二百五十四告目 黎明にはまだ暗く 3
「どんなふうに生きてもいい。ひとりで抱え込まないで人を頼ってもいい。でも頼りすぎてもよくない。……難しいわね」
「今すぐ結論を出すこともありません。悟っても迷っても一生、そういうことです」
そう言うと君成歩三男は立ち上がった。2時間おきに他の部屋の様子を見に行くのだ。
「そう言えば他の捕まった子はどうなるの?」
「影持ちならあんたと一緒に保護します。兄貴もそのつもりです」
「保護? それは誰が?」
「詳しくは兄貴が来てからで。ああ、逃げるとは思いませんが一応手錠を」
「分かってるならいいじゃない。何でいまさら……」
「平等に扱えって兄貴に言われてるので。戻ってきたら外しますから」
「こんな平等ならいらないわよ、もう!」
西木千輝が手錠でベッドと手をつなぐのを見届けて君成歩三男は部屋を出ていった。
「悟っても迷っても一生か……」
部屋に残されて西木千輝は独りごちた。
家族に愛されたい、友だちに見てもらいたいという気持ちで昔は前に出ることばかり考えていた。そしてシニコクの呪いをうけたとき自分の生き方を否定されたような気がして絶望した。
しかしその後にアルバイトや仕事を通じてそれだけが人に認めてもらう方法ではないと学んだ。閉じた狭い場所で窮屈に生きなくてもいいと知った。そして佐島鷹翔に再会して一緒に暮らすことになり、結ばれて赤い影の呪縛からも解放された。
そう思った矢先にそのせいでヤクザに攫われ、さらに今度はシニコクから人を救えと言われる。思えば迷ってばかり翻弄されてばかりの人生だ。
玄関のドアが開く音がする。しかしそこに人が争う声が重なって聞こえる。
(えっ? 何が起きてるの!)
聞こえても西木千輝は手錠があるため逃げることができない。
そして君成歩三男が引きずられユニットバスに押し込められるのが音で分かる。西木千輝はベッドの上で身を固くするしかない。
「よお、いい格好だな。ほら見てみろよ」
部屋のドアが開くとそこに立っているのは小隅徳久だった。
「へえ、そそるねぇ。こういうのも」
そして小隅徳久に促されて顔を覗かせたのは牛島剣矢だった。