六告目 滝村涼香 2
数日後、入浴を済ませて部屋に戻った滝村涼香はドレッサーの鏡の前で声を上げた。
「えっ? 何よこれ、どういうこと?」
鏡の中の彼女の顔に、赤い線が浮かび上がってきたのだ。左頬の耳のそば、縦に10センチぐらいの長さだった。それは傷のようにも見えるが、触れてみても凹凸やしこりはない。そして不思議なことにその赤い線は彼女の見ている前で徐々に薄くなりやがて消えた。
これはいったい何なのか? わからないまま滝村涼香は照明を消しベッドに入った。しかしやはり気になってなかなか寝付けなかった。
翌日、滝村涼香は普段通り登校した。それでも昨日の赤い線が気になって見えないように髪を下ろしている。教室に入って挨拶するとクラスメイトがみんな挨拶を返す。
「あれ、涼香ポニーテールやめた? 何かあったの?」
そんな中で西木千輝が声をかける。同じバスケ部で滝村涼香の取り巻きのひとりだ。
「ただのイメチェンよ。部活ももう引退したし」
「ふーん、涼香はお嬢さまだからそういうのも似合うね。うらやましいなー」
そのとき滝村涼香は西木千輝の首に赤い線があることに気づく。
「千輝、首のそれ、それどうしたの?」
「ああ、これ? 夕べ気がついたらあったのよ。だけど別に痛くもないし、放っておくと勝手に消えるんだよね。本当、何なんだろ」
西木千輝はそう言って笑うが滝村涼香の顔は強ばる。何故彼女に自分と同じものがあるのか。
教室に後藤柚姫が入ってくる。
「おはよう。あれ? 涼香、髪型変えたの?」
「う、うん、ちょっとね。変かな?」
「いいんじゃない。大人びた雰囲気っていうのかな」
後藤柚姫は成績上位者の常連で国立大学を目指す才媛だ。家は書店を経営していて自分も図書委員という本の虫だ。
滝村涼香は何とは無しに後藤柚姫を観察した。しかし彼女のどこにもそれらしいものは見当たらない。ならば自分たちと彼女の違いは何なのか、滝村涼香はそれを考えずにはいられなかった。