二十八告目 波紋 2
日曜日、西木千輝は市内のドーナツショップに足を運んだ。夏休みの間ここでバイトさせてもらうことになっていた。今日は親の承諾書を店長に届けにきたのだ。
しかし店に入ってすぐ、西木千輝はスタッフルームで店長に頭を下げられた。
「ぼくの知らないうちに別の子が先に決まっていたみたいなんだ。申し訳ない」
「えっ、どういうことですか? 昨日電話した時はそんなこと言ってなかったのに」
「田宮君が別の子を採用してたらしいんだ。それを言われていたのをうっかり忘れていてね」
店長も古株のバイトには強く言えないようだ。しかし納得できる話ではない。
「じゃあ駄目なんですか? 何なら他の店でも」
「いやそういう訳には……とにかくそういうことで」
話を一方的に打ち切られ部屋から追い出される。すっかり予定が狂ってしまった。バイト代で新しい服やスニーカーを買う予定だったのだ。
「あれ? 千輝ち~じゃん、どうしたの暗い顔して」
店を出ようとしたとき、荻野海渚が声を掛けてくる。彼女は同じクラスにいる暮林夏凛の取り巻きの一人だ。
「別に……何でもないわよ」
「バイト断られたんだ? だっさー。まあ、自業自得ってヤツじゃない?」
「何で知ってんのよ? あ、まさか割り込みしてきたバイトってあんたなの!」