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三十一告目 波紋 5
夏休みになっても学校の体育館には部活の声が響いている。
暇を持て余した西木千輝は後輩の指導にかこつけて学校に出て来た。しかし体育館に向かう渡り廊下で、沖野緑子に呼び止められる。彼女は隣のクラスだがバスケ部の副キャプテンで、ムラっ気のある滝村涼香をサポートするチームの要だった。
「どうしたの、ドリ?」
「千輝、悪いけど帰って。それともう部活には顔を出さないで」
中庭に場所を変えたあと沖野緑子は開口一番そう言った。今まで西木千輝が見たことのない冷たい表情だった。
「えっ、何でそんな……」
「今は出てないみたいだけど……千輝のそれ、シニコクの呪いなんでしょ?」
沖野緑子の視線は探るように西木千輝の首筋を見ている。
「あ、それは……」
「説明はいらない。私も調べたから。人には訊けないから苦労したけど」
(調べた? シニコクのことを?)
「私が何で調べようと思ったか千輝に分かる?」
怒りを押し殺した沖野緑子に気圧されて、西木千輝は無言で首を振る。
「私にも出てきたの。ここにね」
そう言って沖野緑子は脇腹に線を引く真似をして見せた。




