三十告目 波紋 4
「いじめ? いじめって何よ。グズ美のこと言ってるの? 嘘告なんて遊びじゃない!」
「遊びかいじめかを決めるのはあんたじゃないでしょ。馬鹿なの?」
言いながら荻野海渚が西木千輝の顔をのぞき込む。
「だったら今海渚があたしにしてるこれは何なのよ! 何が違うっていうのよ!」
「アタシと千輝ち~の違い? あんたにはコレがあってアタシには無いってことよ」
そう言って荻野海渚は指で自分の首に線を引く真似をする。それを見て西木千輝も自分の首に手をやる。また出ていた? そう言えば店長にもちらちらと首筋を見られていた気がする。
「あんたのそれ、シニコクの呪いってやつなんでしょ? だから知らない人に教えてあげたの。それがどんな意味なのかをね。あ~いいことしちゃった」
西木千輝もようやく影の意味すること、その重大さを実感する。これから自分は成績や性格などよりまず先に、嘘告をした人間つまりはいじめの加害者という目で人から見られることになるのだということを。
「海渚、あんた……最低よ!」
それだけ言い残して西木千輝は荻野海渚に背を向ける。
「負け犬の遠吠え? リアルざまぁってやつ? めっちゃ笑える! 大体あんな証拠いつまでも残しておく方が悪いのよ! ねえ、聞いてんの~」
後には荻野海渚の高笑いだけが残る。
しかし成人後、荻野海渚の顔にも赤い影が浮き出るようになる。そのせいで彼女はトラブルを起こし職を転々とした末、他県の工場に派遣で勤めることになる。