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シニコク~4259  作者: 桜盛 鉄理
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二百五十一告目  悪は裁かず 34

 新当絵馬のいる娯楽室のドアが開いて複数の人の入ってくる気配がする。

「じゃあはじめるぞ。いいな?」

「はい……」

 目隠しをされているもののそれが信岡玄と新当桂馬の声であることが彼女にも分かった。側には君成歩三男もいるのだろう。

 他に音のない部屋に服を脱ぐ音だけが聞こえる。次に新当絵馬に向かって歩いてくる裸足の足音が聞こえそれは彼女の後ろ正面で止まった。

(わたし……ついに玄さんに抱かれるんだわ。理由が何であれずっとこうなりたかったんだもの。後悔なんてしてないわ。ああ、早くきて! さあ早く!)

 新当絵馬は歓喜に思わず叫び出したくなるほどだったが、そこに立った男は動こうとしなかった。そして絞り出すように一言告げた。

「僕には……やっぱりできません」


「えっ? 桂ちゃん? どうして桂ちゃんが!」

「絵馬、俺がお前を抱くわけがないだろう? それじゃあお前を喜ばせるだけだからな。影持ちのやつは琉星狼にもいるからそいつらにやらせると言ったら桂馬がそれだけはやめてくれと泣いて頼むからチャンスをやったんだ。だったらお前が絵馬を抱けば許してやるってな。

 ……しかし結局お前はそれを活かせなかったな。次にもっといい餌が回ってくるかもしれないと思っているうちに飢えて死ぬ犬と一緒だよ。俺はもうこれ以上は譲らないぜ。やらないならとっとと部屋を出ろ。歩三男、城戸を連れてこい」

「待ってください! お願いします、それだけは! ……やります。絵馬をそんな目にあわせるくらいなら、僕が……」

 意を決して新当桂馬は拘束されて動けない新当絵馬にしがみついていく。

「ごめん、絵馬……もうこうするしか……」

「嫌よ! 桂ちゃん、やめてこんな……わたしは玄さんと……嫌っ! 嫌あああ!」



 解放されたあと、新当絵馬は家から200万円を盗んで姿を消した。手を尽くしたが新当絵馬や家族らは彼女の足取りを掴めないまま17年が経過した。



 そして棋界に新当玄馬しんどうしずまという新星がデビューする。総掛かりの乱戦を好み入玉も辞さないその棋風から彼は「餓狼」とか「攻めはSS級」などと呼ばれた。

 それと同時に新当玄馬の生い立ちも耳目を集めた。女手ひとつで育ててくれた母親を早くに亡くし、その後引き取られた擁護施設で将棋を覚え才能を見いだされたのだという。

 賞金を獲得して世間に注目されるようになると、新当玄馬に「自分が父親だ」「母親の血縁だ」と近づいてくる人間が現れるようになるがDNA鑑定を持ちかけると誰も応じようとはしなかった。


 そのうちに新当玄馬は将棋イベントで度々母親に似た男の人を見かけるようになる。思い切って自分から声をかけてみたが、彼は「ただの将棋ファンだよ」というばかりだった。会社の同僚らしき連れからは「桂馬さん」と呼ばれていた。


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