二百四十告目 刑部秀穂 3
「多門真夕貴は僕が預かります。これ以上あなたに好き勝手を許すわけにはいかない」
「ふん、【夜行】なら出張らず裏方に徹しておればよいものを」
「あなたが変な欲を出すからですよ。【神名見】の名の通り辻占でもしてれば見逃したんですが」
「見くびるなよ、若造が! とは言うてもこれまでか……口惜しいがここは退くしか……ある……ま……」
鎌波亥縫は老人の口調でそう言い残して気配を断った。後には抜け殻となった畑中敬がまさに糸が切れた人形という体でごろりと横に倒れる。
静まりかえった宴会場の雰囲気に信岡玄がようやく声を絞り出す。
「何なんだ……何だあいつは? 最後はジジイのようだったぞ」
「傀儡道士がよくやる手です。本当に死んだのは鎌波亥縫で鎌波丹午がその身体を乗っ取ったのでしょう。ある意味若返りと言えるかもしれません」
「じゃああいつは不老不死の化け物かよ! ……しかし刑部と言ったか。いくらあいつの手駒だったとは言え多聞のことは俺は許してねえぞ。急に出て来て横からただかっ攫っていくお前も信用できない」
「まあ普通はそうですよね。でもどうでしょう、交渉の余地はあると思うんですが?」
信岡玄をなだめるように刑部秀穂が口元に柔らかい笑みをうかべる。
「……聞くだけ聞いてやる。何だそれは」
「多門真夕貴と信岡聖の身柄を交換というのはどうでしょう」
「何だと?」