と遊ぼうとルナのディズニーまで旅行組んで、初の月旅行と一緒に行ったところまでは良かったが、ホテルでナンパされたらしく、一泊することもなく袖にされ、やけになり小さいギャンブル場で、バニー姿の店員に乗せられ、ほぼ全財産をスッた帰りだった。

エスカレーターを降りて、とぼとぼ歩いてC級客室に戻った。狭い部屋の硬いベッドに座り、ルナからここに来るまでに何回か意味もなく開いたバンクアプリを開く。残高欄を見てみると、先程の宝くじの金額が引かれていて、、いよいよ残高が0に近づいていた。

やってられねー。と俺はベッドで枕を頭に仰向けに転がり、酒を飲み、最近ルナで人気の女性ボーカルの歌を聞きながら眠りについた。今頃俺を振ったマイはどこかの男と楽しくやってるんだろうな、と思いながら。



か細い星の光が入る部屋で目を覚ますと、ちょうど宝くじの発表1時間前だった。俺はシャワーを浴びて、腹が減ったので、また中心地へのエスカレーターに乗った。安い飯屋があったので、そこに入り、味も金額もそこそこの定食を食べた。正直地球に返ってまた仕事に戻るのかと思うと、気が重くなる。

周りを見ると色々おもしろそうなレジャー施設もあるが、金が無い身では遊ぶ事もできない。

部屋に引きこもっておいたほうがいいなと思いながら、帰ることにすると、ある程度広い広場に12mほどの横幅のディスプレイがあり、前に集団ができていた。ふと見ると、寝る前に見た歌手が映っていて、さっきの宝くじの当選発表をするらしい。

くじを買った人はここで結果を見るのが流行りなのか、浮かれた顔のカップルや、ドキドキ顔の若者、真剣な顔のおっさんなどががディスプレイ前に集まっていた。

「ねー、当たったらマーズのホテルに行きたい!」という女や、「仕事辞めたいなー」というおっさん、「当たると思ったら当たらないから、俺は当たらない!」と、友達に言う若い男たちなどが溢れていた。

お前らはもちろん、俺も当たるわけが無いだろうと思いながら、それでもボーカルの際どい格好に惹かれて俺もその輪に入った。当選番号を決める的にダーツを投げる彼女に、ずっと投げててくれないかなと思ったのだが、あっという間にくじの結果は出たらしい。彼女は楽しそうな明るい声で

「当選結果はルナのL24736番です!」と、発表した。

すると、あっという間に周りには大げさなように意気消沈した声が溢れた。

「あー!、俺マーズM12736番だよ。惜しくない!?」という声や、「L20000のキリ番だから当たると思ったのに!」などなど。おそらく、そんなぐちを大声でみんなと共有するところまでがこのディスプレイ前のイベントなのだろう。俺もスマホの番号とディスプレイを見ながらつぶやいた。

「そうそう、こんなの当たるはずが無いんだよなー。俺のはルナLの24736番か、近かったなー。」

・・・

「当選結果はルナLの24736番かー、なんか俺のと近いなー。もうちょっとだったんだよな・・・」

酒が残っているのだろうか、どこが違うのかがわかなかった。

「俺のはL24736、当選結果はL24736、、、。」

「・・・・・・・・・・・・・・・うわっ!」俺は周りに人がいるのも忘れ、頭を振ってディスプレイとスマホを交互に見比べながら、「うわっ、うわっ、」とウワバミでも見つけたのかのように口に出した。スマホに表示されている番号欄の近くを見ると「結果確認」ボタンが出ていることに気づき、恐る恐る押して見ると、「当選!10億Z!」とデカデカと表示された。

「ウワワッタッターー!」と、周りにいたおじさんが後から笑いながら言うのを聞くと、俺はそんな声を出していたらしい。もちろん10億どころか1億の数字も見たことが無い俺は、よっぽど興奮していたのだろう、気がついたらボロいC級客室に戻って安物ベッドに腰掛けていた。正直当たったことに実感が持てなかったが、スマホの当選画面からほぼロボットのようにアプリの説明に従い、スマホを操作したところバンクアプリの残高が見たこと無い桁まで増えていた。気持ちというと喜ぶ気持ちよりも何か危ないことが起こりそうな気がしていた。まるで風邪を引いたかのように体が震え、俺は布団をかぶり、寝ることにした。地球に戻るシップの時間は迫っていたが正直部屋から出る気が起きず、シップをキャンセルをして、客室を延泊処理して眠りについた。


C級客室のためなのか、太陽の日差しがやけに眩しく部屋に注がれて、俺は目を覚ました。シャワーを浴びて、頼んだことが無いルームサービスを頼んでみた。1万Zほどしたが俺の財産の十万分の一と思うと、気にならなかった。寝て落ち着いて余裕が出てきたのか、俺は改めてバンクアプリを開き、10桁の残高を見て、ニヤニヤした。これからどう使うかや、大して楽しくない会社をどうやって辞めるかなど、緩みきった顔で考えて、俺はウキウキしながら部屋を出た。エスカレーターに乗って、当選結果を見たディスプレイのある広場に出てまたまたにやけていると、

「あっ、おじさん、いたー♪」と背後から声をかけられた。嫌な気がしながら振り返るともちろんコンビニの彼女だった。

「何か忘れてませんかー、」彼女はコンビニ服でなく、ペンギンのポイントが入った白いワンピースで、笑いながら声をかけてきた。

正直頭から消えていた。

俺はとちりながら、いや、むしろそっちがよく覚えていらっしゃいますねと何故か敬語で返したと思う。とりあえずジュースでも奢ってくださいよと彼女が言うので、近くの喫茶店に入った。

「私、記憶力がいいんです」

彼女は得体の知れなピンクのジュースを飲みながら言った。

「あの後、帰りしなにディスプレイで番号を見て、びっくりしました。やっぱり運がいいんですね。

私、フィールドワーク終わって地球に帰るシップに向かうところだったんですけど、まさか会えるとは思っていなかったです!」彼女は笑いながらあのペンギンをちっちゃい手持ちディスプレイに映して見せてくれた。俺をどのように認識したのか不明だが、ペンギンは寝癖がなおっており、メガネを掛けて不動産保険の申込みを勧めてきた。彼女が飲んでいる濃い紫のつぶつぶが浮遊しているジュースは美味しいのかなと思いながら俺はアイスコーヒーを飲んで答えた。

「いや、後でコンビニに行こうと思っていたんだけどね、もちろん覚えてるよ。」できるだけ彼女に初め伝えた通り、儲かっているから10億くらいでは大して気にしていない風を装いながら答えた。彼女は可愛いし、会話は楽しい。まーこういうのもいいかなと思っていると。ペンギンが不動産投資を進める画面を写して言った【お客様、有効なことにお金を使われることがライフプランの充実に必要です】と。

まさか俺が今まで女の子に散財してきた過去を知るわけ無いだろうに。。。

彼女はAIの技術者としても優秀らしい。


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