二百五十五告目 黎明にはまだ暗く 4
「牛島? なんであんたがここにいるのよ!」
「つれねえな。あんなに貢いでやったのに。まあその貸しを返してもらおうと思ってな」
部屋に入ってくる牛島剣矢から少しでも離れたくて西木千輝は壁に体を寄せる。知らずあらわになる彼女の脚に牛島剣矢は好色な視線を注ぐ。
「聞いたら知り合いだって言うからよ。お客第一号に呼んだんだ。あんたも会いたかっただろ?」
入口に立ったままの小隅徳久がにやにや嗤う。
「冗談じゃないわ、だれがこんな奴! 君成、さんはどうしたのよ。まさか殺したんじゃないわよね」
「そこまでじゃねぇよ。結束バンドで後ろ手に縛って転がしてあるだけだ。オレたちが楽しむ間ぐらいは邪魔されたくねぇからな」
「馬鹿じゃないの? 金谷とかいうやつ捕まったらしいじゃない。あんたもこんなことしてる場合じゃないんじゃないの?」
「……それを知ってるってことはやっぱりシンゲンが金谷を売ったんだな。ふざけやがって! まあいざとなったらあんたを人質に逃げるだけだ。シンゲンのお気に入りのようだからな。
じゃあオレは先に他の女のところに行くわ。牛島もせいぜい可愛がってやれよ」
そう言って小隅徳久はドアを閉める。後には部屋に牛島剣矢と西木千輝がふたり残された。
西木千輝を視姦しながら牛島剣矢がゆっくりと服を脱いでいく。何とか時間を稼ごうと西木千輝も話しかける。
「……まさかあんたたちが知り合いだったなんてね。類友ってやつかしら」
「小隅さんは族の先輩だ。よくつるんで悪さしたもんだよ」
「その癖が今も抜けないってこと? その年で恥ずかしくない?」
「うるせぇな。面白おかしく暮らせればそれでいいんだよ」
「そんなこと言ってると、あんたもいつかツケを払うことになるわよ」
「うるせぇって言ってんだろ! ……だったら何だよ。そのせいで……ああそうだよ。だからお前にこいつを消してもらいに来たんだよ!」
そう叫んで牛島剣矢が西木千輝に腹を突き出して見せる。
「えっ、それって……まさか?」
牛島剣矢の腹部には三本の赤い影が浮き出ていた。そしてそれは「シ」というふうに読めなくもなかった。