二百五十七告目 黎明にはまだ暗く 6
西木千輝が私服に着替えて建物の外に出ると、向かいの建物から怒声がして銃声がそれに続く。隣にいる佐島鷹翔と視線を交わして建物に急ぐと、中には足を撃たれて床で悶え苦しむ小隅徳久がいた。その横には手足をロープでベッドに固定された裸の女がいる。
目隠しをされ大の字になった彼女は荒い息で胸を上下させている。彼女の口元にも赤い影がありそれが理由でここに連れてこられたということが分かる。
ベッドの側にはローソクや鞭などのSMグッズが散乱していた。他にもアイスピックやナイフなどの刃物もある。見れば彼女の手足にはそうしたものでつけられたいくつかの傷がある。西木千輝は小隅徳久が女の扱いが雑だと言われていたことを思い出す。
(でもこれはそういうレベルじゃないでしょ。もしあたしが代わりにこんな目に遭ってたら……うわぁ)
「すみませんがお二人に彼女の介抱を頼みます。俺と兄貴は他を見てくるので」
そう言って君成歩三男と信岡玄が小隅徳久を引きずって部屋を出る。
「とりあえずロープを切って、か。なあ千輝、後はどうすりゃいいんだ?」
「服を着せて……その前にお風呂かしら? ちょっと鷹翔! 先に毛布で隠してあげなさいよ! 役得だからって、そんなに巨乳が気になるわけ? 何よ、チラチラ見て」
「見てねーよ! 気にしてんのはお前のほうだろ!」
佐島鷹翔をからかいながら西木千輝はお湯を張りに浴室に行く。佐島鷹翔はナイフを手に取ろうとしゃがみこむ。
「っと、その前に毛布か。千輝のやつも気にしすぎなんだよ、ったく」
それを聞きながら女は二人の名前を心の中で反芻している。
(……たかと……佐島鷹翔? ……ちか……西木千輝……)