二百四十七告目 悪は裁かず 30
新当絵馬は信岡玄に犯されてシニコクを伝染されることを望んだ。
「ああ、それでもいいか。お前には別の復讐をしてやろうと考えていたが、お前の赤い影を見るたびに桂馬も自分のしたことを思い出すことになるだろうからな。自分が妹を身代わりにしたヘタレのクズ野郎だということをな」
信岡玄にそうまで言われても新当桂馬は反論しなかった。絞り出すように「済まない」とようやく口にした。
「絵馬のことは僕が一生面倒を見る……ごめん、僕にはそれしか……」
「ううん、いいの。それで桂ちゃんが救われるなら」
信岡玄は新当絵馬を別の部屋に連れて行くように君成歩三男に指示した。
娯楽室に移動した新当絵馬は卓球台に上半身を伏せ尻を突き出すような格好で縛られた。裸にされ目隠しをされている。そうしておいて君成歩三男は部屋を出て行く。信岡玄を呼びに行ったのだろうと新当絵馬は音で判断した。
部屋に一人残された新当絵馬はそれでも口元に笑みを浮かべていた。今の彼女の胸中を占めているのは倒錯した幸福感だったからだ。
(ああ、ようやく玄さんとひとつになれる……わたしのはじめてを捧げることができる……)
新当絵馬は人のものを奪うことに悦びを感じる人間だった。人と同じものを持ちたいという気持ちがはじまりだったが次第にそれは盗癖に変わった。そのことを親に知られてからは盗むものは物品から形のないもの、使える友達や人の功績に変わっていった。努力よりも手っ取り早い成果を得ることに何のためらいもなかった。
新当絵馬のそうした欲望は次に友達の恋人に向けられた。誘惑して友達と別れさせることにゲームのような達成感を感じた。
それでいて男が体の関係を求めようとすると「そんなつもりじゃなかった」と拒否して距離を置いた。自分でそういう状況を作っておきながら、一方でこんな軽薄な男に処女を捧げたくないという思いがあった。現実には人を弄ぶ悪女であったにしても、心では未だに王子様を待つ囚われの姫に自分を重ねているような女だった。