猶予と勇気
不定期ですが…!この「ミヤと俺が歩き出す物語、精神的にも社会的にも。」を完結させるために頑張りたいて思います!
「俺は…誰だ?」
深夜3時 閑静な住宅街のハズレの公園
男はその場で、黙り込んだまま仰向けに寝転んでいた。
自分が誰なのか分からなかった。名前なんてもともとあったんじゃないのか?違うのか?どうなんだ?何も分からない。せいぜい理解っても自分の性別くらいか…、自分はなんだ?俺は…?
そんな無意味な思考を男は永遠にやり続けそうなくらいやっていた。
ハッ…!わかっていたはずだ…!
一旦俺の姿を見たりすればなにか思い出すんじゃないか?
きっとそうじゃないのか!そうに決まってる。
俺は近くに自分を確認できるものがないか探した。ガラスの反射…
カメラ… 人に確認してもらう… 鏡…
そんな思いを持ったまま住宅街に入ると…俺の目に何かが止まった。
カーブ…ミラー?
これならわかるかもしれない!
俺は確認した。自分が誰だかわかるかもしれない淡い期待と、それでも分からないかもしれない心配、早く知りたい焦燥感が入り混じった感覚がした。
「これが…俺?」
カーブミラーに写った"俺"は
背丈が170程あり、顔が塩顔で、見た目はどうしたって大学生だった。嘘だろ… しかも、何故だ、こんなにはっきりしているなら何かしらは理解るはずなのに、何もわからないままだ。
俺は自分の姿を見て泣いた。何故だか分からないが、涙がこみ上げてきた。自分がまだ分からないから悔しいのか、それとも何かを"思い出しかけてる"のか、どうなのだろう、それすらも分からなかった。
「お兄さん今なにしてるのー?」
警察官だ…。そりゃそうか、今の俺はちょっと"普通"じゃないからな
職務質問はされるよな。
「散歩です。」
「そうですか、こんな時間に珍しいですね。」
「そうですかね。」
「ところで、国籍はどちらですか?」
「日本だ…日本人だ。」
「はい。」
「じゃあ、次にお名前の確認を…」
!!
俺の名前はなんだ。わからなかったままのはずだ。
「あれ…?あなた首のところのネームプレートどうしたんですか?」
??
なんだ…?ネームプレートって、そんなもの知らない。
俺の首にはへんな凹みがあるが、それが関係ありそうだな。
でも、どうしてネームプレートなんかを?
マズいな…
「あー、いや今外してるんです。」
「どこか病気…ですかね?」
「あ…………この前、アレルギーになったんですよ。」
「ああ、そうですか。確かに病気とかになるとネームプレートは治療の邪魔になるので、外して大丈夫ですもんね。」
「はは…。」
警察官を誤魔化せた俺は、少しホッとした。
「あ、そうそうお名前はなんていうんですか?」
しまった!油断していた…!
「俺の名前は…」
ーーーーーーーー2038年3月8日ーーーーーーーーーーーーーーーー
ニュースが流れている。
「次のニュースです。先日、日本の法律が、変更されました。
日本の、名前の制度が大きく変わりました。
まず、名前を記した"ネームプレート"の埋め込みの義務化です。これは、名前を周りの人に認識してもらうことで、キラキラネームの防止、偽名の防止に繋がるという意味がこめられています。これは本日より施行されます。また、"偽名"に関して凄くきびしくなりますので、ご理解を。
次に、名前からの個人情報の漏洩についてです。これは警察が、対策をしてくれる為ご安心してください。この具体的な内容に関しては現在検討中だそうです。
次のニュースは………………………」
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「俺の名前は…」
「う〜ん、今までは"任意"だったんですが、なにせ"3年前"に憲法が新しく追加されまして、"義務"になったので、できれば早めにお答えくれることを願っています。」
どうする…とりあえず周りをみて、考えろ、何かいい感じの誤魔化せそうな名前のアイデアはないか…。
あ…!これだ。犬のポスターだ!
「…………ミヤ」
「ほう、ミヤさん、変わったお名前ですね。
名字ですか?名前ですか?」
「名前だ…名字は…」
どうする…どうする…咄嗟に言ってしまった…。
まずいな、とりあえず思いついたやつにしよう。
「南だ…南ミヤだ。」
「はいはい、南ミヤさんねー、ん、!?」
な、何だ…?何かおかしなことをしたか、
「"南ミヤ"…って名前の人…どこかで。」
まさか!被ることなんか!そうそうないはずだぞ。
落ち着け…何かあったら逃げよう、それでいいんだ。
「あなたもしかして、偽名を使っていませんか?
もし、偽名ならそれ"犯罪"の現行犯ですよ?
昔と比べて今は名前により厳しくなったんでねー。まさかとは思いますけどね…?」
くッ…仕方ねぇ!早く俺の"本名"そして、"記憶"を取り戻さねぇと!犯罪者になりたくねぇ!逃げてぇ!だか、逃げたら酷いことになるかもしれない…。しょうがない。
「はい、偽名を使いました…。」
「やっぱり…そうだと思いました。なら、現行犯ですね…。
ところで、前科はありますか?」
「ありません。」
「なら、"初犯"ですね… 実は
初版なら"猶予"があるんですよ!」
何ッ…?
「何だ…?猶予って…馬鹿にしてんのか…?」
警察官はすこし驚いた。
「おや…?ご存知ないですか、実はこの法律3年前に出来たばかりなので、まだ完全に名前に関して厳重に対応するのは出来ないんですよ。そこで、"猶予"という形で、"厳重に対応できるまでの間"限定かつ、"初版"の時だけ、少しの間だけ見逃してあげる…ということです。」
「何に対しての"猶予"だ…?」
「ああ、それは"あなたが自分の'本名'を我々警察官に伝えられる"までの期間です。」
俺は驚いた。が、同時に安堵した。よし…じゃあ猶予までの間に俺の
"本名"と"記憶"を手に入れる。それでいいんだ…!
「それで…"猶予"はいつまで…?」
「38日間です。」
なるほど、38日あれば、なんとかなりそうだ。
「わかりました。38日後"本名"を伝えます。」
「はい。ご協力ありがとうございました。」
探せ…俺の"本名"を!そして…記憶を!