8/260
八告目 清水郁己 1
放課後、滝村涼香は清水郁己に声をかけた。
「清水くん、ちょっと話をさせてもらっていいかしら?」
「え? うん……何?」
普段接点のない滝村涼香に話しかけられたことで清水郁己は浮かれているように見えた。しかし滝村涼香にその優越感に浸る余裕は今は無い。
「清水くんはその……シニコクって何なのか知ってるの? 知ってれば教えてほしいんだけど」
「前に黒板に書かれていた落書きのこと?」
「落書き? ああ、あれね。でもさっきは鷹翔を見てそう言ったでしょう? 別の意味があるんじゃないの」
しかし滝村涼香の指摘に、清水郁己は言葉を濁す。
「うん。だけどここでは、ちょっとその……後で視聴覚室に来てもらっていいかな?」
清水郁巳の部活は映像研だった。別の教室に呼ばれるという状況に、滝村涼香は一瞬柊修二のことを思い出して顔が曇る。
それを別の意味に取ったのか、慌てて清水郁己がつけ足す。
「ああ、変な意味じゃないよ。心配なら誰か一緒に来てもらってもいいし」
滝村涼香は後藤柚姫に言って一緒に来てもらうことにした。放課後は図書室にいると分かっていた。